2013年06月18日(火)

ノッツインタビュー 「ギターを持ったマンガ家の唄」(5)

取材・構成:草見沢繁、高瀬司
収録日:2013年3月15日

「ギターを持ったマンガ家の唄」(5)

 

片や初の単行本『クルミくん NO FUTURE』(小学館)を2月に上梓し、『ソラミちゃんの唄』(芳文社)の発売も間近に控えた新進気鋭のマンガ家。片や『ヘルメンマロンティック』(HATCH)でギターを手に甘い歌声を響かせるシンガーソングライター。はたまたミドリカワ書房「大丈夫」のPVを手がける映像作家でもあり、supercellのトリビュートアルバムに参加するボカロPでもある――。

『bonet』では、そんなさまざまなジャンルを股にかけて活躍するマルチクリエイター・ノッツへのインタビューを敢行した。これから全5回に渡り、その多才さを育んだ半生から作品に隠された秘密まで、未だ知られざるノッツの創作の核へと迫る。

 

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宅録ガールと宅録ボーイ

 

 

――『ソラミちゃん』は主人公が宅録をしているなど、ノッツさんご自身の経験が直に投影されていますよね。

 

連載をはじめるにあたって様々な案がでたんですけど、自分の得意分野でやってみたいという気持ちが強くあったんです。今まで女の子が自宅録音するというマンガはなかったと思いますし。

 

――登場する女の子4人のキャラクターはどのように作られたんですか?

 

基本的にはちゃんと絵が描き分けられるかどうかですね(笑)。もちろん、それぞれに役割を割り振ってもいます。たとえばネモちゃん[※31]はソラミちゃんの音楽が好きというキャラクターが必要だろうと思って作りました。またそれなら同時に、ソラミちゃん(=作り手)とネモちゃん(=聴き手)との距離にジレンマを抱いていないとダメだな、とも。
つまり、曲が好きだから本人に会いたいんだけど、自分と接することによってその人の作風が変化することを恐れてしまう、という考えです。そういう考え方は絶対あると思います。

 

――それは長くネットで活動されてきたノッツさんならではの視点ですね。

 

人との距離って縮めることも大変だけれど、一度縮めてしまったら、今度は広げることも難しいと思うんですよ。本当はもっと知りたいし近づきたいけどそれが怖くて距離を保っている、という人っていっぱいいると思います。その人が好きだからといって、何も考えずにすぐ会いに行くっていうのは危険だなと。そういった裏設定はいくつか考えてあります。
裏設定といえば、各キャラクターの幸福度も最初から考えて図も作りましたね。この子は幸せというにはちょっと遠いかもしれないけど自分の才能ややりたいことがわかっている、とか。この子は幸福ではあるけどやりたいことがわからない、とか。もう少し続いてそういった葛藤まで描くことができれば、作品に深みが出せるのかなと思います。

 

5年後のノッツ

 

――『クルミくん』単行本化を経て、『ソラミちゃん』の第1巻の発売も間もなくと思います。そこでマンガ家はもちろんそれ以外の活動まで含めて、5年後にはどうなっていたいと思いますか?

 

5年後は……その頃まで東京にしがみついていたいですね(笑)。僕が実家から出てきたときの話なのですが、いい年して東京に出たいと両親に話したときに「4~5年経ってうだつが上がらなかったら帰ってこい」と言われたんです。5年後というとちょうどこのタイムリミットなので、それまでに仕事を軌道に乗せたいですね。

 

――では最後に、マンガと音楽に関する今の気持ちを教えてください。

 

音楽をやるには大変な時代ですし、今から劇的な展開があるかどうかもわからない。でも音楽を真面目にやっていることは僕の強みだと思うんですよ。マンガ家として、音楽的な描写を詳しくできることは付加価値じゃないですか。音楽誌の『サウンド・デザイナー』[※32]さんで連載している『たくろくガールズ』なんかがその結果ですね。普通のマンガ家ではなかなか描く機会がない音楽誌で連載を持つことができた。ほかにも新しい音楽機材のレポートマンガとか描けると思います。具体的な話はまったく来てませんけど(笑)。そういう形で自分の技術をマンガに反映できればうれしいですね。
今の自分の状況は、夢に描いていたような幸運なものですし、マンガに限らず今は与えていただいたお仕事を夢中でやるしかないなと思っています。

 

『ソラミちゃん』誕生秘話

 

――最後におまけコンテンツとしていくつかこぼれ話を。『きらら』のマンガで好きな作品はありますか?

 

最近まで一緒に連載してた『アキタランド・ゴシック』は大好きでした。作者の器械先生[※33]は頭がおかしい(笑)。あとはFBC先生[※34]の『スイーツどんぶり』という作品が、めちゃくちゃ絵が上手くてギャグの勢いもあって読み応えがありますね。

 

――『きらら』以外で好きな作家/作品というと? 大学時代には山川直人先生が好きとのことでしたが。

 

『日本の夏、天狗の夏。』の藤本和也[※35]さんですね。すごくかわいい絵なんですけど、話がセンチメンタルだったり、ちょっとエッチだったりするんですよ。あとは志村貴子さん[※36]の『敷居の住人』も大好きです。これもセンチメンタル成分がすごく好きで。ああいう読後感が描けたらいいなという風に思ってます。

 

――『ソラミちゃん』にもボツ設定などあったのでしょうか。

 

自宅録音をしている女の子、ということが決まった後にも2つ案がありました。1つは引きこもりで、もう1つはヤンキー(笑)。あと僕が一番最初に提出した案は、ほとんど今の『ソラミちゃん』と同じ登場人物なんですけど、ソラミちゃんの下半身は触手、という設定で(笑)。

 

――火星人みたいな?

 

宇宙人と人間との間に生まれた女の子で、通常は普通の足なんですけど、油断するとだんだん下半身が触手になってしまうんです(笑)。母親が宇宙人なんですけど、母星に行けば変化が抑えられる薬があるということで、母親が宇宙船に乗って取りに行っている、という設定でした。そこでのソラミちゃんも同じく1人で留守番をしている浪人生で、受験勉強が終わって春がやってきた頃には母親が薬を持って帰ってきてくれるという話です。宇宙船に自分が作った曲を送信したりできるし、いいかなと思って提出したんですけど、「『きらら』で触手はマズイ」と却下されました(笑)。

 

――『ソラミちゃん』がアニメ化した暁には、作者自らが音楽を担当して再デビューという道もありますよね。

 

また逆転現象ですね(笑)。最初に『四つ打ちリズムと初音さん』をマンガで描いて、それがきっかけでボカロPとして発表した動画を作って音楽の世界でデビュー、そこから今度はマンガ家になっちゃったわけですから1回転しているんですよ。もし今後マンガ家として認知されて「実は音楽やってたんです」ということでまた逆転現象が起これば、それはそれでうれしいことですね(笑)。

 

【おわり】

 

注釈

 

[※31] ネモちゃん
『ソラミちゃんの唄』に登場するキャラ。主人公・ソラミがネットにアップした楽曲のファンになり、ソラミ宅に押しかけて以来、ほとんど居候の状態になった。いつも「歩ける寝袋」を身につけている。

 

[※32] 『サウンド・デザイナー』
ギタリストのための宅録情報雑誌。毎月9日発売。ノッツは同誌で、同人誌『たくろく!』のキャラクターが登場する4コママンガ『たくろくガールズ』を連載中。

 

[※33] 器械(きかい)
マンガ家。コミティアなどを中心に同人マンガ家として活動し、2011年に『アキタランド・ゴシック』(芳文社)で商業デビュー。

 

[※34] FBC(えふびーしー)
マンガ家・イラストレーター。2006年に初単行本『ラグナロクオンライン -普遍の冒険と挑戦者-』(エンターブレイン)が発売。以来、コンピューターゲームのコミカライズのほか、オリジナル作品やライトノベルの挿画などでも活躍している。

 

[※35] 藤本和也(ふじもとかずや)
マンガ家/イラストレーター。『月刊タルワキ』『何の雑誌』などの同人誌を中心に作品を発表している。代表作に『日本の夏、天狗の夏。』(宇宙出版)がある。

 

[※36] 志村貴子(しむらたかこ)
マンガ家。代表作に『敷居の住人』『放浪息子』などがある。2009年J.C.STAFFにより『青い花』が、2011年にAIC Classicにより『放浪息子』がそれぞれTVアニメ化された。