2013年11月11日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 033
アニメーター・イラストレーター:田中将賀

取材日:2013年8月22日
取材場所:ワコム西新宿オフィス
取材・構成:高瀬司

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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アニメーター、イラストレーター

田中将賀

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代々木アニメーション学院卒業後、アートランドを経て現在はフリー。『プリンセスナイン 如月女子高野球部』(1998年)でアニメーターデビュー、『家庭教師ヒットマンREBORN!』(2006~2010年)で初のキャラクターデザインを担当。『とらドラ』(2008~2009年)『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』(2011年)『あの夏で待ってる』(2012年)と長井龍雪監督とのタッグのもと、キャラクターデザイン・総作画監督を手がけ一躍注目を集める。他の仕事に荒木哲郎監督作『学園黙示録 HIGHSCHOOL OF THE DEAD』(2010年)のキャラクターデザイン・総作画監督、水島努監督作『じょしらく』(2012年)のキャラクターデザイン等。近年ではイラストレーターとしても活躍し、『デッドエンドラプソディ』(草薙絡/講談社ラノベ文庫)のイラストも務める。

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―― まずはじめに、田中さんが絵を描きはじめられた経緯から教えていただけますか。
dww033_01きっかけとしては絵の上手い従兄弟の存在が大きかったですね。小学生の頃になりますけど、当時は『聖闘士星矢』が流行っていて、その従兄弟がよくキャラの絵を描いていたんですよ。それを見ているうちに、いつの間にか自分でも描くようになっていました。ただ従兄弟が描くのは主にキャラの方でしたけど、僕は聖衣(クロス)ばかり描いていて(笑)。あとは『ドラゴンボール』『北斗の拳』『魁!!男塾』等の模写もよくやってましたね。中学に入ってからは、漠然とですが漫画家になりたいとも思っていました。

―― ということは、オリジナル作品も描かれていたのでしょうか。
そうですね。高校時代には当時ハマっていたファンタジーもののオリジナル漫画を描いて出版社に持ち込みをしたこともあります。高校ではバスケ部に入ってたんですけど、テーブルトークRPGをやっている後輩がいて、そこからの影響でファンタジーノベルなんかも読みはじめてたんですよ。『ロードス島戦記』『スレイヤーズ』『風の大陸』……その辺りはだいぶ読み漁りました。それで夏休みを使って、部活の友だちにアシスタントみたいなことを頼みつつ、正式な描き方もよくわからないまま手探りで漫画を完成させました。

―― そこからアニメーションの世界を目指された転機というのは。
大学に入学したときに、はじめは漫画研究会に入ろうと思ったんですけど、なぜか学内の掲示板で情報を探しても見つけられなくて……その代わりにアニメ研究会を見つけたんですよ。それで同じ絵だし、漫画と平行してアニメも好きだったので「もうここでいいかな」とそのままアニ研に入って(笑)。そこまで熱心にアニメを作るサークルではなかったんですけど、学園祭用にセル画に絵を描いたりはしていて、当時はまだアニメーターというのが何をする仕事かもわかってなかったんですけど、そうしたアニ研での活動を通じて、おおまかにではありますがアニメ制作の仕組みを知ることができました。

―― 偶然が重なったとても運命的な出会いですね。
言われてみるとそうなのかもしれないですね。大学では不真面目な学生だったので、その頃には絵の方を仕事にしたいと本気で考えはじめていたんですけど、「絵描き=漫画家」くらいしかなかった僕の中に、そこではじめて「アニメーター」という選択肢が加わったんですよ。しかも個人で名を知られなきゃいけない漫画家やイラストレーターと違って、アニメーターは数を描けばその分だけ収入になるという印象があって。そういう職人的な部分にも惹かれて、「アニメーターになろう」と、大学を辞めて代々木アニメーション学院に入ることを決めました。

―― 代々木アニメーション学院に入られていかがでしたか。
それまでは専門的に絵を学んだことがなかったので、アニメーションに関する知識以上に、デッサンやクロッキーの授業が印象に残ってますね。例えばキャラクターの全身像を描くときはdww033_04ヘソから描けと教わって。なぜかというと、人体の中心はヘソなんだから、紙のど真ん中にヘソを置けばあとは自然と全体像が決まるからと。「なるほど、顔から描きはじめるだけじゃないんだ」とハッとさせられました。実はそうやって身体を把握できるようになると、作画のスピードが段違いにあがるんですよ。というのも、例えば歩いてる人物を全身が映った引きのアングルで描写するときには、顔から描いていくとどうしても足の位置が前後の原画とズレてしまったりするんですね。でもつま先から描けるならそうしたミスが起こらないので、消しゴムを使う必要もなくなってすぐにできあがる。だから顔から描くんじゃなく、ヘソから描く、つま先から描く、手の指先から描くと、身体のどこからでも描き出せるようにと練習したこともありました。

―― 作画に関しては他のアニメーターさんからの影響もあったのでしょうか。昔からアニメもよく観ていらしたとのことでしたが。
最初に絵を見て「すごい!」と思ったのは、小学生のときに観た『超時空要塞マクロス』ですね。美樹本晴彦さんの描くミンメイの色気が本当にすごくて。その後、決定的だったのは、高校生のときに観た『ロードス島戦記』のOVAシリーズです。結城信輝さんの圧倒的な画力に打ちのめされました。例えば鎧ってそれまでは身体のラインに合わせて描かれることが多かったですけど、結城さんの描く鎧はもっと鉄の板をまとったようになっていて、そのリアリティがすごく衝撃的だったんです。憧れて何度も模写しましたね。

―― 代アニ卒業後にはアートランドでアニメーターとしてのキャリアをスタートされますが、実際に現場に出てみていかがでしたか。はじめは戸惑われた点等もあったのではないでしょうか。
一番驚かされたのはプロのスピードです。こんなに速く描くのかと。なので新人の頃はとにかくそのスピード感に追いつくのに必死で、どうやったら速く描けるようになるか、四六時中考えていました。今のTVシリーズでは、1本当たり動画4000~4500枚くらいが一般的なラインになってますけど、そうなるといくら1枚の絵が上手くても、単純に考えて、それは1本の作品の内の4500分の1でしかないわけですよ。だからアニメーターとして作品に貢献したいのであれば、1枚のクオリティをあげるよりも、まずはとにかくスピードが必要になってくる。それにスピードがあれば、その分だけ人よりトライ&エラーをたくさん積めるので上手くなりやすいんですね。そのことは先輩からもよく言われていました。

―― 今や田中さんは教える側の立場かと思いますが、新人のアニメーターにはどのようなアドバイスをされているのでしょう。
アートランド時代も教育係のようなことをやっていたことがあったのですが、技術はやっていく中で身につくものなので、仕事に対する心構えに関することがメインですね。例えばアニメーター視点では、絵を描いたらそれで作品ができあがりだと錯覚してしまいがちなのですが、やっぱりアニメって絵ではなくフィルムなんですよ。キャラクターの絵を描くのではなく、そのキャラクターに芝居をさせる必要がある。だから設定通りに描くだけでなく、そのキャラの感情を想像して、この場面ならばこんな顔をするはずだと思ったら、設定画になくてもそういう表情をさせなきゃいけない。作品の流れの中でここがどういったシーンで、演出家は何を見せたいと思っているのか、ってことを汲み取らなきゃいけないんですよ。そしてそのためには、愚直に絵コンテを読み込むしかないんだと思います。

―― 作品をトータルに捉える視点が必要ということですね。
そうですね。僕らは役者が芝居をする代わりに絵を描いているというだけなので、突っ込んだ仕事をやるには、やはり演出的な視点が重要になってくるんだと思います。

――dww033_02 他方で、田中さんはキャラクターデザインを担当されることも多いですが、そちらでのこだわりというと。
キャラクターデザインも同じで、原作ものならば作品を読み込んで、原作者がどういう絵を描きたいと思ってるのかということをなるべく汲むように心がけています。その点では、『蟲師』でご一緒した馬越嘉彦さんにはすごく影響を受けましたね。あれだけ絵が上手い方であるにもかかわらず、デザインの際には、原作を丁寧に読み込んだうえでそちらに寄せていくんですよ。『蟲師』のアニメを観ると、原作そのまんまの絵に見える。でも原作を横に並べて見比べると全然違うんです。キャラクターデザインというのは不思議なもので、逆に原作の絵そっくりに描いても、どこか違うと感じてしまうことがある。

―― 作品を真似るのではなく、作品の核をすくい出すのが重要ということですね。
そうですね。作品を深く理解することが大事。そうやって作品に対してどこまで気持ちを寄せているかということは、どうしても画面ににじみ出てしまうものだと思います。

―― その一方で、オリジナル作品のキャラクターデザインではまた異なったアプローチが求められるのではないでしょうか。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『あの夏で待ってる』等では田中さんならではの画風というものが強く現れているように見えます。
dww033_05の僕の画風は、『家庭教師ヒットマンREBORN!』で作られたものですね。4年間に渡る長期シリーズだったので、そのときの癖が染みついてしまっています。ただオリジナル作品の場合も、基本的にはデザイナーとして良いデザインをするというより、作品や監督の意向にマッチしたデザインにしたいんですよ。全ては作品ありき。その意味では、キャラクターデザイナーと呼ばれるのはこそばゆいところがありますね。

―― 職人的美学が一貫しておられますね。ではイラストのお仕事はいかがでしょうか。近年は版権絵に加え、ライトノベルの挿絵やアニメのエンドカードと様々なイラスト作品を手がけておられますが。
『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』以降、イラストのお仕事をいただく機会が多くなりましたね。イラストではアニメよりも自由に描いてるところがあると思います。ただあくまで自分の土俵はアニメだと思っているので、イラストの仕事が増えたことでそっちを蔑ろにはしないよう気をつけています。今後もアニメーターという立場から、アニメと並行してやれる範囲での仕事になりますね。

―― イラストのお仕事ではアニメとは異なりデジタルで作画されていると思いますが、それはいつ頃から、そしてどのような変遷を辿られてきたのでしょうか。
最初に買ったのはIntuos3のA4サイズのものでした。はじめてPCを買ったときに一緒に買ったものです。アニメーターになった直後くらいだったんですけど、プライベートでお絵描き掲示板にハマっていて、それで自分もデジタルで絵を描いてみたいなと。当時はまだ原画ではなく動画をやっていたので、仕事内容的にも絵を描くというよりは線を引くって感覚が大きかったんですね。だから「自由に絵が描きたい」という想いがどうしてもあって。1日1枚は絶対にあげてましたね。
それからはずっとIntuos3を使い続けていたんですけど、板型のペンタブレットだとモニターが正面にあるので、dww033_03そっちへも首を向けなきゃいけないじゃないですか。そのせいでどうしても姿勢が悪くなってしまって……。『あの花』以降、イラストのお仕事をいただく機会が多くなった中で、肩こりもひどくて悩んでたんですよ。それで去年(2012年)意を決してCintiq 24HDを買ってみたら、一気に姿勢が楽になって(笑)。下向きのまま絵を描けるので、長時間の作業が俄然やりやすくなりましたね。

―― 使用されているソフトというのは。
線画、塗りはSAI、フィルターワーク等の仕上げはPhotoshopで行っています。ショートカットはキーボードでの操作ですね。メインはCintiq 24HD ですけど、持ち運びに便利なので、未だにIntuos3を使うこともあります。ただ持ち運べるという点で言えば、インタビュー前に触らせていただいた新製品のCintiq Companionも魅力的でしたね。そちらも買わせていただくかもしれません(笑)。

―― アニメの現場はアナログが主流かと思いますが、現状のペンタブレットにどういった機能が加われば、よりアニメ制作に活かせると思われますか。
最近では現場で使ってる方もいるにはいますが、一般化させるのだとすれば、あとはソフトの問題じゃないかとは思います。アニメーターは普通、原画を3、4枚パラパラさせて前後の動きを確認しながら描きますけど、その確認作業を上手く処理できるソフトがあれば便利かなと。もちろんすでにRETASのPaintManというソフト等には、キーボードのショートカットでそうした処理ができる機能があるのですが……慣れの問題もあるんでしょうけど、普及させるにはまだプラスアルファがほしいと感じますね。

―― dww033_06デジタルで描かれる中でアニメーションのお仕事へとフィードバックされたことはあったのでしょうか。デジタルだからこそ生まれた発想であるとか。
そうですね……現場での話にはなりますが、海外に依頼した動画に対して、柔軟に対応できるようにはなりました。海外のスタジオとやりとりするときは、時間の関係で動画を直接やりとりするのではなく、スキャンしたデータを送って、戻しもデータで受け取るんですね。でもアナログ一辺倒の頃は、紙じゃないから戻ってきたものに修正を入れられなかったんですよ。特にアニメーターの世界では、紙と鉛筆で描きたいというある種のこだわりが強いので、デジタルに抵抗のある方も少なくない。それがデジタルに慣れ親しんだお陰で、「データで直せばいいじゃん」という発想には向かいやすくなりましたね。その分、作画監督としてのクオリティ・コントロールが格段にしやすくなりました。

―― 田中さんは近年、原画から作画監督、キャラクターデザインときて、イラストレーターとしての活躍、さらにはOP/ED等を中心としたコンテ・演出のお仕事と、活動の幅を広げられていると思います。そうした中で、今後新たにチャレンジしてみたいことはありますか。
アニメに限っても、「次にどんな作品をやりたいですか」とはよく聞かれますけど、特にないんですよ(笑)。やはり職人気質なので、与えられた条件の中でできうる限りニーズに応える、というのが基本スタンスなんです。やりたい仕事よりも、いただいた仕事の中に楽しみを見出していくタイプなんですよね。そう教わってきましたし、そうありたいなと思っています。だから強いて言えば、一緒に組む監督さんのやりたいことになるべく沿うような仕事ができればなとか、原作者さんや原作のファンの方々に喜んでもらえるものが作れればなといったことになりますね。

―― 最後に恒例の質問なのですが、田中さんにとってペンタブレットはどのような存在ですか。
ストレスなくアナログからデジタルに移行できたのは、間違いなくペンタブレットのお陰ですし、それによって絵に関する視野を広げてくれたものですね。
 
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©Bonten/Wacom

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