2013年07月25日(木)

『たまゆら〜もあぐれっしぶ〜』
田坂秀将プロデューサーインタビュー
「半歩と半歩で一歩の成長になる」(前編)

取材日:2013年7月4日
取材場所:タバック
取材・構成:高瀬司

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 2010年11・12月のOVA『たまゆら』、2011年10-12月のTVシリーズ『たまゆら~hitotose~』に続く、TVシリーズ第2期『たまゆら~もあぐれっしぶ~』が2013年7月から放映開始された。『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』『ケロロ軍曹』『カレイドスター』『ARIA』と、数々のヒット作を手がけてきた佐藤順一による待望の最新監督作品だ。
 父親の遺したカメラを手に夢を探す沢渡楓(CV:竹達彩奈)を中心に、楓の幼なじみでポプリ作りが趣味の塙かおる(CV:阿澄佳奈)、パティシエを目指すムードメーカー岡崎のりえ(CV:井口裕香)、おっとりとした性格の口笛吹き桜田麻音(CV:儀武ゆう子)ら少女たちの日常を、心地よく流れる時間の中で繊細に描き出すハートウォーミングな物語。舞台である広島県竹原市でのイベントも盛況で、「聖地巡礼」の成功例のひとつとしても注目を集めている。
 bonetでは、そんな『たまゆら』シリーズをめぐる連続インタビュー企画を敢行した。第一弾は『うみものがたり』から佐藤順一監督とタッグを組む松竹の田坂秀将プロデューサー。第2期の見どころをめぐってお話を伺った。

成長に寄り添い流れる時間

―― 6月30日に銀座は東劇で行われた先行上映にもお邪魔させていただきましたが、大変な盛況でしたね。OVAや1期からのファンにはうれしく、また新規の視聴者へも配慮された第1話だったと感じました。
田坂 ありがとうございます。『hitotose』から1年7ヶ月ぶりの放映ということで不安なところもあったのですが、客席からもとても良い反応をいただけて安心しました。『もあぐれっしぶ』の第1話では、1期から間が空いてしまった分これまでの内容を振り返っていただきながら、しかしただの総集編では物足りないと思い、新しい『たまゆら』を感じさせる流れも組み込んでいます。ここから新シリーズへの期待を高めていただければうれしいですね。
—— 今回の『たまゆら~もあぐれっしぶ~』のお話を伺う前に、あらためて『たまゆら』シリーズがどのように動き出したのかというところから振り返れたらと思うのですが。

田坂 初めに企画を立てられたのは佐藤順一監督でした。『うみものがたり~あなたがいてくれたコト~』も終盤に差しかかった2009年秋くらいのことですね。
 『ARIA』シリーズのスタッフでもう一度集まって作品を作りたいとご提案いただきまして。その時点ですでに「写真をテーマとした女の子の物語」という大枠の部分は決まっていました。
—— 初めはOVAでの発表となりましたが、企画当初からTVシリーズも視野に入れられていたのでしょうか?
田坂 そうですね。もしOVAを受け入れていただけたら、その後はTVシリーズで、1年生、2年生と楓たちの高校生活を順に追っていけたらなと。特にシリーズを通して楓たちが成長していく様を一緒に感じてもらいたかったため、1年生・2年生・3年生を、1期・2期・3期と分けて続けていきたいという発想もその頃からありました。ですから続編のTVシリーズ化が決まったときはうれしかったですね。
 またその点で言えば、『hitotose』の第1話は私にとって特別なエピソードでした。楓が横須賀から子どもの頃遊んだ竹原へ、様々な想いを胸に戻ってくるというストーリーラインでしたが、それを観たとき、そこでの楓の気持ちと、もう一度『たまゆら』という作品に戻ってこられた自分の気持ちが重なったんです。『たまゆら』には良いエピソードがたくさんありますけど、この回にはストーリーの内容以前に特別な思い入れがあります。

楓たちを見守る視線

—— 第2期『もあぐれっしぶ』の第1話はいかがでしたでしょうか。第1期は軸として、初めは目標を持っていなかった楓たちが自分のやりたいことを見つめ直していくという物語が展開されていましたが、2期の第1話では、その目標へ向かってより具体的に努力を始め前進してゆく様子が伺えました。

田坂 「頑張る楓ちゃん」というのは2期のテーマのひとつですね。『hitotose』ではみんなが朧気ながらも「こんなことをしてみたい」という目標を見つける半歩の成長がありましたけど、今回もまた新たな頑張りやチャレンジを通じたもう半歩の成長を描けたらなと。そうすれば半歩と半歩で、一番初めから比べると一歩の成長になるじゃないですか。
 サブタイトルの「もあぐれっしぶ」も、そうしたさらなるチャレンジという意味合いを込めて付けました。OVAや『hitotose』でも、楓は頑張るときによく「あぐれっしぶ」という言い方をしていましたけど、『もあぐれっしぶ』ではそうした姿をより深く描いていきたいなと。
 また2期でこだわったもうひとつの点に、楓と父親との関係性の掘り下げがあります。個人的に、『hitotose』での第1話や第7話、第12話のような父親の関わるエピソードをもっとしっかり観たかったということもあったのですが、1期を製作していく中で、製作委員会のメンバーやスタッフによる楓の見方が、可愛い女の子を眺めるというよりも、「娘」を愛するような気持ちに近いことがわかってきて(笑)。なので「娘萌え」も、「頑張る楓ちゃん」と並ぶ2期のテーマのひとつになっていますね。もちろん作品の楽しみ方は観てくださる方により様々ですけど、父性を持って自分の娘のように見守るという観方でも楽しめる作りになっているのではないかと思います。
—— 「父性」という視点は、第1話作中の「(お父さんは)楓たちを応援するのが趣味なんだ、っていつも言ってたから。力いっぱい応援してると思う」という台詞によっても明言されていましたね。ただ他方で、佐藤順一監督というとこれまでは少女向けのアニメを数多く手がけてこられた作家です。その点で言えば、「父性」が強調されるのは初めてのことではないでしょうか。
田坂 そうかもしれません。ただ佐藤監督の描く女の子たちは、いつもすごくピュアで瑞々しい心を持って動いていたじゃないですか? その意味ではこれまでも、視聴者の年齢や性別にかかわらず、佐藤監督の作品からは知らない間に父性を刺激されていたのではないかと思います。
 例えば「ツンデレ」という言葉が定義されたのは10年くらい前のことだと思いますが、もっと昔から普遍的に描かれてきたものですよね。それと同様に、改めて「父性」がテーマとして選ばれたこともあくまで、佐藤監督の作品に元々存在していた、努力する女の子を応援したいという気持ちが意識化された結果なのではないでしょうか。
―― 佐藤監督作品の中に潜在的にあった「父性」を刺激する側面が前景化したのが『たまゆら』であると。
田坂 そうですね。『カレイドスター』にも『ARIA』にもあった、登場人物を応援しながら観られる側面が、『たまゆら』ではより強く出ているのかなと思います。