2013年11月06日(水)

『寫眞館』 なかむらたかし監督インタビュー
「長い時間にわたる人の営みを描き出す」

かむらは、’80年代syasinkan2は『幻魔大戦』(原画)、『風の谷のナウシカ』(原画)、『AKIRA』(作画監督)など緻密なリアリティーある画面を描くアニメーターとして知られていた。その後、長編初監督作品『パニパルウィット 突然!猫の国』を送り出したなかむらは、『パルムの樹』(’02)『ファンタジックチルドレン』(’04)というシリアスな作品を世に問う。そしてこのたび最新作として登場したのが短編『寫眞館』。明治・大正・昭和を生きる一人の女性の姿を写真館を舞台に点描する本作は、成熟した視点で人生を描く魅力的な作品となった。長編を経たなかむらは、どのようなスタンスで本作を作り上げたのか、話を聞いた。
なお『寫眞館』以外の話も含めたロングバージョン「今、アニメーションに求められる価値とは」(約10000字)は「アニメの門チャンネル」のメルマガ(11/8配信号)に掲載される。同メルマガは、http://ch.nicovideo.jp/animenomonにて会員登録(月210円:税込)すると読むことができる。

なかむらたかし

Takashi Nakamura

『寫眞館』 監督・脚本・原画。日本のトップアニメーター。『幻魔大戦』『G ライタン』『未来警察ウラシマン』『迷宮物語』などで見せた緻密かつ高密度のアニメートは、多くのファンやアニメーターたちに衝撃を与えた。代表作に『AKIRA』(作画監督)、『バニパルウィット 突然!猫の国』『パルムの樹』(原作・監督)、『ピーターパンの冒険』(キャラクターデザイン)など。

―― 『寫眞館』の企画が決まるまでの経緯を教えてください。
なかむら とあるところから依頼を受けて考えた企画だったんですが、その話が流れてしまったんです。そこで村田(充範)さん(『寫眞館』動画検査。『AKIRA』の動画検査も手がけ、なかむらとは古くから面識がある)がスタジオコロリドを紹介してくれて、ようやく日の目を見ることができた企画なんです。
―― 写真館を舞台にするというアイデアはどこから思い付いたんですか。
なかむら ストーリーのアイデアは、どこから思い付いたかっていうような、具体的なものはないです。ただ、短編のスタイルって、2パターンありますよね。ひとつは扱う時間的なスケールをぐっと狭くとって、そこで起こる気持ちの変化やアクションに注目していくもの。今回の石田(祐康)くんの『陽なたのアオシグレ』のようなものですよね。もうひとつは、長い時間のスパンのものを、パッパッパと短い描写の積み重ねで見せていくもので、僕としてはそういうものをやってみたかったんです。その時々に撮られる写真が変わっていくことと、時間が経過していくことがかぶっていくと、それなりにムードが出るかなとは思っていたんです。それで人生を感じさせられればいいかな、と。
―― 『寫眞館』を作るにあたってどういうことを意識されましたか。
なかむら まず短編を作る予算とスケジュールというのがありますよね。それを守らないといけない。そういう制約の中で、何が伝えられるか、何が一つの中心になってモチベーションを持っていけるかってことを考えました。『ロボットカーニバル』(’87、ロボットをテーマに8人のクリエイターが競作したOVA)が終わってから痛感したんですけれど、ただ動かしているだけじゃダメなんだなって。あの中でちゃんと成立しているのは、北久保(弘之)くんのもの(『明治からくり文明奇譚 ~紅毛人襲来之巻~』)だけだったでしょう。あれはちゃんと見る側に何を伝えるか、わかっていた。そういう経験を経ているから、その中でなんらかの奥行きのある人間とか、世界観を伝えられれば、短くても作品になるだろうというのはありました。実際、そういう短編は世界にいろいろありますから。
―― 物語だけでなく映像のスタイルも短編らしいですよね。どうして、パースを殺した独特のスタイルを採用したのですか。
なかむら 商業アニメーションのセル画のスタイルとはちょっと違う感じにしたかったんです。絵本のようになればいいなって。それでパースを殺すことで雰囲気が出ないかなとやってみました。これが意外と難しくて、どこまで平面的に描いて、どれぐらいパースを生かすのか、そのさじ加減には気を配りました。美術監督の木村(真二)くんは巨匠なんで(笑)スムーズにやってくれたけれど。
―― 木村さんとは、どういう打ち合わせをされたんでしょうか。
なかむら 特になにを話したわけでもなかったんですが、最初のころにこちらで水彩画で描いたイメージボードは見てもらいました。当初はスケジュールの都合で、木村くんは美術ボードまでなら、という話だったんです。それが運良く、全部描いてもらえることになって。それで木村さんともう一人で、背景は全部描いてくれました。ほんとに作品を生かすも殺すも美術というぐらい重要なので、それは助かりました。
―― 写実的な絵柄の作品ではありませんが、歴史の中の出来事――たとえば関東大震災だったり、太平洋戦争だったり――は丁寧にフォローしていますよね。
なかむら 基本的には人間の歴史というか、時間の中で営まれる人の生活みたいなものが、物語のムードとしてあればいいなとは思っていました。そういう出来事を経て町の風景が変わっていく様子は、美術的な見所になるだろうと考えて。ただ、ちょっとウソもあって(笑)。主人公の女性の息子が学徒出陣するんだけれど、実際に学徒出陣した人たちよりはちょっと若いんですよね。細かく言うと、そういうウソはあるんだけれど、今回だとそれぐらいはまぁいいかな、と。
―― 作画は2コマが多かったですよね。
なかむら ほとんど2コマです。それは今回、線をちょっとラフなタッチにしたんですが、線が止まっているとそのラフなのがかえって気になるんですよね。ラフな線は動いているほうがいいなと思って、2コマ・ベースでやることにしました。ずっとチラチラ動いているほうが印象がいいと思って。今回、原画は動画でクリンナップせずそのまま使っていまして、動画は中割だけを描いているんです。
―― 『パルムの樹』以降、今度再刊されるマンガ『キングアビス』1も含め、なかむら監督はそういうテーマの射程の長い長編にこだわりがあるのかなと思っていたのですが。
なかむら それはそうなんです。ただ、なかなか長編の企画が通らないということもあるし、短編であっても自分のイメージで物事を伝えることができるなら、どちらでもいいかと思って引き受けたところはありますね。物語は好きなんですよ。
―― 昔は、マンガ家を志した時もあったそうですが、以前から物語を作りたいと思っていたんでしょうか?
なかむら 過去には、アニメーターをやりながら『ガロ』の青林堂や小学館にマンガを持ち込んだこともあったんですよ。でも、それはそれで終わっていたし、マンガを描きたいという気持ちはあったけど、アニメーションとしてそういうことをする気持ちはまるでなかったんです。『AKIRA』(’88)ぐらいまで純粋にアニメーターとしてやってきたんです。それで『AKIRA』が終わった後、『ピーターパンの冒険』(’89)をやったんです。この時に場面設定もやらせていただいて、ちょっとしたストーリーも提案させてもらったりして、世界観を作る面白さがなんとなくわかったんですよね。そこからですね。
―― そこでアニメーションで物語を語ることを意識したんですね。
なかむら それでその後、『パニパルウィット 突然!猫の国』や『パルムの樹』を経て、もう、アニメーションの魅力って動かすことじゃないんじゃないか、と思うようになったんです。見る人も、最近では作画枚数何十万枚というところでは感動しないし。いくら丁寧に動いても、そこには……なんていうのか……希少価値がないような気がするんです。日本はマンガ文化があって、あの輪郭線にみんな感情移入しているわけです。アニメもその延長線上で、輪郭線と塗り分けでやってきた。そのスタイルは全然変わっていない。とすると、そこで求められるのはやはり、お話だったり、演出の力だったりするわけで。とすると今のアニメーションの価値というのは、どういうストーリーを作り出して、どういうスタイルで伝えていくか、ということなんだって。物語の魅力は表面だけじゃなくて、背後に隠れていて、そこにあるどうしようもない気分がわかる人にはわかるだろうし。そういうものを作れたらいいなと、本当に思いますね。
―― 『寫眞館』と『陽なたのアオシグレ』。対照的な二本立てになりましたね。
なかむら 僕は自宅作業が基本で、週に何回かコロリドのほうに入ったんですが、僕らが(作画用紙を)パラパラやっていると、隣の石田(祐康)くんたちは(パソコンを)カチャカチャやっているんですよ(笑)。そこもずいぶん時代感が違うなとは思いながら、負けないように頑張りました(笑)。

(了)

『寫眞館』

あらすじ

時は戦前。丘の上で写真館を営む主人の元には、いろいろな人々が訪れる。ある日訪れたのは一組の夫婦。婦人は恥ずかしそうに下を向くばかりだったが、写真館の主人はあの手この手で婦人の笑顔を写真におさめた。
だが翌年、その夫婦と共にやってきたのは、ムスッとした彼等の愛娘だった。主人は必死に笑顔を引き出そうとするが――。
主人と少女の交流を、時代変遷と共に描く、ノスタルジックアニメーション。

http://www.shashinkan-aoshigure.com/shashinkan/

11月9日よりシネ・リーブルほかにて上映開始。

注釈

『キングアビス』

『月刊コミックラッシュ』で2006年より連載されたファンタジー。故郷を滅ぼされ、両親を殺された少年キャルの旅の行く末は……。今回の再刊では第一部までを完全収録の予定。詳しくは続報を待て!

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