2014年02月27日(木)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 030
イラストレーター:いとうのいぢ

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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イラストレーター

いとうのいぢ

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PCゲームブランド・ユニゾンシフト所属を経てフリーに。アニメ化もされた大ヒットライトノベル『涼宮ハルヒの憂鬱』(谷川流/角川スニーカー文庫)『灼眼のシャナ』(高橋弥七郎/電撃文庫)などのイラストを手がけ、ラノベファン、アニメファンに限らない幅広い支持を得ている、現在を代表するイラストレーターの一人。美少女ゲームのビジュアルから、SF小説の大家、筒井康隆とのコラボレーション(『ビアンカ・オーバースタディ』星海社FICTIONS)、大阪・日本橋の地域活性化プロジェクトのイメージキャラクターに至るまで、活躍の幅は広がり続けている。最近では綾辻行人の人気ミステリ小説『Another』(角川書店)のアニメ化にあたってキャラクターデザイン原案を手がけたほか、『魔界戦記ディスガイア』シリーズで知られるゲームメーカー、日本一ソフトウェアの20周年記念作品『神様と運命革命のパラドクス』でキャラクターデザインを手がけることが発表され、話題となっている。

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dww030_noizi_pic1―― いとうのいぢさんが絵を描き始められたのはいつ頃からですか?
絵はずっと描いていたんですけれど、今のようなキャラクターの絵を描くようになったのは、中学生くらいの頃ですね。高河ゆん先生にすごく憧れていて、最初は漫画家になりたかったんですけれど、なかなか漫画を描くことができなかったので、絵でなんとかならないかと思いまして、それで練習をするようになりました。

―― デッサンなど特に専門的に絵の勉強をされていたんですか?
一応、美術部に入っていたり、専門学校でも漫画的でないほうの、いわゆるイラストを学んでいたんですけれど、漫画を描いているほうが楽しかったので、興味のある授業以外はあまり真剣に取り組んでいなかったんです。でも、その頃にはもう絵で食べていけたらいいなあ、というのはありましたね。

―― 同人活動はされていたんですか?
同人活動は、いとうのいぢという名前を使い始める前、高校生のときから公民館でやるような小さいイベントに出て、ラミネートカードを作ったり、コピー本や便箋を作るみたいなことからはじめて、ずっとやっていて。しばらく離れていたんですけれど、せっかくプロのイラストレーターになったし、仕事以外のものも発表できる場がほしいなと思って再開した感じですね。

―― そこから、ゲーム製作会社の原画家というお仕事を選ばれたのは?
当時は格闘ゲーム全盛期で、私もカプコンの『ストリートファイターII』とかが大好きだったんです。もちろん、ゲーム自体も楽しかったんですけれど、格闘ゲームはキャラクターがすごく魅力的だったので、私くらいの世代にはカプコンのゲームがきっかけで絵を描き始めた人がすごく多くて、あきまんさんや西村キヌさんの絵に憧れて、ゲーム会社への就職を目指すようになったんですね。それで、色々な会社の面接を受けまくっていたんですけれど、落ちまくって……。やっと会社に拾ってもらえた、みたいな感じです。でも、結果的にすごくよかったと思いますね。

dww030_noizi_pic2―― 最近では、ライトノベルやカードゲーム等、イラストの仕事も多様ですが、のいぢさんが就職活動をされた頃は、やはりゲームの存在が大きかったですか。
もちろん、ライトノベル自体はありましたし、『スレイヤーズ!』(神坂一/富士見ファンタジア文庫)とかも大好きで、憧れがありました。当時はまだ、今みたいに画像投稿サイトが無かったので、個人ホームページを作って、それがきっかけでこの世界に入った人は多かったんじゃないかと思います。私のときもサイトを見た編集さんから「次のタイトルに使いたいんです」と『灼眼のシャナ』のお話をいただいて、ほぼ同時期に『涼宮ハルヒの憂鬱』でも声をかけていただきました。

―― お仕事をされる上で、ゲームとラノベで違う部分はありますか?
ゲームはモニターで見るものなので横の構図、文庫本は縦の構図なんです。でも、そこで違いを意識することはあまりなくて、それぞれの作品にあった絵を描くということが、一番気をつけるところですね。ライトノベルの場合は、編集さんが挿絵にしたい場所を指定してくれるので、そこに合わせて文章を読み込んで、自分なりに理解してイラストにしていくという感じです。

―― 原作者の方とやりとりされることは?
基本的には編集さんとで、原作者さんとはあまりやりとりはしないですね。『灼眼のシャナ』の場合は、作者の高橋弥七郎さんの中にある、敵のクリーチャーのイメージを絵に描いていただいたりして。私はモンスター系が苦手分野なので、それで結構、助けていただきましたね。

dww030_noizi_pic3―― モンスター系というと、『涼宮ハルヒの退屈』のカマドウマが……(笑)
あのカマドウマはかなり逃げましたね。どうしても描けないので、「可愛い感じにしていいですか?」とか。最初に資料画像を頂いたんですけれど、サムネイルで見た時点で「ヤバイ!」と思って。気持ち悪すぎて……ちょっと無理でしたね(笑)。

―― そういった駆け引きも含めて、イラストが出来上がるまでには様々なやりとりがあるわけですね。
新しいキャラが登場するようなときは、すり合わせが大変ですけれど、本当に色々なことを話し合いながら進めていくので、それぞれにどれくらい時間をかけているかは分からないですね。シリーズが長く続くと、キャラクターの理解も変わってきますし、私はすごく絵柄や塗り方が変わる性質なので、最終的にはそのときに一番いいと思った気分で描く、というか。ただ、キャラクターがブレ過ぎてもダメなので、作品内でのルールみたいなものは守るようにして。

―― 塗り方も変わるんですか?
ずっと同じ塗り方だと面白くなくなっちゃって、何か新しいことができないかなって。最近はなかなか時間がとれないので、常に最新の流行を追いかけているわけでもないんですけれど、新しい塗り方をみると、いいな……みたいな。

dww030_noizi_pic4―― 他の絵描きさんの塗りを見て、研究されたりしているんですか。
人の絵はけっこう見ていますね。すごく勉強になりますし、モチベーションも上がるので。いいな、と思ったものは自分でも真似して描いてみたりとか。お仕事の絵にも活かせたらめっけもんだな、みたいな。今の若い人たちは、本当にセンスもよくて上手いので、すごいなあって思います。デジタルを使って描くということも、当たり前の時代ですし。

―― のいぢさんが初めてデジタル作画に触れたのはいつ頃でしたか。
会社に入る前までは、PCに全然触れたことがない状態だったので、初めてペンタブレットを触ったのも入社してからで、そこからは先輩に教わりながら、とにかく実践で、ぶっつけ本番で学んでいって、なんとかここまでいけるようになった感じですね。

―― 初めて使われたペンタブレットは?
ワコムさんの小さいやつで、ライトグレーのでした。新しいペンタブレットに変わると、いつも色々なことが考えられていて、滑りすぎたり、引っかかりすぎたりもしなくて、描き心地もどんどんよくなっているなあと感じますね。今は、Intuos3のB4くらいのサイズのものを使っています。使えればいい、という感じなので、自分の環境について細かいことを何ひとつ覚えていないんですよね……(笑)。

dww030_noizi_pic5―― 今回、発表されたばかりの液晶ペンタブレットCintiq 24HD touchを使われてみた感想はいかがですか。
液晶ペンタブレットに馴染みがないので、最初は筆圧の調整なども上手くいくのかなと心配があったんですけど、30分も描いているうちに、すごく滑らかで描きやすいなあと感じました。今回は、普段ならアナログで描いている線画の部分から液晶ペンタブレットを使って描いてみたんですけど、アナログ画材の直に描いていくところの楽しさと、ショートカットが使えるみたいなデジタルのいいところが組み合わさっていて、“いいとこどり”ってこういうことなのかなって。使い慣れていけば、もっと絵を描くのが楽しくなると思います。

―― Cintiqで作画を始めてから完成まで、ほとんど拡大縮小を使わずに描かれていましたね。
いつもデジタルで作業するときには、普通に拡大縮小を使って描いているんですけれど、Cintiq 24HD touchはすごく画面が大きいので、拡大縮小をしなくても全然大丈夫でしたね。普段だと、全体像が把握できるA4サイズの紙に描いているんですが、Cintiqは原寸で紙に描いているみたいで、拡大縮小を使うことを忘れていました(笑)。普通のペンタブレットで描いているときは、顔をあげて前のモニターを見ながら描くところが、液晶ペンタブレットだと、そのままペンを置いたところで塗ったり描いたりできるので、本当にアナログっぽくて、「お絵描きをしている!」って感じがします。

dww030_noizi_pic6―― 普段のお仕事では1枚のイラストを描き上げるまで、だいたいどれくらいの時間がかかりますか?
ラフができて、線画から塗りの完成まで1日くらいだといいペースだなという感じです。速いと半日くらいで上げることもありますが、やっぱり線画が一番、時間がかかりますね。構図が決まっていて、自分で完成図が見えているときにはすごく速く描けるんですけれど、迷いながら描いているときは遅くなります。下塗りの作業は人に手伝ってもらったりして、パーツ毎にレイヤーを分けてもらっておくと、そこからの作業がすごくスムーズで「あとはゴールに向かって塗っていくだけ!」みたいな感じですね。

―― ツールはどのようなものを使われていますか?
ラフから線画までは、紙と鉛筆で。Macに取り込んでから、Photoshop CS3で作業しています。最初に触ったのがPhotoshop 4.0くらいで、そこからずっとPhotoshopですね。ひとつ覚えたらそればかりで、本当に冒険はしないので……。Painterとか、3Dにも興味をもってShadeみたいなソフトも試してみたことはあります。背景が苦手なので、3DCGでアタリだけでも取れれば……と思ったんですけれど、無理だったというか。洋梨みたいな物体を作っただけで終わりました(笑)。

―― のいぢさんの場合、アニメ的な塗りでも影の範囲をマスクで作ったりせずに、ブラシで塗り重ねていく感じですよね。
最初から塗る場所を決めてしまわない方が、流れで変えていけるので。基本的には、光源を決めたらそれだけ意識して、あとは感覚で影を入れてしまいます。グラデーションツールも広い範囲にたまに使うくらいで、ブラシの筆圧を効かせてザッと明暗を作ってから、消しゴムツールで削って形を整えていくやり方が多いですね。

dww030_noizi_pic7―― Photoshopのブラシやパレットは自分用に工夫をされていたりするんですか?
ポップな絵を描くときには、星みたいなパターンブラシを作って散らしたりはしますけれど、基本は丸いブラシだけで塗っていますね。重要なのは筆圧で、一本調子の線だけでは描くことができないので、ブラシ設定の筆圧には必ずチェックが入っています。色はカラーピッカーから選んで使うことが多いです。スウォッチにもよく使う色は並べてあるんですが、特にキャラクター毎にパレットを作って整理したりはしていなくて、「違うな」と思ったら同じ作品内でも色を変えてしまいます。前に描いた絵からスポイトで色をもってきたりもしますが、後から考えると「なんでパレット作らないんだろう?」って思いますよね。そのための気合が必要というか……(笑)。

―― これから先、「こういうお仕事をやってみたい!」というのはありますか?
やはり、女の子を描くことが好きなので、洋服のデザインとかには興味がありますね。リアルな服をデザインするのは難しいので、勉強しないといけないことは多いと思うんですけれど、いずれはそういうものもやってみたいなと。

―― キャラクターのデザイン以外の部分、たとえばストーリー的なものに関わりたいと思うことは?
キャラクターの設定を作るのは好きですが、お話を作るのは難しいですね。デザインをする上で、このキャラはこういう出来事があって、こういう性格で……というものがあるとやりやすいのですが、ゲームの場合は、それが無い状態で、「妹」「年上」みたいなキャラの属性だけで、まず絵を描いてしまうということもあるんですよ。それだけだと、なかなか描けないので自分で設定を作ったりすることはあります。

dww030_noizi_pic8―― アニメ『Another』ではキャラクター原案という形で参加されています。
『Another』の場合は、元々、原作小説のハードカバーやコミックスで鳴ちゃんや主な登場人物のキャラクター像みたいなものがあったので、「原案」といっていいのかしら……みたいなプレッシャーはありましたね。文章中のキーワードからデザインするので、どうしても似たような感じにはなってしまうんですけれど、自分の絵らしさを出さなければ意味がないと思ったので、そこがすごく難しかったですね。登場人物もすごく沢山出てくるので、デザイン作業も分担していて、メインの13人ほどを描かせていただきました。

―― 最近では『時をかける少女』(筒井康隆/角川つばさ文庫)のような児童向け書籍でものいぢさんのイラストが起用されたりと、活躍の場も広がっています。
私の絵がつくことで、とっつき易くなってくれているならいいのかなと思いますし、「萌え」というものがこんなところにも使われる世の中になったんだなあ……みたいな感覚です。若い人が見てくれるようになったことは、本当に嬉しいし、ようやく絵に興味を持ち始めたくらいの世代に届くというのは、描き手としても新たな刺激になりますよね。『ハルヒ』で普段からラノベやアニメを追いかけていなかったような人に知ってもらえたことも、本当にありがたいなと思います。

dww030_noizi_pic9―― 大阪の電気街、日本橋のイメージキャラクター『音々』『光』をデザインされたのも驚きました。これからのお仕事で、何か新しい動きがあれば教えていただけますか。
『Another』のBlu-ray(初回版)のイラストと、ファンブックの表紙を描いています。あとは、日本一ソフトウェアさんの20周年記念タイトル『神様と運命革命のパラドクス』というゲームのキャラクターデザインをやらせていただくことになったのと、『ビアンカ・オーバースタディ』(筒井康隆/星海社FICTIONS)が8月に発売される予定です。その他、まだ発表できませんが水面下で動いているものはいろいろあって、細かいのから大きいのまで、数は多くはないけどやっていることは多いのかな……。あまり受けてしまうと大変なので、詰まりすぎないようにはしているんですけれどね。

―― 楽しみにしています。最後になりますが、いとうのいぢさんにとってペンタブレットとはどのような存在ですか?
今は、本当に自分の手のようなものかなと思っています。絵を描くときにペンタブレットがないと、たぶんもう無理(笑)。鉛筆だけでは、やはり限界があって。そこにプラスアルファを与えてくれるペンタブレットは、すごく心強い存在だと思いますね。
 
 
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