2013年09月22日(日)

『たまゆら〜もあぐれっしぶ〜』
佐藤順一監督インタビュー「悲しみを乗り越えた先にある幸せの側を描きたいんですよ」(後編)

取材日:2013年8月29日
取材場所:タバック
取材・構成:高瀬司

【前編はこちら】
 

“はわはわ”するために

―― ところで楓が使うローライ35Sは非常に可愛らしいカメラですよね。他方で、距離計もなく素人には扱いづらいカメラとしても知られていますが、選択された理由というのは?
佐藤 中古カメラ屋でちょうど良いものがないかと探しているとき、丸が3個並んでいる可愛いカメラだなと偶然目についたのがきっかけでしたね。それで試しに買ってみたら、すごく複雑で精巧にできているうえ、カメラとしての機能も高いし、少しマニアックなところも含めていじればいじるほど「これだ!」と。
2_1 というのも、これまでも楓が子ども時代にカメラを触っている描写を入れてきましたけど、距離計がどうとか絞りがいくつとかそういう知識やテクニックではなくて、「ここにある数字をこれくらいにするとたぶん綺麗に写るかな」というように、カメラの扱い方を身体で覚えている感じにしたかったんですよ。ローライはその点でもピッタリ合っていて、もうこれしかないなと(笑)。
―― 他方でかなえはアナログではなくデジタルカメラのペンタックスQを使っています。
佐藤 アナログは楓の特権にしておきたかったので。あとは楓のローライと同様に、女の子が持っても可愛いということと、そこそこ高機能だという点が決め手になりましたね。レンズが交換できるとか、中級者向けっぽさが欲しかったんですよ。
―― またカメラと言えば第9話に登場した、楓の父親の高校時代の友人で、写真を撮りはじめるきっかけともなった夏目がいます。楓に冷たくあたる等、『たまゆら』世界では異色なキャラとして印象的でしたが。
佐藤 『ARIA』でもそうでしたが、『たまゆら』ではこれまで、主人公たちの生活をネガティブにかき回す悪役キャラクターは絶対に入れないことにしてたんですね。ただ第9話に関しては、あえてその縛りを緩めてみたんですよ。もちろん最終的には『たまゆら』の世界に戻ってくるんですけど、少し強めのツンから入るという流れに。
―― その点では、かなえの初登場シーンも、ミスリーディングを誘いギャップで魅せるものでしたね。
佐藤 そうですね。悪者っぽい感じで現れて。あれは『もあぐれっしぶ』から『たまゆら』を観ようと思ってくださった方にとっては、いきなり独特のゆるい世界に入っていただくよりも、はじめは普通のドラマの体裁に近い方が馴染みやすいんじゃないかと思ってそうしています。
―― 実際に蓋を開けて見ると、かなえは悪者とは対極の、先輩であるにもかかわらず楓のことを「ぽって部長」と呼び常に敬語で語りかけるような子で驚かされました。あのキャラ付けは非常にユニークなものと感じましたし、そのうえさらに、“先輩の新入部員”というポジションも他にあまり例のない珍しい設定ですよね。
2_2佐藤 普通、主人公が2年生の場合、新キャラクターとして登場するのは下級生である1年生なりますからね。でもそうしてしまうと、お話的には楓が新入部員を引っ張るという形しかなくなるので、あまり“はわはわ”できなくなってしまうんですよ。後輩がいる中で“はわはわ”していると、観てくださる方から「年上で部長のお前がしっかりしろよ」と思われてしまうので。でも、先輩だけど部員という形なら、楓と2人で“はわはわ”していても大丈夫だと思ったんですね。しかも物語のクライマックスとして、卒業や進路のことも描けますし(笑)。
―― なるほど(笑)。ところで田坂プロデューサーのインタビューでは、『たまゆら』シリーズは楓の卒業までを描きたいとのお話も伺いましたが、もし続きがあれば、かなえは卒業後も登場するのでしょうか? 構想などありましたら、そちらも是非伺いたいです。
佐藤 かなえは卒業後も頻繁に登場させたいですね。もし3期があれば、まだおおまかなものではありますが、これまで探してきた楓の夢が現実に近づいていく過程の物語になると思います。1年後に訪れる楓たちの卒業へ向けて、大きく一歩を踏み出す話になるだろうなと。
―― それは楽しみです。是非実現させてください! それでは最後に、あらためて最終話から作品全体を振り返ってコメントをいただけますでしょうか。
佐藤 物語としては「楓とお父さんの思い出」と「かなえの成長」という二本の軸がありますけど、その二つは別ものではなくて繋がるようになってるんですね。第9話までで楓がお父さんの足跡を追いかけるお話はひとまず着地しますが、その出来事がこの後にかなえと楓の間で起こる展開に影響を与えている。
 楓はお父さんとはお別れしなければならなかったけれども、かなえともやはり別れが来る。それに対して「その瞬間は悲しいかもしれないけれど、それだけじゃなく、プラスになるものもいっぱいあるよね」というところを描いています。
 悲しいことを乗り越えた先にある幸せが、『たまゆら』のコンセプトです。最初から最後まで幸せ感で満ちた作品ですので、その中で安心してまったり幸せに漂っていただけたらありがたいですね。

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