2014年03月26日(水)

アニメ新表現宣言!
新房監督作品の奥にアニメ表現の最先端を見た!

初出日:2007年8月11日・9月21日
取材日:2007年7月17日
取材・構成:前田久・平岩真輔

ジタルが、ただデジタルであるというだけで珍しかった時代は、もはや遠い昔。デジタル制作環境の普及により、アニメーションは、創意工夫の時代へと突入しています。この連載ではそうしたアニメーションmeetsデジタルの最前線で日夜戦うスタッフの皆さんに、お話を伺っていきたいと思います。
今回ご登場いただくのは、『月詠-moonphase-』や『ぱにぽにだっしゅ!』『ネギま!?』『ひだまりスケッチ』そして最新作『さよなら絶望先生』で話題沸騰中のSHAFT(シャフト)の新房昭之さん、尾石達也さん、大沼心さんです。SHAFT節、とファンに称される映像美の秘密に迫ります!

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チーム新房、発足!

―― まずはみなさんがSHAFTの作品に関わるようになられた経緯をお聞きしたいです。
新房anime-sinnhyougen-sengen01 他の会社で仕事をしていたときに、SHAFTにグロス1で仕事を受けてもらったことがあったんですが、そのときの仕事への粘り方がとても印象的だったんです。それで、『月詠』の監督の話がきたときに、参加をお願いしてみたのが始まりですね。
大沼 自分は、『月詠』の前に他社の作品で何度か新房さんと組ませてもらっていたんですが、そのときの仕事ぶりで、なぜかあまり詳しくなかったのにデジタル方面の技術がわかる人間だと思われたらしくて(笑)。それで、新房さんがデジタル方面の技術力が高いSHAFTで仕事をするにあたって、声が掛かったんです。
尾石 自分も、最初に『幽☆遊☆白書』でアニメーターとして新房さんと組ませてもらって以来、本数は少ないんですが、たびたび仕事をご一緒していたんですね。それで、もともとSHAFTとは仕事をしていた関係で『月詠』の第1話に原画で参加していたときに、急遽監督に呼ばれて「6話の演出をやってくれ」と言われまして。それまでも演出経験がなかったわけではなかったので、ちょっと軽い気持ちでお引き受けしたら、現在の状況に至った……という具合ですね。

―― SHAFTといえば、仕上げから撮影まで処理できるデジタル制作環境を社内に整えていることで知られています。SHAFTに来られたことで、デジタル技術への対応など苦労したことはなかったのでしょうか?
大沼anime-sinnhyougen-sengen02 実際、自分でやってみるまでは「アニメーションのデジタル作業ってきっとものすごい大層なことをやっているんだろうな」と思っていたんですが、極端なことをいえば、Photoshopで作った画像を連番で繋げていけばアニメができるんですね。そのことに気がついたのは、新房さんから言われて「撮出し」というアニメ制作の工程をデジタル作業でやってみたときなんですが。

―― 「撮出し」とはなんでしょう? もう少し詳しく伺えますか。
大沼 もともとは、キャラクターの描かれたセルと背景の描かれたセルを組み合わせたり、撮影の作業にまわす段階でセルの仕上げに不備がないかを確認したり、特殊な処理を入れたりする作業のことで、デジタル工程になってからは必要がなくなった作業なんですね。それをデジタルでやる、というのは、フレアとかパラ2といった画面処理の濃度の指定をしたり、デジタル的な素材の貼り込みをやっていたんです。素材の貼り込みに関しては、最近では撮影のスタッフさんも慣れてきて技術力も上がってきたのでお任せすることが多いんですが、当時は自分でほとんどやっていたんですね。

―― 新房さんはデジタル環境にとまどいはなかったんでしょうか?
新房 やはり最初はデジタルは嫌でしたよ。でも使ってみたらやっぱり面白くてね。尾石さんとかは、デジタル環境で色が自由に作れるようになって、アナログ作業より自由度が上がってよかったよね。そこから才能が開花したというところがあると思うよ。
尾石anime-sinnhyougen-sengen03 たしかにそういうところはありますね。自分もそれまでアナログ人間だったから、最初はデジタルを信用していなかったんです。けれども、オペレーターさんに上手くイメージが伝われば、デジタル技術はアナログに思考していたことを完璧に再現できる。それに気がついたときに気持ちが変わりました。SHAFTにはすごい優秀なオペレーターさんがいるので、それが可能なんですよ。
大沼 自分の場合はオペレーターさんと分担して作業するんですけれども、尾石さんの場合はつきっきりでやってますよね。
尾石 デジタルはもう、感覚的には完全に紙と同じですね。印刷物ならではのかすれた風合いなんかもほとんどできてしまう。
大沼 ただ、アナログ的なことをデジタルでやろうとすると、逆に大変だったりもする。そこが難しいところなんです。いろいろな場面での技術の蓄積が重要になる。あとは、手を加えることに際限がなくなってしまったことも、大変と言えば大変ですね。

デジタルに宿る魂

anime-sinnhyougen-sengen04―― 最新作の『さよなら絶望先生』でも、和服の柄などといった、アニメでは表現が難しそうなものを描かれていますよね。これには通常のアニメよりかなりの手間がかかっていると思うんですが。
大沼 デジタルといえば手間を省くツールのように思う方もいると思うんですが、こだわれば工程は逆にどこまでも増えますからね。和服用のコンポジットのシステムを作ってしまえば楽にはなると思うんですけれど、それでも一つ一つの絵柄に合わせるということを考えていけば、手間は膨大になると思います。ただそういう細かいところでの積み重ねが、画面の質感や高級感を生む。つまり、デジタル環境を生かした制作が一般化したとき、そういうところで細分化が進むと思うんですよね。だから、アイデアや、コンテといったアナログな部分で、いかにデジタル技術を使ってプラスアルファができる箇所を思いつくかがますます重要になってくる。
尾石 自分も、大沼さんがデジタルに特化された工夫を考えているので、逆にあまりアナログやデジタルといったことにこだわらずにコンテを切っていますしね。コンテを切ってから、「この画を実現するためにはどうすればいいのか」というのを考える。
大沼anime-sinnhyougen-sengen06 具体的な工程にも変化があらわれていて、例えばタイムシート3の感覚はデジタルですごく変わったんだと思いますね。今はタイムシートが切りづらくなっているんです。アナログの時代だと、指示の出しかたは「この場面は透過光」「ここはクロスフィルターの何番で処理」という風に決まっていたんですよ。でも今は自分のイメージをうまく伝えるしかないんです。全体として「ここから柔らかい光が入る」みたいに曖昧な指示になってきていて、そこを撮影さんの方で汲みとっていただく、という形になっています。
尾石 だから「各パートの距離が近くて意思の疎通がとりやすい」というSHAFTの体制が制作の強みになるんですね。
新房 ただ、デジタルになっても一生懸命に気持ちをこめないと良いものが出来ない、というこの一点は変わらない。そこは不思議なもんだよね。
尾石 そこがアニメの良いところですよね。作り手の気持ちが入る。
新房 同じような作りでも、フィルムを観て違和感を感じるときがあるものね。
大沼anime-sinnhyougen-sengen05 現場のテンションとか熱気がフィルムには確実に出るものなんですよね。最近痛感するようになりました。こだわりだすと、視聴者が気づきにくいようなところに手間がかかってしまうことも多いんですが、たとえ気づきにくくても、そこにかけた熱気は伝わる。その感覚は大事にしていきたいなと思います。頭で考えてものを創るようになるとお終い……とまでは言いませんが、頭で考えすぎることに対する危惧をいつも持っています。
新房 「技術的にこんなことができるからやってみました」ではなくて、「こんなことを表現したいからこの技術を使う」という風にしないと意味がない。それだけは間違いない。だから今は怖い時代でもあるんですよね。技術的にはなんでも出来るようになっているから、それを言い訳に自分にアイデアがないという事実から逃げることが出来なくなってしまった。

SHAFTという「場」

anime-sinnhyougen-sengen07―― ちょうどSHAFTに参加された時期を境に、新房さんの演出スタイルが若干変化した印象を受けたのですが、アイデアが自由に出せる環境になったからですか?
新房 それは周りに任せる部分が増えたからかな。作品の幅を広げるために、皆の力を取り入れて創る方が今は楽しいんです。
大沼 新房さんのオーダーを受けて、自分や尾石さんといった演出が動くんですが、演出もまた、別の部署の方にお願いしていくことが多いんですね。そういった意味で、SHAFTは各部署にいたるまで個人の作家性を重視している会社ですよね。
新房 分担ができるのは、作品作りにおいて押さえておくべきところをこちらがわかってきたというのも大きいよ。何もかも指示を出さなくても、そこを押さえておけば自分のやりたいことが表現できる、というポイントがわかってきたんですね。
大沼 作品を作り続けていくことで、スタイルを蓄積していっているんでしょうね。その結果、社風のようなものがある程度できてきた。ですから、以前なら細かく指示していたところも、今では最小の指示でお願いできる。その分、浮いた労力を他の部分に使えるようになって、表現の幅を広げていけるようになったと思います。
新房anime-sinnhyougen-sengen08 スケジュールはいつも厳しいけれども、心の余裕が出てきたのかもね。
尾石 余裕ないです! いつもいっぱいいっぱいですよ!(笑)
新房 ごめん(笑)。いい形で遊び心が出てきた、とでもいうのかな。
尾石 それは監督が変なことをやるのが大好きだからでしょう。そうくるか、だったら俺たちも……という風にだんだんおかしくなってきている気がします。
大沼 スタッフ各人がすごく天邪鬼だと思いますよ。当たり前のことをやりたくない。スタンダードな作りの方が良いところはスタンダードにしますけれども。
尾石 やはり観てくださるお客さんをとにかく喜ばせたいというのがありますからね。
新房 そうだね。「面白い」でも「つまらない」でも「怖い」でもなんでもいいから、観ることで感情が動く作品がいいよね。外すなら思い切り外すのがいい。
大沼 作品を作るときは「直球」か「大外し」しかないですよね。
尾石 SHAFTは本当にギリギリまでやらせてくれるところだから、それができますよね。ここまで無茶苦茶できる会社というのは他にはないと思います。
大沼 チキンレースもいいところですからね。作り手のわがままに付き合ってくれるので、こちらも頑張るし、クオリティを落とさないようにもしなければとも思います。それでどこまでできるのか、ということは問題になりますが。

anime-sinnhyougen-sengen09―― SHAFT作品では、画面から現場が作品作りを面白がっている雰囲気が伝わってきます。こうした、「社風」みたいなものはどこから生まれてくるのでしょう?
新房 規模があまり大きくないことかな。別に大きい会社が駄目ということでもないんだけれども。
尾石 小回りが利きますよね。
大沼 なんだかんだ言っても、アニメ作りは多人数作業になっていくものなので、意思統一ができて小回りが利くというのは重要ですよね。普通なら止められるようなアイデアをがんばって実現していくためには。
尾石 今は非常にたくさんのアニメが放送されているのだから、こういうアニメが1本くらいあってもいいのかなと。自分たちが非常にアウトローな存在だということは自覚しています。
新房 久保田社長と現場の人間の距離が近いこともいいんでしょうね。
尾石 久保田さんの感覚は作り手側の感覚なんだと思いますね。
新房 そういう人が上にいるかどうかが重要なのかな。会社単位の話でいえば、普通は会社に所属している原画マンって育ちにくいところがあるんだけど、SHAFTは所属の原画マンがきちんと育つ会社なんだよね。不思議なことに。
大沼anime-sinnhyougen-sengen10 『ネギま!?』14話の空を落ちながらクラス全員と契約するシーンなんかは、阿部厳一郎という、信頼できる原画マンの存在がまず前提としてあって、そこから進行がスタートしているんですよ。「彼ならあのシーンはできるけど、そのためには作業の時間を作らなければいけないから、他の部分を前倒しにしよう」とか。
新房 原画が育つ土壌というのは、演出と同じように、自由であることが必要なんだろうね。そうでないと育たない。
大沼 自分のやりたいものを出す中でしか伸びないですよ。ちょっと感覚的な話でピンとこないかもしれないですが、仕事をするよりも落書きをした方が伸びる。仕事と落書きをうまくかみ合わせていくためには、あれをやってくれ、これをやってくれではなくて、ノビノビとやらせてあげないといけない。演出という面でも、そういう自由から出てくるものに寄りかかれる部分はありますね。

そして『さよなら絶望先生』へ……(序)

anime-sinnhyougen-sengen11―― そうしていろいろ積み重ねてきた中、SHAFTの持ち味を存分に生かせるような作品である『さよなら絶望先生』のアニメ化の話がSHAFTに来た、と。
尾石 正直、お話が来たときには意外性がないと思われるんじゃないかと心配なくらいでした(笑)。実は久米田先生もそう感じられたそうで。
大沼 自分はそこまで深く『さよなら絶望先生』に関わっていないんですけれども、デザイン的なセンスや、ネタの感覚は、自分たちと同じ方向を向いている作品じゃないかな、と思います。
新房 僕は最近は久米田先生の描くキャラがお気に入りですね。
大沼 色気がありますよね。
新房 「萌えるアニメ」だと思っていますから。まずはこの作品をきちんと作ることが大事ですが、他にも久米田さんのキャラクターデザインでなにか作品をやってみたい、と思うくらいに気に入ってます。
 

注釈

グロス

外注の制作会社が、一話まるごと作品制作を担当すること。

フレアとかパラ

絵に眩しそうな光がかかったり、色の付いた光が被るような画像効果。撮影の段階で追加される。

タイムシート

絵コンテを元に、秒単位で動きや画像効果のタイミングの指示を書き込む用紙。

©久米田康治・講談社/さよなら絶望先生製作委員会
©赤松健・講談社/関東魔法協会・テレビ東京