2013年06月14日(金)

ノッツインタビュー 「ギターを持ったマンガ家の唄」(4)

取材・構成:草見沢繁、高瀬司
収録日:2013年3月15日

「ギターを持ったマンガ家の唄」(4)

 

片や初の単行本『クルミくん NO FUTURE』(小学館)を2月に上梓し、『ソラミちゃんの唄』(芳文社)の発売も間近に控えた新進気鋭のマンガ家。片や『ヘルメンマロンティック』(HATCH)でギターを手に甘い歌声を響かせるシンガーソングライター。はたまたミドリカワ書房「大丈夫」のPVを手がける映像作家でもあり、supercellのトリビュートアルバムに参加するボカロPでもある――。

『bonet』では、そんなさまざまなジャンルを股にかけて活躍するマルチクリエイター・ノッツへのインタビューを敢行した。これから全5回に渡り、その多才さを育んだ半生から作品に隠された秘密まで、未だ知られざるノッツの創作の核へと迫る。

 

【第1回はこちら】
【第2回はこちら】
【第3回はこちら】

 

CDデビューへの道

 

 

――そこからCDデビューへはどのようにつながっていったのでしょうか?

 

横須賀でやったライブがきっかけですね。まだ一番最初の会社にいて腐ってたときに、ネット経由で誘いを受けて、そのイベントにゲスト参加したんですけど、そのときの対バン相手[※24]が、後に有名なボカロPになるんですよ。

 

――今ノッツバンドのサポートもされているbaker[※25]さんですね。

 

はい。そのbakerさんが、僕がボーカロイドの曲を発表したときに「覚えてますか?」ってメールをくれたんです。当時HATCHというレーベルに関わっていて。そこからCDを出しませんかという流れになりました。
しかもそのHATCHでは、ボーカロイドにこだわらないインターネットミュージックを発表するというコンセプトで動いているらしく、正直ボカロのCDだったら断っていたかもしれないのですが、「ノッツさんのCDを出しましょうよ」とお誘いいただけて。これを逃したら一生CDを出す機会なんてないだろうと、ヘルメンマロンティック』[※26]というアルバムを制作してリリースしました。2009年のことですね。

 

――売上も好調でしたが、その後2枚目を作ろうという話にはならなかったんですか?

 

「次のCDどうしようか?」という話まではいただいていました。
候補にあがっていたのはニコ動にあげた「サボテンと蜃気楼」[※27]という曲で、もともとはボーカロイド用に作った曲だったんですが、周知されてから今度は自分でも歌うという逆転現象を起こしていた曲です(笑)。ノッツボーカルバージョンもそれなりに好評だったので、じゃあその曲のシングルCDみたいなものを作ってみましょうかと。
ただ企画が動き出そうとしたところで、なんとレーベルが解散してしまいまして……それで企画は白紙となってしまいました。

 

大学ノートからマンガ誌へ

 

――CDリリースと同時に、はじめての同人誌『たくろく!』を頒布されていますよね。

 

リリースの年にHATCHが夏コミに企業ブースを出したんですよ。そのときに「ネットに上げてた宅録マンガ、続きを描いてまとめてもらえませんか?」という話になって描いたものですね。

 

――読んで驚いたのですが、セリフが横書きで、めくりの順番も普通のマンガとは逆方向が想定されてますよね。

 

今までマンガを描いていたのが大学ノートだったからです(笑)。
小学校の頃からクラスのみんなに見せるためだけに描いていたのでそっちのほうが自然だったんですよね。それにpixivだと縦に読むことになるので、違和感がないだろうと思っていました……たまに「なんで左読みなの?」とは言われていましたけど(笑)。
途中の作品からいきなり右読みになっているのは、そこでちょうどペンタブレットを導入して、ComicStudio[※28]を使いはじめたからです。当たり前ですけど、コミスタのテンプレートが右読みだったので(笑)。結果的にはコミスタに「マンガとはこういうものだぞ」と教えられた感じですね(笑)。

 

――そこから今度はマンガ家としてデビューされるわけですけど、『クルミくん』と、『まんがタイムきららMAX』[※29]で連載中の『ソラミちゃんの唄』では、どちらが先に声がかかったのでしょう。

 

『ソラミちゃん』ですね。ちょうどレーベルがなくなって、これからはイベントで自主制作CDを売っていこうと考えていた時期でした。その頃「よかったら『まんがタイムきららMAX』で2話分、ゲスト掲載しませんか?」とメールをいただいたんです。ちょうどそのとき、バンドメンバーと一緒に東京でのワンマンライブを企画していたので、その練習で上京したときに担当さんと打ち合わせして、「やってみます!」と。

 

――打ち合わせで決まった方向性というのは?

 

『きらら』というと『けいおん!』をはじめ、『キルミーベイベー』や『Aチャンネル』などももちろん知っていました。でも僕に声をかけるということは、今までとは違う血を入れたいんだろうなと。
担当さんも萌え4コマというジャンルの枠組みを広げたいと話されていて、ならあまり『きらら』らしくない作品でも大丈夫なんだろうなという辺りから、相談しながら構想を膨らませていきました。

 

――初の商業誌掲載が決まったときはいかがでしたか。

 

絵には自信がなかったし、ちゃんとペン入れをして描いた経験もなかったので、不安はかなりありましたね。それこそ『クルミくん』がコミスタとペンタブを導入して描いたはじめてのマンガで、それ以前はシャープペンで2、3本線を重ねて輪郭をぼやかしていましたから。でもペンの原稿だとそれが通用しないじゃないですか。ごまかしがきかなくなって、自分の絵の下手さが如実に反映されてしまう。そういったマンガ家として当たり前の作業が、自分にとっては一番ハードルが高かったですね。

 

――絵に関する指定というのは?

 

はじめに「絵は下手ですけどいいんですか?」と言ったんですが、担当さんから「絵柄は上手くなる様に色々試していただいて大丈夫です」と言っていただけたので、そこで自由に頑張ってみました。
だから『ソラミちゃん』を1話から読んでいくと、最初と今とでは本当に絵が違うんですよね(笑)。『きららMAX』で一番絵が上達したマンガ家だったらいいなあと思います。
まだまだ同じようにしか描けないんですよね。基本的に高い頭身が描けない。だから『クルミくん』も『ソラミちゃん』も基本的にはデフォルメキャラなんですよ。IKKI公式サイト『イキパラ』[※30]で描いている『カタワレノワレワレ』という作品では、意識して等身が高めになるよう努力しています。

 

注釈

 

[※24] 対バン
同じイベントで複数のグループまたはソロアーティストが競演すること。

 

[※25] baker(べいかー)
ニコニコ動画で「サウンド」「cellloid」など、ボーカロイド楽曲では当時珍しかったバンドサウンドをフィーチャーし人気を得たボカロP。2009年に同名義でメジャーデビュー。現在はコンポーザーのほかDJとしても活動している。

 

[※26] 『ヘルメンマロンティック』
2009年に発売されたノッツ初の全国流通アルバムCD。レーベル解散を受け、現在は廃盤。

 

[※27] 「サボテンと蜃気楼」
2009年、サークル「捻れたアヒル」による「アヒルホスピタル」に収録された「若干P」名義の楽曲。2010年にニコニコ動画で公開され話題となった。

 

[※28] ComicStudio
株式会社セルシスによるマンガ原稿制作ソフト。スクリーントーンやフォントなども豊富にそろっており、マンガ制作の全工程がPC上で完結できる。

 

[※29] 『まんがタイムきららMAX』
芳文社発行の4コママンガ雑誌。毎月19日発売。

 

[※30] イキパラ
『月刊IKKI』の公式サイト。ノッツは現在、同サイト内の『WEBイキパラCOMIC』で『カタワレノワレワレ』を連載中。