2014年04月04日(金)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 019
漫画家・イラストレーター:長月みそか

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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漫画家・広告デザイナー・イラストレーター

長月みそか

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デザイン事務所を経営する傍ら、31歳で漫画家デビュー。以来、二足のわらじで活動を続けている。思春期の少年少女が抱く成長や恋愛への心の揺らぎを、繊細かつ大胆に描き評価を得る。代表作に、自身の経験を投影した学園生活を描く4コマ『HR~ほーむ・るーむ~』(芳文社)、『くうそうノンフィク日和』(小柳粒男/講談社BOX)挿絵など。『まんがタイムきららフォワード』(芳文社)にて連載中の『少女素数』では、少女が持つきらめきにスポットを当て独自の少女観を追及しているほか、『月刊ヤングキング』(少年画報社)でも『のぞむのぞみ』を不定期連載中。

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dww019_MisokaNAGATSUKI_pic1―― 長月さんが絵を描かれるようになった経緯から教えてください。
高校入学時、レイ・ハリーハウゼンに憧れてストップモーションアニメを撮りたいと思ってアニメ研究会に入りました。もちろん、そんなこといきなりやらせてくれるわけなくて、まずは絵を描けと。それでいやいや描いてたんですけど、後から入ってきた後輩がめちゃくちゃうまくて、新入部員より絵が下手なのはどうかと思ってそこから頑張り始めました。周りに漫画家を目指す人が出てきたので、僕も目指そうかなと思ったんですけれど「才能がないからやめたほうがいい、どうせ描きたいものなんかないでしょ?」といわれて、あきらめてしまいました。

―― 仕事のキャリアは、デザイナーとしてスタートされたんですね。
父親が、かなり黎明期にMacintoshを導入したことで知られるデザイナーなので、僕もその影響でMacintosh Plusや、初期バージョンのIllustratorをずっとさわってました。高校卒業後、専門学校在学中に仕事を探していたら、当時まだ珍しかったDTPのオペレーターの募集があったんです。いざその会社に採用されてみたらMacをさわれるのが僕しかいなくて。必然的に21歳でチーフになって、いつの間にかデザイナーが仕事になっていた、という感じです。

―― デザイナーになられてからは、漫画は描かれてなかったんですか?
仕事に追われていたので、20代の10年間はほとんど絵を描きませんでした。勤めていた会社を辞めて再就職先を探していた時に、お客さんから「キミに仕事を出したいから個人で受けたらどうだ」といわれて独立しました。その頃は、絵を描くといっても、仕事で保険の約款や携帯電話の説明書に挿絵を描いたり、落書きのコピー誌を持ってコミケに遊びに行くくらいでした。

dww019_MisokaNAGATSUKI_pic2―― そこから、どうして漫画家としてデビューされることになったんですか?
30歳くらいのときに、やっと自分の描きたいものに気づいて、最初で最後のつもりで一本だけ描いてみようと漫画を描いたんです。その同人誌(『すてぃるぶるー』)を即売会で売っていたら、コミックハウスの編集長さんにスカウトされたんですよ。当時1回のイベントで20から30冊売れれば万々歳だったんですけど、編集長に「これは絶対今日中に完売する。もし予言通りに今日完売したら、一週間以内に会社に来い」と言われて。そしたら本当に売り切れてしまって。約束なので、断るつもりで会いに行ったんですけど、押しに負けて一作出して、後に続いている感じです。

―― 漫画やイラストを描くのにも、DTPのお仕事同様にデジタルを使われていたんですか?
父のお古でもらった初代ArtPadでデザイン仕事の挿絵を描いていました。最初の読切『すてぃるぶるー』と連載デビューの『あでいいんざらいふ』の第1話も、それで描いています。アナログで描くのが苦手だというのが漫画を諦めた理由のひとつでもあったんですが、Painterだとペン入れが楽だし、鉛筆っぽいふんわりしたタッチでいいんだったら僕にも漫画が出来ると思って。

―― 現在はCintiq C-1500X(G)を使われているとのことですが、かなり早い時期に液晶ペンタブレットを導入されたんですね。
『あでいいんざらいふ』の第1話で階段の描写があったんですけど、描くときに板のペンタブレットだと面倒くさくて。当時、出たばかりのCintiqの上に定規を置いて描いた方が楽じゃないかと思って試してみたくなったんです。しかし、行きつけの家電量販店のデモ機はなぜか「マウスモード」で展示されていて、それじゃ全然意味がないから設定を直してくださいと店員さんにお願いしたものの、なかなか直してくれなくて……。もう頭にきて「わかりました、買います!」と即金で買って、持って帰りました(笑)。初代ArtPadからいきなりCintiq C-1500X(G)です(笑)。もう8年使ってますね。慣れが必要とかそういう世界じゃなく、本当にすぐに紙と同じように使えたので、こんなありがたいものはないという感じでした。ショートカット用にSmart Scrollを友人に譲ってもらって、今に至りますね。

dww019_MisokaNAGATSUKI_pic3―― 定規やSmart Scrollのほか、液晶ペンタブレットを使う上での工夫はありますか?
直線定規だけじゃなくて、雲形定規も愛用しています。ベジェでは硬くなるけど、手書きでは難しいような線を引くのに便利ですね。これができるのは液晶タブレットならではだと思います。あとCD-Rとかが入っている不織布を手と画面の間に置いておくと、滑りがよくなって小指も痛めないのでよく使ってますね。画面もきれいになりますし(笑)。

―― 現在の作画ツールは何ですか?
IllustStudioを使っています。グレースケールの鉛筆っぽい線で描いているので、ComicStudioでは普段のタッチが出せないんですよね。IllustStudioだけでどうにもならない部分はPhotoshopを使うこともありますが、その機会も減ってしまって、絵を描くだけならほぼ100% IllustStudioですね。その前はPainter4を15年使っていました。

―― Painter4からIllustStudioに変えたのはいつ頃ですか?
『少女素数』の第3巻中盤くらいからですね。連載の途中でツールを替えるには、差がでないようにしなくてはならなかったので、Painter4と同じ雰囲気を出せるアプリケーションや設定を見つけるまで数カ月かかりました。SAIやPhotoshop、最新版のPainterなどで試しても、結局気に入った質感が出なかったんですが、偶然IllustStudioでポンと出たんですよ。まだ完璧なツールではない印象はありますが、将来性を買って移行しました。せっかくなので、Painter4にはなかった便利な機能も積極的に使おうとはしていますが、パース定規機能など、あまり頼りすぎるとちょっと硬い印象の絵になるので、試行錯誤しています。ブラシやテクスチャのデータを完全移行はできなかったので、ソファの柄が変わったとか(笑)、そういうことはありましたけど、パッと見ではわからないですね。

dww019_MisokaNAGATSUKI_pic4―― ネームを描く段階から全てデジタルなんですか?
ネームからすべてIllustStudioです。ネームは、見開きやめくりがわかるようなPDFにして編集に送ります。次にコマの大きさを調整してメリハリをつけて、枠線を引いてフキダシを入れて描き文字を入れます。拡大・縮小、左右反転など、構図の検討がスムーズにできるのはデジタルならではですよね。そうして、枠線とフキダシだけペンが入った原稿にネームのテキストを打ち込んだデータを提出します。そうしておくと編集側が台詞の写植を先に作ることができるんですよ。そうすれば、どんなに僕の完成原稿が遅くても、画像ファイルを差替えるだけで済むんですね。原則としてフキダシの位置はいじらない、ということにしておけば、一瞬で印刷所に持って行けると。

―― デザイナーとしての経験があるからこそのワークフローですね。
他にも、アオリや広告を入れることを想定して1ページ目だけは先に完成させて入稿するとかします。DTPが導入され始めた頃は、編集さんが僕に相談しに来ることもありましたが、逆に言うと、編集部のワークフローに口だしすることが多いイヤな漫画家でもあるんですよ(笑)。とはいっても、デジタル作画の歴史で考えると僕のやりかたはすでに絶滅危惧種なんですよね。漫画がデジタルで描かれ始めた頃はグレースケールが圧倒的多数だったんですけど、今ではほとんどいなくってしまいました。

―― グレースケールで漫画を描かれることにこだわられるのは何故ですか?
鉛筆に水彩で塗ったような優しい風合いにしたかったんですよ。だから、最初は極力ベタを使わなかったんです。『あでいいんざらいふ』では全くベタを使っていませんでしたが、それだと表現的に足かせになる部分もでてきたので、その後は鉛筆と水彩という概念から離れて模索し始めました。「4コマにしては描き込みすぎだ」と言われた『HR~ほーむ・るーむ~』での小さいコマに描き込むクセが抜けないまま『少女素数』dww019_MisokaNAGATSUKI_pic5を始めたので、一時は描き込みがひどくなりかけまして、そこで黒を効果的に使うことによって写真的なコントラストの独特の雰囲気が出ないかなあと。今はまだ画面が重いので、手抜きと思われない程度に軽くする方向で考えてます。
グレースケール漫画は、うまくハマれば面白い表現ができると思うんですけど、網点の線数の差による表現方法がないので、ちょっと間違うとすぐにのっぺりしてしまうんですよね。なので、意図的に筆致を見せてみたりして、どうやったら自然に見えるかを常に気をつけています。あと、どこから先が印刷では出ない濃度なのかということですね。モノクロの場合、薄すぎればかすれて飛ぶし、濃ければ黒く潰れますから、モニターで見ている絵と印刷結果は絶対同じにはならないので、刷り上がった雑誌や単行本の印刷結果とデータを見比べながら、大きな差異がでないように模索しています。

―― ほかに、デザイナーとしての経験が漫画に生かされているところは?
菅野博之先生の『快描教室』を読んでも、コマ割りの視線誘導などおぼろげにしかわからなかったんですが、実は、視線誘導は広告デザインの基本でもあるんですよね。その応用で考えているので、他の漫画家さんとは頭の使い方が少し違うかもしれません。組版的なノウハウでやってることが多い気もします。しかし、ポリシーとしては、そういった理屈よりも自分が読んで気持ちよいと思えるかどうかが一番重要だと思っています。自分が気持よくなければ、他の人が読んでも気持ちよいわけがないので。

―― 作品タイトルのロゴデザインもご自分でされているんですか。
よしあしはともかく自分の趣味に合わないのは嫌なので、自分でやっています。シンプルなものにしたいんですよ。『少女素数』のロゴも、どこにでもあるような明朝体に見せかけて、ちょっと違うんです。タイポグラファーの父には絶対に見られたくなかったんですが、『少女素数』のロゴを見られてしまって……。微妙なところでダメだしを食らったので、実はこっそり直したんです(笑)。ほとんどわからないかもしれませんが、1巻と2巻では、若干違うんですよ。

dww019_MisokaNAGATSUKI_pic6―― 現在もデザイン会社を経営しながら漫画を描かれていますが、仕事の両立は大変じゃないですか?
漫画が中・長期スパンなのに対して、デザインはショートスパンなんです。細かい修正やら追加やらで、一度仕事が始まるとほぼ毎日のように電話がかかってくるんですよ。でも、漫画は出来れば集中してやりたいので、その時期にかぶるデザインの依頼を受けないようにしていたら、最近はすっかりデザインの仕事が少なくなってしまって……、このまま専業漫画家になっちゃうのかなあと思うこともありますが、今アシスタントとして塗り分けのマスク作成をやってくれているのはデザイン業のスタッフですから、さすがに本来の業務ではないので、今後どうしたものかと考えています。

―― お仕事として漫画を描くことについて、長月さんのこだわりを教えて下さい。
物を作る上で、常にお客さんを一番大事にしたいんです。絵を描くことは見てくれる人との対話だと思うので、そこを軸にして、それ以外のことは考えない。才能の限界は確実にあるので、そこであがいて勝負をするくらいだったら、本当に自分が描きたいもので他の人と共感し合いたいですね。「僕はこれが好き、でもこういうものが好きな人は他にもいるよね?」という感覚をどれだけ強く持てるかが、描き手の使命になってくるのかなと思っています。

―― 長月さんの作品のテーマには「少年少女」があると思いますが、どういったことを表現したいですか?
小学生の終わりくらいから高校生くらいまでの、子どもが大人になっていく過程で、みんな色々とときめいた時代があったと思うんです。そのときにしかない一瞬の輝きのようなものを描きたいですね。主に女の子だとは思うんですが、男の子でも構わない。

―― 甘酸っぱさやキラキラした感じですね。
僕自身、小・中学生の頃に、なんであの時ああしなかったんだろう、何であの大チャンスを逃しちゃったんだろう、ということがたくさんあるんです。その「もし」「だったら」を実現できるのが漫画なんですよね。dww019_MisokaNAGATSUKI_pic7「うまくいえないけど誰かに伝えたいこと」がたくさんあるんです。例えば、小学校の頃に、初めて女の子を眩しく感じた瞬間ですね。校舎の脇でゴム段をやっている女の子達の歌声や、ぽんぽん跳ねる仕草に「女の子ってきれいだなあ」と感じたこと、そしてそれを他の男子に悟られちゃいけないと胸に秘めようとしたあの甘酸っぱさ。言葉にするとチープになっちゃうことでも、それを「ああそうだよね!」という感覚に落とし込むには漫画が一番適しているのかなと思ってます。

―― 今後、漫画でやっていきたい物語やテーマはありますか?
思春期をテーマにしたものということからは軸をずらしたくないんですけど、ファンタジー系のものもやっていきたいかなと思ってます。少年少女のきらめきが描けるなら何でもいいかな。そんなに造詣は深くないんですが、タイムトラベルなどSFものも扱ってみたいですね。あと、元々ハリーハウゼンが好きだったこともあってD&Dのような泥臭いファンタジーもやってみたいんですけど、自分が描くことで喜ぶ層が思いつかなくて……。自分が好きな物を好きなように描く事が一番大事だとは思ってますが、独り言になってしまっても駄目なので、やる意味はないかなと思っています。やはり、見て共感してもらえるものを描いてこそですね。

―― 最後に、長月みそかさんにとってペンタブレットとは何でしょう?
ないと困ります。iPadのキャッチコピーではないですが、魔法のデバイスですよね。CGを描く上で、コンピューターと自分を直結してくれる道具ですから。Cintiqは僕にとって、紙と同じものです。
 
 
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