2013年10月11日(金)

アニメのゆくえ201X→ 第2回
サンジゲン代表 松浦裕暁氏インタビュー「二次元からサンジゲンへ――3DCGで描くアニメのNEXT」

取材日:2011年9月
取材場所:サンジゲン
取材・構成:前田久・草見沢繁
初出:2011年10月18日

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000年以降、日本のアニメ制作環境は、大きくデジタル化へと舵をきりました。その流れの中で、3DCGによる表現とセルアニメの融合が進んだことは、この10年アニメが迎えた変化の中でも、かなり大きなものだといえるでしょう。
「アニメのゆくえ201X→」第2回は、『TIGER&BUNNY』や『輪るピングドラム』など、今まさに話題の作品の3DCGを手がけ、大きな存在感をみせているアニメーション制作会社、株式会社サンジゲンの松浦裕暁さんへのインタビューを通じて、アニメにおける3DCG表現のこれまでとこれから、次の10年に3DCGがアニメにもたらすものは何かを探ります。GO→NEXT!

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3DCGで「日本のアニメ」を目指す

―― 松浦さんがアニメ業界に入られたのはいつ頃なのでしょう?
松浦 1998年です。25歳のときですね。(制作の)デジタル化が始まったばかりの頃でした。デジタル制作はまだまだだ、やはりすべて手描きで作る方がいいんじゃないか……というような議論が、まだ熱心にされていたころでしたね。
―― ほとんど制作工程がデジタル化した現在から考えると、隔世の感がある議論ですね。
松浦 もともと僕はそこまで熱心なアニメファンではなかったので、当時も議論する意味がよくわからなかったんですよ(笑)。別にどっちでもいいじゃないか、アニメを作るために必要なことはほかにもたくさんあるのに、どうして技術のことだけを重要だと考えるんだろう……と思っていました。
―― 当時かかわられていたのはどういったタイトルだったのでしょう?
photo1松浦:当時はフリーで、ミルキーカートゥーンという会社の『ペコラ』という、子供向けの内容のフルCGアニメに関わっていました。カナダのネルバナ社との共同制作で、海外から送られてきたCGモデルに、日本のスタッフがアニメの芝居をつけるという、ピクサーのような作り方のアニメでしたね。それはそれで効率の良い作り方で、作るのが嫌だということもなかったのですが、「このやり方では海外と勝負できない」という思いがあったんです。
―― 海外の3DCGアニメと対抗するのに、同じ方法論でやっていてはダメだ、と。そこから今のサンジゲンへと繋がる、作画と3DCGの融合という作り方を考え始めたのはどういったきっかけで?
松浦 『ペコラ』のあとにGONZOに入って、『ヴァンドレッド the second stage』で初めてCGディレクターを任されたときに、作画と3DCGを融合させることを意識し始めました。当時は作画とCGは全く別のラインで動いていて、画をすり合わせることがほとんどなかったんです。GONZOには第1作の『青の6号』以来「一発でレンダリングする」というポリシーがあって、「3DCGを合成する」という文化がなかったんですね。でも戦争シーンの多い作品で、爆発も多いのに、それをいちいちレンダリングしていたら制作が終わるはずがない。だから実写映像を合成して爆発のエフェクトをつけたりする作り方を始めたんです。そのほかのところも、合成も使うことを前提にして作ろうと思いました。
―― 爆発以外のところだと例えば?
松浦 背景に宇宙を描くとき、1作目の『ヴァンドレッド』では、3DCGで描いていたんです。『ヴァンドレッド the second stage』では、大きなテクスチャで背景を作って、それを3DCGと合成するようにしました。その結果、生産性とクオリティコントロールを両立できるようになったと思いますね。一発でレンダリングするやり方は、たしかにGONZOが立ち上がってすぐのころは画期的でしたし、出来上がった画面も斬新なものだったと思います。ただ自分の見た限りでは、当時の技術的に仕方がない部分もあったにせよ、斬新な「だけ」だったんです。
―― 新しくはあるけど、面白くはなかった、というところでしょうか?
松浦 それ以前に、とにかくCGと作画を合わせたときの違和感がひどかったように思いますね。CGにはテクスチャーを貼ってディテールが入れられるけれど、作画されたものにディティールを入れるには描きこみを増やさなければいけない。(TVアニメーションの制作スケジュールを考えると)どうしても、作画にはCGほどのディティールが入れられないんですよね。
―― 同じ画面で並んでいるのに、CGで描かれたものと作画されたもののあいだで情報量に差ができてしまうということですね。
photo2松浦:そのギャップがすごかったんですよ。実写映画にアニメのキャラクターが登場する映画がありますよね。あれも発想は面白いですけど、やはり観ていて違和感がありませんか? 僕はそうした違和感があると、お客さんはシラけるんじゃないかと思うんです。感情移入していたところに、別の質感、別の次元のものが入ってくると醒めてしまうのではないか、と。
―― たしかに、わかります。
松浦 『サマーウォーズ』のように、電脳世界のシーンだからCGの質感を見せます、というかたちで、演出として上手くいっている場合は、違和感があってもいいんですけどね。同じ空間、同じ世界の中で、ドアを開けたら別の質感というのは明らかにおかしい。僕はそういう風に感じていました。
―― つまりそれは3DCGのクオリティが高くなれば解消される問題でもないですよね。
松浦 そうですね。また、ちょうどその頃、ゲームのCGムービーが盛り上がっていたんですね。『アーマードコア』のムービーとか、カッコいいとは思っていたんですが、あれは日本で普通に作られているアニメの延長にはないな、と感じていたんです。それは映画の『ファイナルファンタジー』も同じで、どちらも「ゲームのムービー」であって、「日本のアニメ」ではない。だから質感の違いによって生まれる違和感の問題をクリアできるほどのポテンシャルは持っていないと思っていました。
―― 松浦さんとしては「日本のアニメ」であることにこだわりたいという思いがあるんですか?
松浦 やっぱり、日本で暮らす僕らが子供のころから刷り込まれているのは「日本のアニメ」なんですよね。さっき、「自分は熱心なアニメファンではなかった」といいましたけど、それでもやはりそういう感覚はあるんです。また、ジブリや『新世紀エヴァンゲリオン』の人気を思えば、そこに大きなマーケットがあるのは明らかで、そこに向けて作った方が効率的だと思ったんですね。ピクサーを目指しても、現時点では日本のアニメファンのニーズとはズレますし、海外市場を考えたときにも、同じ土俵に立って取っ組み合いをしなければならないから、戦略的にダメだと考えました。
かたや1000人以上の社員がいて、数10億の予算をかけて作られるものに対して、日本のCGアニメは多くても10億円から15億円くらいしか予算を使えない。仮に予算をかけたとしても、日本の国内市場だけでは制作費を回収できない。それなら今ある市場に向けて作ればいい。そう考えたときに、色々なことが見えてきたんですね。
―― たとえば?
松浦 まず気付いたのは、3DCGの質感を、CGならではのグラデーションがかかっているようなものではなく、塗り分けにすることですね。そうすることで、まず制作費が下げられて、通常の劇場用アニメの予算で、3DCGの劇場用アニメを制作することができるようになる。質感を変えても内容は自由ですから、企画次第で日本のマーケットに乗せることができる。
そしてもうひとつ、「日本のアニメ」を目指せば、歴史をかけて作られたリファレンス(参考資料)が山ほどあることに気付いたんですね。そうしたことを考えたとき、僕らの目指すものは「日本のアニメ」なんだ、とすごくハッキリしてきたんです。
―― なるほど! そうした考えをもとに、サンジゲンを立ち上げられた。
松浦 そうです。アニメにCGを使うためには、常に自分で考えて、新しいことをやっていかないと、技術的に乗り遅れてしまう。会社員として働いているとなかなかお金も行動も自由にできない、かといって個人でやることにも限界はある。それなら、自分自身で、ある程度自由に技術に投資できる環境を作ろう……そう考えて、会社を立ち上げることにしたんです。

サンジゲンはアニメに何をもたらしたか

―― 「セルアニメ調の3DCG」という、サンジゲンを特徴付ける技術にたどり着かれるには、そうした流れがあったのですね。
松浦 実際の流れとしては、もともと違和感を持ちながら仕事をしていたところに、技術が追いついてきたので、だんだんとセル作画調に寄って行った……という感じでしたね。photo3あと、もうひとつ考えていたのは、「キャラクターものをやりたい」ということだったんです。当時は、日本の3DCG作品で、キャラクターものとして売れているものはなかったんですけど、そこで勝負するなら、セル調の方が効率がいいと思ったんです。クオリティはまだまだだとは思いますが、最近になって、ようやく作画に引けを取らないクオリティが出せるようになってたんじゃないかと思っています。
―― それは何か、技術的な革新で可能になったんですか?
松浦 サンジゲンを立ち上げてすぐに、知り合いから教えてもらった「3ds Max」(編注:オートデスク社が開発・販売している、3Dモデリング、アニメーション、レンダリング、合成機能を搭載した映像・ゲームコンテンツ制作向けの統合ソフトウェア)のプラグインである「Pencil+2」ですね。
―― 他のツールと比べたとき、Pencil+2ならではの利点はどんなところに?
松浦 それまではセル調のラインを出すために使っていたツールは海外製だったんですが、Pencil+2は日本で開発されているんです。なので、こちらからの要望がよく取り入れられるんですね。そうしたこともあって、こちらも使い方を研究してみたんですが、すごく良かった。ちゃんと作画っぽい絵が作れるようになったんです。Pencil+2を使い始めてから、周りの見る目が変わりましたね。
―― そこから先は順調に作画的な3DCG表現を追求できたのでしょうか。
松浦 それが、当時はまだ、発注側に「どうせCGでやるなら、CGならではの質感を作品に取り入れよう」という発想をされる方が多かったんですね。だから、セル調に作ったキャラクターに、CGらしい質感を入れるという、こちらの思惑としては中途半端なものになってしまったものもあります。でもそのときは単純に、サンジゲンが、自分たちのやりたい表現をうまく先方に提示できていなかったことも問題だったと思ったんです。そのおかげで、会社としての勢いは加速しました。
―― 理解を得られない状況を、前向きに乗り越えられたわけですね。
松浦 思想をもともと持っていましたからね。これはPencil+2の導入前のことですが、CGの質感のついたものと、セルアニメにしか見えない質感のもの、その二つの方向性で、とあるアニメ映画の1カットをまるまる3DCGで作って、見比べてみたんです。そのときに、セルアニメ調のものは違和感がまったくなかった。そこで「コレは行ける!」と確信していたんですよ。
―― 実際にセルアニメ調の3DCGを作品で使えるようになったのはどのタイトルからなのでしょうか?
松浦 『アスラクライン』のメカCGの制作は、質感もセルアニメ調で、動きもリミテッド・アニメーションのスタイルでつけました。人間のキャラクターで初めてセルアニメ調にしたのは、『はなまる幼稚園』のEDの「ぱんだねこ体操」からですね。『はなまる幼稚園』ではDVD特典の予告編も作らせていただけました。水島精二監督とは、サンジゲンを立ち上げる前に『劇場版 鋼の錬金術師 シャンバラを征く者』でお仕事をご一緒させていただいて、そのあと、『機動戦士ガンダム00』(第1シーズン)を経て、『はなまる幼稚園』という流れですね。僕らのことをすごく面白がってくれていて、『ガンダム00』の劇場版(『劇場版 機動戦士ガンダム00 -A wakening of the Trailblazer- 』)でも、基本的にやりたいことをやっていい、と任せてもらえました。
―― 「ぱんだねこ体操」は素晴らしかったですよね。初見でとても衝撃を受けました。
松浦 おかげさまで、そこから隙間なくダンスものの依頼が来ています(笑)。
『kiss×sis』のEDや、『ラブライブ!』のPVも、「ぱんだねこ体操」からの流れですね。
ダンス以外だと、『迷い猫オーバーラン!』では、全話の次回予告をキャラクターのCGで作らせてもらいました。『迷い猫』は各話で監督が変わるというシステムをとっていた作品で、最初はサンジゲンでも一本担当できないかと思ったんです。さすがにそれは無理だったのですが、AICのプロデューサーが、「いきなり1話分は無理だけど、予告編ならどうですか?」と任せてくださったんです。
―― 「キャラクターもの」にこだわる理由はなんでしょう?
松浦 キャラクターを作れないと未来がない、と思っているんですよね。自分たちだけでアニメを一本、すべて手がけるには、キャラクターが作れないとダメですから。だから、とにかくキャラクターを認めて欲しかった。
―― 何かそのために特別なことはされたんですか?
松浦 『はなまる幼稚園』以前に、『咲-Saki-』という作品を手がけたとき、依頼されたのは麻雀牌とそれを操る手元のCGだったのですが、引きの構図で画面に入り込むキャラクターをテスト程度に作ってみたりしていましたね。あと、『おおかみかくし』という作品では、九澄マナというキャラの車椅子をCGで担当していたのですが、たまに車椅子に乗っているマナ本人もCGで作ってみたりしていました。そうした形で、キャラクターを徐々に作品に取り入れていったんですね。
―― それは作画のスタッフと相談して分担を?
松浦 いえ、勝手に作ってみせていたんです(笑)。制作側にしてみれば、仕上がりが予想できる作画の人に頼んだ方が安心なので、わざわざ3DCGに発注しようとは思わないんです。だから作ったものを見せてみるしかなかった。やってみると、監督はわりと喜んでくださることが多かったですね。でもスタッフさんの中にはCGをあまりよく思わない方もいらしたので、そこからちょっとずつ居場所をこじあけていこうと、貪欲に、常に作っていました。
―― 陰でそんな苦労をされていたんですね……。
松浦 自分たちが作ってみたものが、一度放送されるまでが大変なんですよね。でも実績を作ってからは、いろんなお話をいただけるようになっていきました。実はですね、サンジゲンは営業をしたことがないんです。実績を作って、やれると思われると、仕事をいただける。そういう意味ではアニメの仕事は、ドラマや映画に一度出演して、実力を見せるとグッと人気が出る、芸能人に近いところがあるかもしれません(笑)。取材を受けたり、Twitterのアカウントでなるべく発言するようにしているのも、そうした意識があるからなんですね。

さらなる存在感を発揮していくサンジゲン

―― 最近の大きなお仕事としては、『映画 プリキュアオールスターズDX3 未来に届け!世界をつなぐ☆虹色の花』のOP映像がありますね。これは歴代プリキュアシリーズのOP作画が3DCGで再現されるという、これまたすごい内容のもので。
松浦 あれは評判が良くて嬉しかったですね。狙いとしては、『プリキュアオールスターズDX2』までの3DCGの真逆のことをやらせてもらおうと思ったんです。お話をいただいたときは『DX2』の延長での依頼だったのですが、サンジゲンに任せてもらえるなら、ウチなりのテイストでやらせてくれたほうが絶対にいいものになる自信がある、とプロデューサーと監督に説明したんですよね。大変でしたけど、作れば作るほど、自分たちのやり方が間違っていなかったと確信を得るような仕事でした。
―― 本当に、「プリキュア」シリーズのいちファンとして唸る内容でした。今年を代表するヒット作のひとつ『TIGER&BUNNY』では、登場するヒーローのアクションシーンを全て3DCGでご担当されていますね。
松浦 『TIGER&BUNNY』は、最初に企画のお話をいただいたのは2、3年前で、そのときからスーツアクションは3DCGでやることが決まっていたんですよ。実はBG(背景美術)もCGでやって欲しいという依頼だったのですが、それはいろいろと考えると厳しい、ということで現在の形になりました。
―― プレイスメントの面で、ヒーローのスーツにスポンサーロゴを入れるという面白いことをやっていますよね。そのロゴが2クール目から増えたりもして。
松浦 そこに関しては、日本企業のロゴをつけたままだと海外で放映できないこともあって、簡単に張り替えられるように、ロゴを貼っていないキャラクターをまず作成したりしていますね。
―― この作品も、フレキシブルな対応ができる3DCGならではのものなんですね。逆に、スーツアクションがすべて3DCGであることで、苦労された点はあるのでしょうか?
松浦 そうですね……アクションではない、普通の芝居をCGでやれるかどうかは気にかかりました。僕らとしてはとにかくやってみたいけれど、できるのだろうか? と。あとは、ちょっと事情があって、1話あたりの3DCGカット数の平均が、予定の2倍の100カットくらいになってしまったんです。なのに、作品の予算は変わらなくて(苦笑)。そこで折り合いをつけるために、コストや生産性を考え直したんです。撮影さんとのあいだで効率のいいシステムを作ったりして、とにかく僕らはアニメーションを作ることに集中できるようにした。そうしたところが大変でしたね。
―― そこで「できない」と言うのではなく、制作システムの効率化にまで踏み込んだお仕事をされるのがサンジゲン流という気がしますね。この社風はどこから来ているものなのでしょう?
松浦 僕自身が、ツールそのものも好きだし、あるツールを使ったワークフローを考えることが好きだからでしょうね。実は今、プログラマーさんを雇って、ツールの開発もしてもらっているんですよ。
―― おお、それはすごい。それはまたなぜ?
松浦 3DCGのデザイナーさんって、自分の認めたツールしか使おうとしてくれないところがあるんですよ(笑)。だから、(同じ仕事をしていても)デザイナーさんごとに使っているプラグインが違ったりする。僕はそういうことが嫌いなんですね。良いツールがあればみんなで使うべきだと思う。ワークフローについても、どこかのシステムを借りてきただけの、安易な分業制にはしたくない。そのための自社開発ですね。
―― サンジゲンは最近、撮影部も作られましたよね。これはどうしてですか?
松浦 アニメの制作にCGが占める割合は、これからさらに爆発的に増えるでしょうが、CGをやっている人間の数は、しばらくは現状のままだと思うんです。つまり、しばらくはアニメのCGはサンジゲンにかかっているのかな、と感じるんですよ。自分でも、これからもアニメ業界に対して色々と仕掛けていくつもりもある。そう考えたときに、より一層の専門性が求められると思ったんですね。
―― 専門性、ですか。
松浦 今のアニメの撮影さんは、普通のアニメに特化していると思ったんです。つまり、普通のアニメについての専門性を持っている。それなら、サンジゲンは、CGに特化した撮影部を作って、CGに関する撮影の専門性を手に入れようと考えたんです。
―― なるほど。それは具体的にはどういった「撮影」になるのでしょう?
松浦 例えば、3DCGデータのレンダリングを撮影がやる、とかですね。
―― ほうほう。
松浦 これまでは、レンダリングされた3DCGの素材を撮影が組み合わせるやり方だったんです。でもそれより、撮影が自分の合成したいように素材を分けて、photo4それをレンダリングするやり方のほうが、効率がいいと思うんですよね。だから、実はサンジゲンは次に、ソフトウェア上でAfterEffectsの処理ができるCG作成ツールを導入しようとしているんですよ。それを導入すれば、最初から3DCGと他の素材が組みあがったデータを描きだせるようになって、一気に作業がシームレスになる。シームレスになって、効率化されれば、より絵づくりの部分に踏み込んだ仕事ができるようになると思っています。
―― 作画・撮影の区別なく、スタッフ全体で最終的な画面作りに関わっていけるようになるということですか?
松浦 そうです。今でも、撮影の人間でもCGが描けるし、逆にCGの人間も撮影の仕事ができるような環境を作ってはいるんですよ。実際、『輪るピングドラム』では、CG部門の人間が撮影をやったりもしています。そのほうが発見も多いし、面白いですよ。個人的には、ひとりのスタッフが、撮影としての仕事が3割、CGの仕事が7割、というバランスで仕事をするのがいいと思うんです。それを業界のスタンダードにしてしまいたい。そうすれば、のちのちウチも楽になりますからね(笑)。
―― 従来の、専門技能を突き詰めていくような人材育成とは異なる育成方法をとられているわけですね。
松浦 もともとサンジゲンは、スタジオの1階は新人と若手、2階は中堅とベテラン、という風に場所を分けて、とにかく1階の人間には2階に上がることを目指してもらう、そのための段階的なマニュアルも作る……という育成システムをとっているんです。
―― 面白いですね。それはなぜですか?
松浦 最初は新人をベテランの横につけることで育てようとしたんです。でもそれではダメだったんですよね。サンジゲンのベテランには、「世界一の絵を作る」という意識で仕事をしてもらっていますから、入ってきたばかりの新人では、同じ目標は見られない。そうすると、見えているものが違いすぎて、会話が生まれないんです。
―― なるほど。
松浦 それよりも、新人や、立場の近い若手同士でまとまって、そのあいだで別の目標を作ったほうがわかりやすい。しかも、教えてくれる人がいないと、自分たちでなんとかしなくちゃ! という意識も生まれるんです。また、ベテランも、能力が近い人同士で集まっていると、競争意識が湧いたり、もっと工夫しようという意欲が湧くんですよね。
―― アニメ業界はまだ「新人はベテランの仕事を見て盗め」という空気が全体的に強いと思いますから、それは画期的なやり方ですね。
松浦 職人やクリエイターを育てるという意味では、「見て盗め」というやり方が、今でも一番いいと思うんですけどね。でもそれでは、産業にはならないですよね。CGの仕事は、道具もPCという特別なものではないし、教えればルーチンワークは誰でもできるようになるんですから、そこを活かした仕組みを考えないとな、と思うんです。

これからの(3DCG)アニメのゆくえ

―― では最後に、これからアニメーション制作において3DCGに求められるものは何か、そして今後サンジゲンとしてはどういう目標を掲げていかれるのか、をお聞きしていきたいと思います。
松浦 3DCG全体としては、ディテールを詰め込んで画面を豪華にすることが求められていきそうですね。それはCGを使うメリットのひとつですから。ただ、サンジゲンはあまりそれはやりたくないんです。大変なので(笑)。
―― またまた(笑)。
松浦 あとはモブシーンですね。3DCGは作画と違って、複数のキャラが登場するシーンで、キャラクターひとりずつに別々のスタッフをつけて、別々に作業ができる。だから、全キャラ分、同じクオリティの絵を揃えやすいんですよね。
―― さきほども話題になりましたが、ダンスシーンで3DCGが求められることが多いのはその理由が大きいですよね。
松浦 そうです。で、ウチも求められる限りダンスはやりますけど、そればかりやっていると思われると困ってしまうんです(笑)。
―― では、サンジゲンとしての目標はその二つとは違うところにある?
松浦 サンジゲンとしての目標は、「3DCGでの感情表現」です。3DCGで芝居を描くこと、つまり、物語に合った映像を3DCGで作りたい。そのために、今はセルアニメ調のCGで世の中に認められているところがありますが、今後は全く新しい表現方法でもいいと思っています。市場が広がってくれれば、方法はなんでもいい。
―― セルアニメ風3DCGで作られるリミテッド・アニメとも、ピクサー的なフルCG作品とも違う、サンジゲンなりの「第三のアニメ」を目指す可能性もあるということですか?
松浦 自分は作画も好きなので、その魅力をちゃんと作品に取り入れたいんですよ。今は、CGを使うなら全部CG、作画をやるなら作画だけ、という傾向がまだ全体的に強いんですよね。サンジゲンが元請としてアニメーション制作を請け負うのであれば、その二つをうまく混在させたいと思ってます。「CGでも作画でもどっちでもいい」という意識で作品が作れる土壌を広げたいですね。
―― その試金石となりそうな作品も準備されているのでしょうか?
松浦 はい。2012年秋公開でプロダクション I.Gさんとサンジゲンの共同制作で進んでいる『009 RE:CYBORG』(監督:神山健治)がそれにあたります。
この作品はもっともサンジゲンらしく、業界に一石を投じる作品になると思います。作画とCGのハイブリッドではなくて、キャラクターはフル3DCG作品になっています。慣れ親しんだセルルックの質感に動きはリミテッド、背景は手描きの背景になりますので、限りなく手描きアニメに近い作品です。ですが、カメラワークや細かいディテールなど作画では不可能な表現方法も用いていますので、全く新しく見えると思います。
もちろん、初めてのことも多いので全体のワークフロー含め試行錯誤しながら、コストも意識しつつ、確実に進化して制作を進めています。サンジゲンとしても全力でこの作品に取り組んでいきたいと思いますし、結果的に業界をひっくり返す力を作品に宿らせたいと思っています。
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―― それは楽しみです。アニメ制作以外にも、『Angel Beats!』のフィギュアの3DCG原型のような、映像の枠を超えた仕事も手がけておられますよね。そうした路線のお仕事も継続されていくのでしょうか?
松浦 そうですね。これも将来的な部分に絡むんですけど、アニメになってしまうと(3DCGの)モデラーが報われにくいところがあると、以前から思っていたんです。フィギュアの原型制作という形で、それが報われるようになればいいな、と考えています。第一弾は、見た目重視の僕らと、存在感重視のグッドスマイルカンパニーさんのスタイルの違いをすり合わせるのが大変だったみたいですけど(笑)、第二弾も進んでいますし、今後も本格的にやっていこうかな、と思ってます。アニメで動かしていたモデルがそのまま原型になって、そのままフィギュアになる、というのはすごく効率がいいし、面白いですよね。
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―― サンジゲンは今、まさに変化のときを迎えていらっしゃる印象ですが、これから10年、アニメ業界全体はどのように変わっていくと松浦社長は思われますか?
松浦 うーん、そうですね。10年前と今を比べたとき、本質的な部分はそんなに変わっていないと思っているんです。だから、10年後も本質的には変わらない、ということがひとつの答えだと思います。
―― なるほど。
松浦 ただもちろん、技術的なところや、ウチがやっている業務内容は変わっている可能性はありますよね。DVDがBlu-rayに取って代わられたように、いつかはBlu-rayもなくなる。そのとき、メインは配信になるかもしれない。アニメーション制作のコスト意識は、さらに高まっているでしょうから、CGを使った作品というのは確実に増えるでしょうね。
photo5今でこそ、劇場作品やフルCG作品であることを理由に、10数億円の制作費をなんとか捻出できていますが、どれも成功しているとは言い難いので、確実に今後の払いは悪くなる。出資する側は、普通のアニメの予算組みや回収を前提にしてくることでしょう。そうなると、予算の条件に合った作品しか作れなくなってしまう恐れは持っています。10年後には、僕たちがセル作画のアニメを観ていたように、子供の頃からピクサー作品に親しんできた子供たちが成長して、そこに市場もできているでしょうね。そうなると、サンジゲンも、もしかしたらピクサー的な表現にシフトしているかもしれません。今、ピクサーの質感でテレビシリーズをやるのはすごく難しいですが、ソフトウェアなど色んなものが進化していますから、可能性は出てくると思います。
―― うーむ、そうした状況で、セルアニメ、作画という表現方法はどうなっていくのでしょうね。
松浦 サンジゲンとしては、とにかくセルアニメ調の3DCG作品を作っていこうと思っています。その結果「作画でもCGでも区別をつけなくていいじゃないか」と思えるようなものを作ることができれば、作画によるアニメもちゃんと残ると思うんですよ。
―― 作画と遜色ない3DCG表現が登場することで、作画の魅力が再発見される、というような流れがありうる、と。
松浦 それは同時に、日本独自の表現として、世界の3DCGアニメ市場で生き残るための武器photo8にもなるとも思うんですよね。
もちろん、そうしてセルアニメ調の表現を追求するのと同時に、さっきお話しした、次世代の表現も模索していくつもりです。サンジゲンがそうやってちゃんと仕事をして、色々な人たちの意識を変えていけば、サンジゲン以外にもCGの可能性をもっと追求する人たちが出てくるでしょう。そうすれば、業界ももっと盛り上がるのではないか、と考えています。
―― 今後もサンジゲンの動向から目が離せないですね。しかし本日はひとまずここで、インタビューを終えさせていただこうと思います。ありがとうございました!
 

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