2013年09月21日(土)

『たまゆら〜もあぐれっしぶ〜』
佐藤順一監督インタビュー「悲しみを乗り越えた先にある幸せの側を描きたいんですよ」(前編)

取材日:2013年8月29日
取材場所:タバック
取材・構成:高瀬司

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tamayura_key010年11・12月に発表されたOVA『たまゆら』、2011年10-12月のTVシリーズ『たまゆら~hitotose~』に続き、2013年7月か放映中のTVシリーズ第2期『たまゆら~もあぐれっしぶ~』。『きんぎょ注意報!』『美少女戦士セーラームーン』『おジャ魔女どれみ』『ケロロ軍曹』『カレイドスター』『ARIA』と、数々のヒット作を手がけてきた佐藤順一による待望の最新監督作品だ。
 父親の遺したカメラを手に夢を探す沢渡楓(CV:竹達彩奈)を中心に、楓の幼なじみでポプリ作りが趣味の塙かおる(CV:阿澄佳奈)、パティシエを目指すムードメーカーの岡崎のりえ(CV:井口裕香)、おっとりとした性格の口笛吹き桜田麻音(CV:儀武ゆう子)、そして『もあぐれっしぶ』から登場した新キャラクターで楓と共に写真部でがんばる先輩・三谷かなえ(CV:茅野愛衣)ら少女たちの日常を、心地よく流れる時間の中で繊細に描き出すハートウォーミングな物語。進級、部活創設、桜まつり、憧憬の路、私たち展……癒やしの空気感に包まれながら、楓たちの「もあぐれっしぶ」な1年がいよいよクライマックスを迎えつつある。
 bonetでは、そんな『たまゆら』シリーズをめぐる連続インタビュー企画を敢行した。第一弾である松竹の田坂秀将プロデューサー新キャラクター・三谷かなえを演じる声優・茅野愛衣に続き、『たまゆら』シリーズで監督・原案・シリーズ構成を務める佐藤順一氏に、シリーズ全体の成り立ちから、『もあぐれっしぶ』の創意、今後へ向けた想いまでお話を伺った。

写真が繋ぐ思い出

―― まずはあらためて『たまゆら』を作られた経緯からお教えいただけますでしょうか。田坂秀将プロデューサーへのインタビューでは、『たまゆら』における「写真をテーマとした女の子の物語」というコンセプトは佐藤監督が考えられたものとも伺いましたが。
佐藤 『たまゆら』の出発点になったのは『ARIA』ですね。あの作品は「癒やし」をテーマにした、ドラマや事件のない珍しいものでしたけど、作ってみたらこうしたヒーリングアニメをもっと観たいという方がたくさんいらっしゃって。なので、それをまた別の角度からやってみたいと思ったのがきっかけでした。
1_1 それでテーマはどうしようかと、まずは「癒やし」についてあらためて考えてみたんですよ。人々が一番癒しを感じるものは何なのかと。そこで浮かんだキーワードが「懐かしさ」でした。人は何かを懐かしんでいるときに、一番素直でやさしい自分に戻れるのかなと思ったんですね。そして、「懐かしさ」や「思い出」といったものをどう作品に組み込もうかと考えたとき、「写真」がぴったりなのではないかと。そうして、女の子と写真の話というコンセプトが固まっていきました。
―― 楓は写真を通じて様々な人や思い出と触れ合っていきますが、そこでフォーカスされる対象はOVAから第2期にかけて変遷がありますよね。
佐藤 そうですね。OVAではお父さんと楓との関係を見せるのが主で、次に『hitotose』では友だち関係をしっかり描くことをテーマに据えました。そのうえで今の『もあぐれっしぶ』ではお父さんとの思い出を掘り下げるお話にしています。楓にとってカメラは、お父さんやその思い出と切っても切れない存在なので、『hitotose』では十分に踏み込めなかったそうした部分まできちんと描きたかったんですよ。
―― 父親がかつて写真を撮った様々な場所をたどっていくことで、楓が新たな発見を重ねていくという展開ですね。
佐藤 その結果『もあぐれっしぶ』はこれまで以上に、ロケーションのはっきりしたお話が多くなりましたね。またこれはOVAの頃から一貫してですが、1_4すでにお父さんが亡くなっていることが意識されるシーンでは、悲しいという気持ちではなく、悲しみを乗り越えた先にある幸せの側を描きたいんですよ。なので『もあぐれっしぶ』では、お父さんの足跡をたどって、お父さんのことを新たに知っていくことによって、楓の幸せレベルが上がっていくようにしています。
―― 「楓の幸せ」という言葉が象徴的ですが、『もあぐれっしぶ』では父性的な「娘萌え」も大きなテーマだと伺っています。
佐藤 ヒロインのお父さん目線でキュンとしたいという(笑)。ただ結局のところ、「キュンとする」気持ちの正体って、相手にとって自分が「唯一の存在」だと思ってもらえることだと思うんですね。メイドとご主人様や兄と妹の関係なんかがそうですけど、お父さんと娘もまさにそれですよね。娘がお父さんにしか見せない顔っ1_2てあるじゃないですか。作品を通じて楓のそういう表情を観れたらいいなあという気持ちが、スタッフの間でいつからか「娘萌え」と呼ばれるようになりました(笑)。やはり友だちや恋人でも、知り合った時点から遡ることってできないわけですよ。その成長を小さい頃から隣で見守っていけるのは、お父さんや家族の特権ですよね。
―― カメラ片手に眠っていた楓がお父さんとの昔の夢を見て涙するエンディングには、そのコンセプトが強く表れていましたね。
佐藤 そうですね。エンディングテーマはもともとお父さんの想いを歌って欲しいとお願いしていたのですが、演出の名取(孝浩)くんも、上がってきた歌を聴いて「映像でもお父さんと娘の話を描きたい」と、そこの部分をさらに押さえた絵にしてくれましたね。名取くんは助監督ですけど、オープニング・エンディングに加え、ポイントになるエピソードの多くは彼が絵コンテをやってますし、全編に渡ってそれを超えた非常に良い仕事をしてくれました。

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