2013年06月12日(水)

ノッツインタビュー 「ギターを持ったマンガ家の唄」(3)

取材・構成:草見沢繁、高瀬司
収録日:2013年3月15日

「ギターを持ったマンガ家の唄」(3)

 

片や初の単行本『クルミくん NO FUTURE』(小学館)を2月に上梓し、『ソラミちゃんの唄』(芳文社)の発売も間近に控えた新進気鋭のマンガ家。片や『ヘルメンマロンティック』(HATCH)でギターを手に甘い歌声を響かせるシンガーソングライター。はたまたミドリカワ書房「大丈夫」のPVを手がける映像作家でもあり、supercellのトリビュートアルバムに参加するボカロPでもある――。

『bonet』では、そんなさまざまなジャンルを股にかけて活躍するマルチクリエイター・ノッツへのインタビューを敢行した。これから全5回に渡り、その多才さを育んだ半生から作品に隠された秘密まで、未だ知られざるノッツの創作の核へと迫る。

 

【第1回はこちら】
【第2回はこちら】

 

SNSのクリエイティビティ

 

――マンガ制作が本格化したのもその頃ということでしょうか?

 

そうですね。その頃はまだmixiが流行っていたので、描いたものはそこへアップしてました。アップするとコメントがつくので、それを読むためにますますマンガを描くという。その後、1~2年した頃にpixivが出てきて、そっちへ移行した感じです。マンガを描くことが加速したのはその頃からですね。

 

――pixivでの反応はいかがでしたか?

 

pixivに投稿したマンガで最初に反応があったのが『レベル99』という卒業式をモチーフにした短編だったんですけど、その作品がタイミングよくいろんな人に読まれて、数日後にはデイリーにランクインしたんです。ランクインの効果って当時はすごくて、一気に大量のコメントがついたんですよ。もう何度も言ってますけど、人から反応があると盛り上がるタイプなのですごくうれしかったですね。

とくにpixivは、ブックマークやコメント、タグと、様々な形でレスポンスを受け取れるじゃないですか。それがモチベーションにつながって、思いついたらどんどん描いてアップしていました。朝の8時に工場に行って、鉄を切りながら物語を考えるんですよ(笑)。仕事が終わってからすぐ家に帰って、シャワーを浴びてオカンの作った飯を食って、あとはひたすらマンガを描くという日々を続けていました。

 

――作風の幅広さというのは意識されていたんですか?

 

pixivでは音楽ネタやセンチメンタルなネタが多いですけど、作風がバラバラなのは、とにかく思いついたらすぐに描いていた結果です。自分が描いた作品に対する反応が知りたいという思いが中心にあったので、反応がもらえれば作風が下ネタだろうがギャグだろうがセンチメンタルだろうが関係なかったんでしょうね。

 

空間芸術と時間芸術

 

――その頃、音楽活動のほうは?

 

もちろん、平行して活動してました。ただ当時はニコニコ動画もまだやってなかったですし、マンガと違って、素人がサイトに音楽をアップするだけではなかなか反応をもらえなかったんですよ。これはある意味インターネットの弊害だと思うんですけど……。

 

――というのは?

 

マンガは空間芸術で、音楽は時間芸術じゃないですか?

僕はその両方をやってたわけですけど、ネットでは圧倒的に空間芸術のほうが伝達が速いんです。表示されやすさをはじめ、イニシアチブの多くがイラストやマンガの側にあると思うんですよ。そうなると自分のモチベーションが保てるのはマンガのほうだなと思うようになって、仕事をしながらマンガを描ければいいかなと思ってた時期がありましたね。

あと、実家に帰ってからようやく自分のオリジナル曲をやるバンドが組めたんです。そのバンドで年に3~4回ライブをやることで、音楽をアウトプットする喜びはある程度クリアできてたんですね。

なので、「このままバンドをやっていったら面白いことがあるかもしれないな」ともうっすら期待しつつ、じゃあ普段は何をしようかとなると、とりあえず思いついたマンガを読んでもらうのが楽しい、だからマンガを描こう、と。

 

――ここまでのお話を聞いていると、マンガや音楽というジャンルに対して特別な執着があるというわけではなく、「ノッツ」を表現するための手段という印象を受けます。

 

そうですね。自分が思いついたことを発表できるのであれば、音楽でも文章でもマンガでも何でもいいんだと思います。とはいえこれまで一番時間をかけてきたのは音楽ですし、ギターやボーカルを練習したり、ノッツバンドとしてライブに出たりと、得意だと自覚しているジャンルではありますね。

 

――ちなみにノッツという名義はいつ頃から?

 

はじめに作ったのはデモテープを送っていた高校の頃です。船の速度のknot(ノット)から取っています。実家が海の近くで、船に囲まれて育ったので。つけたときはのちのちはバンドにするつもりだったので「s」をつけて「ノッツ」にしました……結局ずっと1人でしたけど(笑)。ただCORNELIUS=小山田圭吾[※19]とかAIR=車谷浩司[※20]みたいな例もあるので、1人ユニット名ということでぜんぜん変なことではないとは思っています。

そう名乗ってるうちに、自然とインターネットでもノッツがHNになって、今では完全にノッツ=僕になっていますね(笑)。

 

初音ミクと初音さん

 

――その後の1つ目のブレイクスルーに、ボーカロイド・初音ミクが登場するマンガ『四つ打ちリズムと初音さん』[※21]がありますよね。これはどういった経緯で?

 

実はミクに関してははじめはあまりピンときてなかったんですよ。

ただ発売されて1年くらい経ったあたりですかね、supercell[※22]さんの『メルト』や、ギターの音がフィーチャーされた楽曲などが増えてきた頃から、アンダーグラウンドな活動[※23]なんかも色々と知ってあんまり偏見がなくなってきたんです。

ただそこで自分もミクで楽曲を作ろうとはならずに、初音ミクが現実にいたらこんなことが起こると思うよという想像の話をマンガにしてみようと。ひねくれ者なんで(笑)。

 

――この作品がボカロファンへ与えた衝撃は大きかったですよね。

 

当時は初音ミクを使って暗いマンガを描く人があまりいなかったですからね。それと録音機材の描写が細かく正確だったってところも大きかったのかもしれません。音楽をメインでやってる人目線のリアルな描写が、作品の説得力になって響いたのかなと。
それにしても、あの反響の大きさには僕が一番びっくりしました。

作風が作風なだけに、初音ミクのアンチと思われるのもまずいじゃないですか。だから急いで初音ミクのソフトを買ってきて(笑)、『四つ打ち』の作者なんだなと分かるイラストをつけた自分の曲をニコニコ動画にアップしたんです。何かあっても「あ、ちゃんと(初音ミクを)買ってあげたんだ」って思ってもらえるように(笑)。

ちょっと負い目を感じたところがあったんでしょうね。中には「こういうの無理だー」みたいな純粋な拒否反応もあったりしたので。
多くの人に読んでもらったお礼を兼ねて、自分も初音ミクを買わなければいけないなと。誰が作ろうが初音ミクの新曲が増えることには変わりないのだから、自分がアップすることもたぶんシーンにとっては歓迎するべきであろうと。

……なんですけど、そうしてニコニコ動画をはじめたら、今度はこっちの楽しさに目覚めてしまって(笑)。例によって、コメントという形で反応がもらえることが面白かったんです。

 

――でもボカロPとしてはそれほど活発には活動されてませんよね。

 

そこが難しいところで、初音ミクを使えば反応もわかりやすいだろうということは予想できたんですけど、このスタイルをメインの音楽活動にする気にはなれなかったんですよ。今までずっと1人で、ボーカルも自分がやるってスタイルがメインだったので。

 

――自分が歌うということにこだわりをお持ちなんですね。

 

そうですね。とはいえ、自分の声がめちゃくちゃ好きだってわけでもなくて、自分が歌わなきゃダメなんだという意識よりも、せっかく自分でも歌えるのにボカロの力を借り続ける、ってことに抵抗や申し訳なさがあったんですよ。ボーカロイドシーンの「ボカロ曲として多くの人が聴く土壌が整いすぎている」場からも距離を置きたくて。

そもそも初音ミクに歌わせるのって、自分で歌うより遥かにめんどくさいじゃないですか(笑)。特に僕の場合、メインの作曲環境がMacなので、初音ミクを使うときはWindowsのマシンを立ち上げなきゃいけないという事情もあって。今ではMacでも工夫すれば初音ミクが起動できるみたいですけど、それもめんどうで。なので結局は自分自身のオリジナル曲の制作に戻りました。

たまにお願いされたり、思いついたら初音ミクの曲も作るくらいの距離感で、基本的には自分で歌ってましたね。

 

注釈

 

[※19] CORNELIUS(こーねりあす)
小山田圭吾によるソロ音楽ユニット。映像作品集「SENSURROUND + B-Sides」が第51回グラミー賞最優秀サラウンド・サウンド・アルバム賞にノミネートされたことでも話題になった。

 

[※20] AIR(えあー)
車谷浩司によるソロ音楽ユニット。1996年デビュー。ギターロックを中心とした楽曲で人気を集めたが、2009年に同名義での活動を休止。現在は「Laika Came Back」として活動している。

 

[※21] 『四つ打ちリズムと初音さん』
2008年にpixivで公開されたノッツのストーリーマンガ。初音ミクを音声ソフトが擬人化した存在ととらえ、楽曲制作者であるマスターとの越えられない溝を浮き彫りにしたセンチメンタルな作品。

 

[※22] supercell(すーぱーせる)
コンポーザーのryoを中心としたクリエイター集団。ニコニコ動画に発表した「メルト」(2007年)、「ブラック★ロックシューター」(2008年)などのオリジナル曲でボーカロイドブームを牽引した。2009年メジャーデビュー。ノッツはリミックスアルバム『supercell tribute ~Stowaways~』で「その一秒 スローモーション」のリミックスを担当した。

 

[※23] アンダーグラウンドな活動
ただ歌わせるだけではないボーカロイド使用法や、当時ボーカロイドにあったテクノなどのイメージを排した特徴的な楽曲が2008年より広まった。ニコニコ動画で配信された『VOCALOID・アンダーグラウンド・カタログ』シリーズを参照のこと。