2014年03月03日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 029
イラストレーター:左

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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イラストレーター

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人気ライトノベルシリーズ『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(入間人間/電撃文庫)イラストや、EXIT TUNESのボーカロイドコンピレーションアルバムのジャケットアートなどで知られる。近年はアニメやゲームの現場で存在感を見せ、『フラクタル』(2011年)、『夏色キセキ』(2012年)といった話題作でアニメーションのキャラクター原案を手がけた他、人気イラストレーター岸田メルがキャラクターデザインを手がけたことで知られる「アトリエシリーズ」最新作『アーシャのアトリエ』(ガスト)のキャラクターデザインに起用されたことで、大きな話題となった。イラストを手がけているライトノベル『ささみさん@がんばらない』(日日日/小学館ガガガ文庫)のアニメ化や、『超時空要塞マクロス』30周年を記念して公演されるミュージカル「マクロス ザ・ミュージカルチャー」のキャラクターデザインを手がけることなどが立て続けに発表され、いま最も注目されているイラストレーターの1人。

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029_hidari_pic1―― 左さんがイラストレーターになられた経緯からお伺いできますか?
昔から漫画は好きだったんですけれど、イラストレーターという仕事を意識したことは無かったんです。鳥山明さんみたいな人気のある漫画家がドラクエの絵を描いているくらいの認識でした。でも、 学生の頃に友人が、黒星紅白さんが表紙を描いていた『カラフルピュアガール』という雑誌を見せてくれて。「これはパステルで描いているのか?」と聞いたらCGだと教えられて、それまで持っていたCGイラストのイメージと全く違ったことに驚いて興味を持つようになって。その友人に誘われて自分でもCGを描いてWebサイトを作って公開したり、一緒に同人誌を作るようになったんです。
―― いわゆるCGっぽい、光沢感のある塗りではなく、黒星紅白さんや緒方剛志さんのようなタッチのあるデジタル塗りに惹かれたんですね。
原田たけひとさんとか、色々な絵描きの人が自分のサイトでCG講座を掲載していたので、それを参考にしたり、チャットや掲示板で交流しながら絵を描いていました。コミックマーケットやサンシャインクリエイションなどの同人イベントにも参加していたのですが、そこで同人誌を見た編集者から名刺を頂いて、電話をしてみたところ「メガフリーク」(FOX出版)という雑誌でピンナップイラストを描くことになったのが、最初の仕事です。
―― そのままイラストレーターとしてのお仕事を始められたんですか。
その頃はまだ学生でしたが、ピンナップ1枚程度なので空いている時間だけでもできるので、仕事というほどではなく。それから富士見ミステリー文庫や、PCゲーム『雪語り』の原画など、少しずつ仕事も増えてきました。2003年にPlayStation2の『Remember11 -the age of infinity-』(KID)というゲームで初めてコンシューマゲームのキャラクターデザインをやらせていただいて、ここ数年のライトノベルの表紙やアニメのキャラクターデザインのお仕事で、ようやく露出が増えてきたという感じです。
029_hidari_pic2―― 『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』(入間人間/電撃文庫)のイラストで左さんに注目した人も多いです。
『電撃大王』(アスキー・メディアワークス)でピンナップを担当していた縁で、電撃文庫の編集者の三木一馬さんから「萌えとは少し違うミステリー風の作品なので左さんにお願いしたい」とメールを頂いて。この仕事をやってから、中高生からのファンレターが届いたり、アニメの仕事でも、最初に『みーくん』を見ましたと言われたりするので、今思えば、三木さんが声をかけてくれたことが、大きな転機になっているんだなと感じますね。
―― そこから仕事が広がったんですね。『エンドブレイカー!』『シルバーレインRPG』などテーブルトークRPG(以下TRPG)のお仕事もされていますが、TRPGはお好きだったんですか?
TRPG自体は経験がないんですが、『モンスターコレクション』の様なカードゲームが好きで。テレビゲームの派手さとは違う良さがあって、カードに描かれたモンスターは、その絵だけ見ると雑魚でも強そうに見えるじゃないですか。それを集めて軍団を作って、その中にいる自分をイメージしながら遊ぶのが楽しくて。「人狼BBS」とか、「Sound Horizon」の音楽が好きで、そのジャンルで同人活動をしていたのも、適度に情報量が少ないものの方が、イラストレーターとしてイメージが掻きたてられるからなんです。
―― 音楽のイメージといえば、「EXIT TUNES」レーベルでもボーカロイドを初めとするCDのジャケットを029_hidari_pic3多く描かれています。
ボカロの仕事をして痛感したのは、ボーカロイドや「東方Project」は本当に低年齢層に支持されているんだなと。ニコニコ動画には小中学生が多いとかは話には聞いていましたが、実際に「今度でるCDはお小遣いを貯めて買います」とか、「親と喧嘩したんです」みたいなみたいな顔文字つきのメールが携帯から送られてくることが増えて。それはそれで面白いので、返信したりして。直接触れ合う機会はないですが、新しいファンにアピールできるのはありがたいです。ネットを見ていると、「最近、左を見ないと思ったらボカロやってたのか」とか、逆にボカロ好きな女の子は、今やっているアニメやゲームも知らなかったりして、全く違う層があるんだな、ということを改めて感じました。
―― ボカロキャラ自体も人気ですが、左さんならではのアレンジも、毎回目を惹きます。
初音ミクやGUMIを描いている時は、アレンジに専念して伸び伸びと描けるので楽しかったですね。キャラクターデザインの仕事では、「この羽はなんで生えてるの?」とか「ベルトがヒョロヒョロ伸びているのは何?」とか突っ込まれたときに、自分で理屈を説明できないとダメだと思って、どうしても控え目になりがちなんですけれど、他の人がデザインしたものをアレンジするのなら、そこは突っ込まれることがないので。その意味では、自分はデザイン作業よりもイラストを描くことの方が気が楽なんですね。「デザインの方が得意です」といったほうがクリエイティブな感じでカッコいいかなと思うんですけれど。
029_hidari_pic4―― 昨年、山本寛監督の『フラクタル』でアニメのキャラクター原案を手がけてからは、キャラクターデザイナーとしてのイメージが強くなっていますね。
キャラクターデザインは、時間をかけないといいものができないんです。当たり前ですが、数を重ねるほど「どこかで描いたもの」が増えてくるので、それを避けながらクライアントのいう事を聞きつつ、でも可愛らしいビジュアルであること、その条件をある程度クリアするものを仕上げるまで、少しずつ修正を重ねていかなければならないんですね。時間をかけずにやると、どうしても過去に描いたものに似てしまうので……。最近はデザインの仕事も多いので、このままではいけないと思案しているところです。
―― 先日最終回を迎えた『夏色キセキ』では、極めて普通の女子中学生4人組が主役でしたが、デザイン上の苦労はありませんでしたか?
現代の中学生を描く場合、逸脱しすぎてはいけないラインがあるので、イメージの摺り合わせはしやすかったです。それこそ、アニメは声優さんの演技やシナリオがキャラクターの個性や魅力を引き出してくれるので、ビジュアルで牽引しなければというプレッシャーが少ないんです。4人のキャラクターを描く場合は、まず1人、自分の好みをどんどん入れられるキャラクターを作ってしまうんです。『夏色キセキ』だと凛子なんですが、それがOKだったので、あとは正攻法か、あえて違うかのどちらかしかないので、金髪の紗季はイメージ通りに。優香はトラブルメーカーなので、やんちゃで破天荒に描いたら、水島精二監督から、あえて逆にしようと言われて、黒髪ストレートで整った感じにして。普通に提出したら「もう少し工夫してくれ」といわれそうなどこにでもいそうなデザインですけれど、OKでした(笑)。夏海は2、3枚描いただけでOKだったので、苦労しませんでしたね。
029_hidari_pic5―― 人気ゲーム「アトリエ」シリーズの最新作『アーシャのアトリエ』(ガスト)のキャラクターデザインを担当したことも、大きな話題になりましたね。
前作まで、岸田メルさんがキャラクターデザインだったというプレッシャーもあって、仕事を受けるかどうかも非常に迷ったんです。でも、作品の雰囲気も前作までとはガラリと変わって「黄昏の世界」が舞台になるので、左さんの作風が合うんですと言われて。学生時代に遊んでいた『マリーのアトリエ』の続編に関われるのも嬉しかったですし、『アーシャのアトリエ』で3Dモデルを担当しているフライトユニットという会社に古くからの友人が在籍していて、自分を推してくれた経緯もあって、大変な仕事ですが頑張ってみようと決めました。
―― 実際のデザイン作業はどのように進められたんですか。
主人公のアーシャは、いっぱい描いていいものにしようと後に回したんですけれど、他のキャラクターはある程度、ガストさんからデザインイメージを頂いて。これまでの仕事だと、それをある程度クリアしていれば、そこから私が発想したデザインを出せばOKであることが多いのですが、アトリエの場合は、ガストさんの中にあるイメージを形にする、という作業だったので、「もう少し、こういう感じで」と相手のイメージを言葉にしてもらい、それを描いて見せるというやりとりの繰り返しで。すんなり着地するものも、そうでないものもあって、そこがこれまでのデザインの仕事とは違う体験でしたね。
―― 3Dのモデルにした時に映えるように衣装に動くパーツをつける、みたいなゲームならではのデザイン要素もありますよね。
ゲームの場合は、良くも悪くも、最初に発表されるビジュアルの“華”やデザイン次第で、ユーザーの注目度が変わってくるので、そこでイラストが牽引するウェイトは大きいと思うんですね。自分が好き勝手に描いて、その責任を全て負うわけにもいかないので。キャラクター1人1人にもちゃんと狙いがあって、このキャラクターはこういったユーザーにウケるように、ということが029_hidari_pic6しっかり考えられているんですね。それを突き詰めるために、ここはスカートを短くしたほうがいいはず、とか、ふんわりした感じが足りないから髪をウェーブにして、とか何度も細かく作り変えていくんです。『アーシャ』の反響次第で、私の評価も変わってくると思っているので、ちゃんと2作目、3作目に繋げていければと思っています。
―― 左さんはかなり早い時期から液晶ペンタブレットを使われていますが、現在の作画環境は?
今年に入るまで、2005年に組んだPentium4 2.8GhzのPCを使っていたのですが、さすがに、友人に頼んでCore i7にメモリ16GBを積んだPCを新調したところです。2Dのイラストが主なのでビデオカード等はこだわっていません。ペンタブレットは、CGを始めた頃にIntuos i-400を使っていたのですが、2002年に「液晶ペンタブレットが出るぞ!」と仲間内で話題になって、Cintiqが発売されてすぐ15インチのを買った知人に感想を聞いて。自分は実家住まいだったので少し奮発してもいいかな、と17インチのCintiq C-1700SXを購入して、それを今でも使っているので、もう10年くらいになりますね。
―― 10年も! Cintiqでの作画はフルデジタルですか?
液晶ペンタブレットを導入してからは、フルデジタルです。CG世代だと、液晶は板と違って描いている線が自分の手に隠れて邪魔だという人もいますが、そもそもペンタブレットを使う前は紙に描くことに慣れていたので、自分は気になりませんでした。それと、画面を見ながら描く姿勢だと、どうも肩が凝ってしまって。それもあって、これは楽だと(笑)。線を引くのにも、狙ったところに手を動かせばいいので、板を使っていた時はアンドゥを繰り返しながらでしたが、液晶ペンタブレットなら線画も直感的にできるので、すべてデジタルで作業するようになりました。
―― 作画に使われているツールは?
最初、始めたころはPhotshopで、Painterのブラシにも魅力を感じたのですが、どうも使いこなせずに挫折して。SAIが出てきたときに両者の中間のようなツールでこれはいいなと。色の伸びとか、混色がわかり易くて、自然に混ぜられるようになったのと、とにかく線画が綺麗ですごいなと思いました。今は、ほとんどの作業はSAIで行って、最後に色の調整とpsdにして納品するところをPhotoshop CS4で行っていますが、ソフトライトとか透過とか、SAIとPhotoshopで違う部分を処理するのが面倒なので、1つのツールで出来るようになるといいなと思っています。
―― 今回、新しく発表されたCintiq 24HD touchを使われてみていかがでしたか。
画面が広くて解像度も高いので、パレット類が邪魔にならないのがいいですね。あとは、しっかりと安定感があって、べゼルにも段差がないので手を置いてストロークがしやすかった。液晶画029_hidari_pic7面は熱くなるのかな、と思っていたんですけれど、ぜんぜん感じなかったです。いま持っているC-1700SXにはエクスプレスパッドが無いので、これも便利そうなので使ってみたいですね。マルチタッチジェスチャー機能も、うまく使いこなせるようになれば拡大縮小も感覚的にできるので、いいなと。スクロールもペンと合わせて流れるように使えれば、相当、楽になると思います。
―― これからの活動で、左さんがやっていきたい方向性があれば教えてください。
ここ最近は、萌え系の作品が人気があるということで、意識的に「萌え」っぽい作品を多くやることで、自分で「そんなに萌えに偏って描いてないし」という言い訳ができない状況を作るようにしていたので、今後は、自分本来の得意分野だと思う、シリアスものをやってみたいですね。それがミステリーでも、壮絶な物語でも、ニッコリ笑っている可愛い女の子よりも、何かに囚われているような表情の方が魅力的に描けるんじゃないかと思っています。
029_hidari_pic8―― 総作画監督、原画としてクレジットされている 『神巫詞-カミウタ-』OP・PVのようなアニメや、漫画を発表されるようなことは?
『神巫詞-カミウタ-』も原作チームとして関わっているのですが、自分からの完全な発信という意味では、昔からやっていたので漫画には興味がありますね。今はまだイラストでやり残していることもあるので、よそ見をしないでいますが。アニメで共同作業に携わっていると、やはり全部やりたいという気持ちもあるんです。漫画なら、自分で描けば、良くも悪くも尖った部分を出せますし。漫画でないと納得できないかな、という部分もあったりするので、いつかはやりたいことですね。
―― それは是非、読んでみたいです。最後に、左さんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
仕事のお供、というと普通すぎるんですけど。液晶ペンタブレットはIntuosと比べて確かに高価なものですが、私の感覚としては、絵を仕事にしているなら、この差額を払う価値は十分にあると思っています。もし、少しでも絵の仕事が楽しくなる事を求めているなら、Cintiqが用意されていますよ、という感じですね。
 
 
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