2013年10月16日(水)

アニメのゆくえ201X→ 第3回
でじたろう氏インタビュー「混沌のアニメ業界に輝くクリエイター集団の輪郭(エッジ)」

取材日:2011年10月
取材場所:ニトロプラス
取材・構成:前田久・草見沢繁・平岩真輔
初出:2011年12月28日

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011年、『魔法少女まどか☆マギカ』『STEINS;GATE』『Fate/Zero』といった数々の話題作とともにその名を広く知らしめることとなったゲームブランド「ニトロプラス」。無名の状態で初めて世に送り出したPCゲーム『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』がユーザーの口コミを経て大ヒット作となり、そこから10年の間、絶えず新しい想像力を美少女ゲームの世界にもたらし続け、名実ともにPCゲームのトップブランドとして知られるようになった彼らが、いまアニメの世界で大きな存在感をみせています。「アニメのゆくえ201X→」第3回は、激動の2011年を切り開いた精鋭集団を率いる、社長のでじたろう(小坂崇氣)氏に、これまでの歩みを振り返りつつ、なぜニトロプラスのクリエイターがアニメを舞台に活躍することになったのか、その背景を伺いました。

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「ガイナックスのような集団」を作りたかった

―― 数年前まで、「ニトロプラスといえばゲームの会社」という印象でしたが、今年は特にアニメの企画の周辺で名前を見る機会が多く、だいぶ印象が変わってきたように思います。
小坂 たしかに、アニメに関わる比率が大きくなってきてはいますね。ただ、そもそもニトロプラスを立ち上げたときから、作品のメディア形態は必ずしもPCゲームでなければダメ、ということではなかったんですよ。作りたいコンテンツ次第で媒体を変えてアウトプットするというイメージで、今はたまたまアニメを作る機会に恵まれているので、それに乗ることが増えている……という状況だと思っています。
―― でじたろうさんご自身は、アニメに対して特別な思いはあったのでしょうか?
小坂 もともと僕自身は、ゲーム世代ではなくphoto1アニメ世代ですからね。マンガやSF小説も好きでしたけど、いちばん影響をうけたコンテンツは『機動戦士ガンダム』や『伝説巨神イデオン』、『超時空要塞マクロス』といったアニメでしたし。
それから、「月刊Newtype」で編集者をしていたときに、ガイナックスの『王立宇宙軍 オネアミスの翼』の広報・宣伝のお手伝いをする機会があったんですね。ガイナックスのみなさんは、まだゼネラルプロダクツと名乗っていたアマチュアのころから、プロ顔負けの作品を創ることで有名で、僕も名前は存じてました。そんな才能あふれるひとたち――それも、偶然集まった方々――がコラボレーションして作品を創っている姿に、とても共感して、同時にうらやましく感じていました。
ニトロプラスを立ち上げたのは、「自分もガイナックスさんのような集団を作りたい!」という思いもあったんですよ。
―― 実際、ニトロプラスもガイナックスと似た道筋を歩んでいますよね。
小坂 まずは仲間にめぐり合いたいと漠然と思っていました。虚淵玄や矢野口君、なまにくATKは、学習用ゲームソフトの開発をしていたころに、たまたま求人応募で入ってきたスタッフですからね(笑)。彼らなら何か面白いものが作れるのではないか? と思って、制作したのが美少女ゲーム『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』(2000年)で、何も美少女ゲーム業界のことがわかっていない状態で送り出したこの作品がヒットしたのは、運が良かったと思います。
―― そして美少女ゲームで着実に実績を重ねられて、アニメの世界へ乗り出していかれた。初めてニトロプラスとしてアニメの制作に関わられたのは『熱風海陸ブシロード』のメカニックデザインとしてですが、どのような経緯だったのでしょう?
小坂 当時、玩具開発を請け負っていたTAKARA(現タカラトミー)さんからお話をいただいたんです。ちょうど『斬魔大聖デモンベイン』を作った直後で、新しい造形のメカデザインをできる会社としてオファーをいただいたんですよね。アニメーション制作はガイナックスさんが手がけるということもあり、これはニトロプラスを立ち上げた経緯から考えても素敵な巡り合わせだと思ったのですが、残念ながら企画は頓挫してしまいました。
―― 脚本を担当されていた吉田直さんの急逝は、本当に惜しまれる出来事でした。その後、『斬魔大聖デモンベイン』(2004年)のアニメ化にあたり、大々的なメディア展開をされることになりますが、初のアニメ化作品であったOVA版『Phantom -PHANTOM THE ANIMATION-』とは、関わり方が異なりますよね。
小坂 実は『デモンベイン』のメディア展開は、ゲームが発売するかなり前から仕込んでいたんですよ。『Phantom -PHANTOM THE ANIMATION-』の時にはまだノウハウやエネルギーが足りなくて、コミカライズやノベライズなどの複合的な展開は実現できませんでした。だから、次にアニメ向きの企画ができたときにはメディアミックスをきちんとやろうという強い思いがありまして。『斬魔大聖デモンベイン』は、企画が出来上がった段階で、「これならアニメやコンシューマ展開を連動させられるし、作品に関わった人みんなでハッピーになれる!」と思ったんです。
―― テレビアニメ化にまで至るメディアミックスの足がかりを作るのには苦労されたのでは?
小坂 「Newtype」編集者時代からお世話になっていた、角川書店の井上(伸一郎)社長に直談判させていただいて、角川書店の各誌の編集長が集まる前でプレゼンをしたところ、クトゥルー神話がベースで美少女が登場するロボットものであるのと、ヒロインが魔導書というところが新しいと気に入っていただけました。「クトゥルーでロボットは『戦え!イクサー1』以来だね」なんて話もしましたね(笑)。それで、いきなりアニメ化というわけにはいかないけれど、コンシューマ展開を仕込みましょう、と。結果的に、コンシューマ版『斬魔大聖デモンベイン』限定版には、30分のOVAをつけることになり、その流れでテレビシリーズも決まっていきました。
―― そんな背景があったんですね。順調な展開ですが、結果のほどはいかがでしたか?
小坂 DVDセールスは良かったですし、角川さんからも「続編を作るのであれば是非一緒にやりましょう」と言っていただけました。ただ、自分としてはもう少し頑張れたような思いもあって、次があるならもっと上を目指そうと。ユーザーさんからも色々とご意見をいただけたので、自分達もお客さんも、両方がもっと納得できるようなものを届けられるアニメができればいいな、と思いました。

クリエイティブとビジネスの間で

―― 2008年には『ブラスレイター』、翌2009年にはニトロプラス10周年記念プロジェクト作品『Phantom ~Requiem for the Phantom~』という2本のテレビシリーズを送り出されたわけですが、とりわけ前者はニトロプラスとGONZOのコラボによるオリジナルテレビアニメ作品ということを強く押し出した企画で、現在に繋がるアニメとの関わり方においても大きな転機であったと思うのですが。
小坂 『ブラスレイター』はGONZOさんからコラボレーションのお話をいただいて始めた企画で、熱意がすごく伝わってきたので、これは面白いものが作れるんじゃないかと思い、ニトロプラスからも虚淵にNiθ、石渡マコトとエースをフル投入して挑みました。
―― 板野一郎監督との出会いは、ニトロプラスのみなさんにとっても大きなものだったとか。
小坂 ニトロプラスには、自分をはじめ『メガゾーン23』のファンが多いんですよ(笑)。だからバイクものをやるなら! ということで板野監督のところに企画を持っていっていただいたのですが、逆に板野監督から企画案をいただきまして。そういうことなら板野監督のビジョンを我々で具現化しようじゃないか、と企画の趣旨が変わったんです。だから『ブラスレイター』については板野監督の作品という意味合いがすごく強いんです。
そこで虚淵はアニメのシナリオの流儀を板野監督から勉強させていただいたので、板野監督との出会いがなければ『魔法少女まどか☆マギカ』もなかったんじゃないかと思います。『ブラスレイター』でご一緒した脚本家の小林靖子さんや『Phantom』のシリーズ構成を担当いただいた黒田洋介さんから学んだアニメシナリオのノウハウもあったと思います。デザインや3DCGの面でも、大変貴重な経験をさせていただきました。
ただ、作品としては素晴らしいものができあがったのですが、ビジネス面では反省もありました。メガハウスさんとフィギュアを展開してはいたのですが、作品のキャラクターやメカをフィギュアにするというだけで、フィギュアを売るためのビジョンや仕掛けが甘い部分があったんです。2本のテレビアニメを経て、プロデューサーの重要性を痛感したんですよ。
―― ビジネス面で企画全体のバランスを見る役割が必要だと。
小坂 考えてみれば当たり前なんですけどね。作品を良くするのは監督ですが、ビジネスを成功させるのはプロデューサーなんです。ただ、そこはわかっていても、しばらくはモヤモヤとした状態で、具体的にどう対策を打てばいいのかわからないままでした。そんな時に、『空の境界』の劇場パンフレットに、奈須きのこさんと虚淵の対談が掲載されたのがきっかけで、アニプレックスの岩上(敦宏)プロデューサーと面識を得たんです。
その直後に、『Fate/Zero』をアニメ化したいというオファーをいただいて、ほぼ同時に「魔法少女もののオリジナルアニメのシナリオを虚淵さんに書いて欲しい」というお話もいただいて。
―― いきなり優秀なプロデューサーから、すごいオファーがきたわけですね。
小坂 「いったいなんの冗談なんだろう?」と思いましたよ(笑)。岩上さんは、『空の境界』という映像化が非常に難しい作品を見事にアニメ化して、ビジネス的にも成功させた名プロデューサーで、TYPE-MOONさんから絶大な信頼を受けていることを認識していましたから。
―― そのオリジナル魔法少女企画が『魔法少女まどか☆マギカ』になるわけですね。具体的に最初はどのようなオファーだったのですか?
小坂 シャフトで新房(昭之)監督が魔法少女ものをやりたいとおっしゃっているのだけれど、普通の魔法少女ものではない、何か面白い作り方がしたい。虚淵と蒼樹うめ先生が参加することで、可愛らしい見た目で、でも底にはダークで骨太な世界が広がっているような、今までに見たことのない魔法少女アニメができるんじゃないか……というお話でした。それを聞いて、直感的に「観たい!」と思ったんです。そんな仕掛けをイメージできて、実際に行動に移すことができる岩上プロデューサーはすごい、と感じましたね。
―― 虚淵さんが『ブラスレイター』と『Phantom ~Requiem for the Phantom~』でテレビアニメのシナリオ技術を学ばれた直後だというのも、絶妙なタイミングだったわけですよね。
小坂 その2作がなければ、新房監督にはもっとシナリオ執筆の段階でお手数をかけていたと思いますね。板野監督からは「アニメとは何か」という部分の精神について修行をしていただき、黒田洋介さんからは、テレビアニメのロジカルな部分、たとえば「1クールのテレビシリーズのアニメは3話が重要なんだ」というようなことを教わった。だから『まどか☆マギカ』でマミさんが死んでしまう回が3話目に来ているんですよね(笑)。
―― あの展開にはそんなルーツが! それにしても自社の看板シナリオライターを、ゲーム開発から離れたテレビアニメの現場に預けるというのは、人材育成とはいえ大きな決断だったのではないですか?
小坂 そうですね。でも、一番は本人がやりたいかやりたくないかなんですよ。やりたくないことを無理にやらせても意味がない。やりたいことならば一生懸命やるので、身になることが多いと思うんです。あと重要なことは、会社がその間のリソース損失に耐えられるか否か、という点だけですね。
photo2アニメは制作として関わる場合、ゲームに比べてそんなに利益のある業務ではないんです。ゲームはメーカーとしてパッケージを売るビジネスなので、リクープポイントを超えたところから利益率が高くなっていくんですが、アニメはシナリオ単位でビデオ上代の2%程度の印税が払われる世界ですから。個人であれば問題はないかもしれませんが、会社として考えたときには大きな利益になりません。でも「儲からないからやらない」ということになると、ノウハウが手にはいらないし、ライターや絵描きのチャンスを失わせてしまうわけです。そのせいでモチベーションを失ってしまうよりは、やりたいことをやらせてあげた方がいいですよね。そうした金銭ではないメリットを含めると、スタッフによってはアニメの仕事には十分に価値があると判断しています。
―― アニメ制作のノウハウ獲得と、クリエイターのモチベーションを維持することが大切だ、と。
小坂 もちろん、本音としては自分がアニメをやりたいというのもあります(笑)。そしてもっと大きな理由としては、ニトロプラスのブランド力を上げたいということですね。
PCゲーム、それも18禁ゲームの市場は、ヒット作でも近年だと上限が10万本程度です。一方、テレビアニメは100万人単位の人が観るもので、さらに海外にも届くんです。『Phantom』のゲームはアメリカや韓国でも販売されているのですが、海外ではほとんど知られていなくて、ニトロプラスの知名度は知る人ぞ知る、という感じになっていた。その状況だと、海外に販路を展開していくときの条件交渉が難しくなるんですよね。
―― アニメで知名度をあげることが、海外展開における名刺代わりになる?
小坂 美少女ゲームの海外市場は、今はそれほどの規模はないですが、現在の国産コンシューマゲーム売り上げにおける海外版の比率を考えたときに、10年後とかの将来には美少女ゲームも総売上の半分ぐらいが海外販売シェアということもありえます。その中で、確実に売り上げるためには、まず知名度、ブランド力が大事だと考えているんです。
―― 「あの人気アニメの原作を手がけたニトロプラスの最新作!」として売り込めるわけですからね。
小坂 そのとおりです。今年、アメリカのAnime ExpoやフランスのJapan Expoに行ったら、ニトロプラスの知名度がこれまでと全然違いました。『まどか☆マギカ』のお陰で一気に名前が知られるようになった上に、『STEINS;GATE』の人気もあったので、そちらからも注目されていた。やはりアニメの効果は絶大だと思いましたね。

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