2014年04月07日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 018
イラストレーター:和遥キナ

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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イラストレーター

和遥キナ

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ゲーム製作会社に2Dデザイナーとして勤める傍らで、同人サークル「僕と君と架空世界と」で作品を発表している。少女の美しい黒髪とファッションに強いこだわりを持ち、そのイラストの繊細さから『デジ絵マスターBOOK』(Inforest)『イラスト上達マガジン touch Vol.4』(晋遊舎)等イラストメイキング記事の執筆依頼も少なくない。『萌えるiPhone読本』などイラスト企画ムックやオンラインRPG『エミルクロニクルオンライン』カードイラストなど商業での活躍の場を広げており、今後さらなる活躍が期待できる若手イラストレーター。

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dww018_KinaKAZUHARU_pic1―― キナさんが絵のお仕事を目指すようになったきっかけから教えてください。
絵を描くことは、小学生の頃からやっていました。絵画教室に通っていた時期もあったんですが、ほとんど落書きですね。ずっとスライムばっかり描いてました。「スライムクエスト」とかいう漫画を自由帳に連載して。PCを買ってもらった中学生の頃に落書きと平行してデジタル絵も始めました。最初はMSペイントを使ってマウスで描いていましたね。

―― 中学生の頃から既にPCに親しんでいたんですね。
ゲームクリエイターに憧れてた部分もあったので、実はイラストより先に3DCGに興味があって。myShadeというソフトを買って、モデリングをしていました。その後スキャナーを買ってスキャンした絵に着色してみたりもしたけれど、プロのイラストレーターになるという発想は全くなかったし「オタク」という感覚や概念もなかったですね。

―― そういったものとの出会いはいつ頃ですか?
高校生になって、オタクの友達ができてからです。『AIR』や『君が望む永遠』といったゲームを教えられて。ライトノベルも、初めて読むならこれがいいよと言われて『涼宮ハルヒの憂鬱』を読んで、その後『イリヤの空、UFOの夏』を勧められて。漫画でも『最終兵器彼女』が好きでしたね。

―― いわゆる「セカイ系」の作品から入られたんですね。
セカイ系からオタク文化に触れ始めたことにはなりますけど、意識はしてなかったです。これがオタク文化なんだ、という感じで自分の中に価値観ができて。「キミと僕」ってすごくいいなあと。極めつけに新海誠監督のアニメ『ほしのこえ』を貸してもらって、そのときに初めて「キミ」を描きたい、こういうものを作りたい、と思いました。

―― どうしてセカイ系に惹かれたんでしょうか。
高校が男子校だったんですけど、本当につまらなくて。なんで女の子がいないんだ、と日々絶望しながら、学校生活をできるだけ省エネで過ごして、家に帰ったらネットゲームに没頭して『ラグナロクオンライン』の世界の人たちに会うというひどい生活をしていたんですよ。そうやって女の子への幻想や憧れが誇張されて。普通の青春がしたかったとか、高校の3年間でできなかったことへの思いが、セカイ系に惹かれた理由の一つだと思います。

dww018_KinaKAZUHARU_pic2―― なぜ僕の青春には「キミ」がいないんだ、という。
そうですね。授業中もずっと落書きばっかりしていたので、その状況を見かねた高校の担任から「絵が描きたいなら美術部に入れ」と言われて。美術部に入るなんて発想がなかったので「ああそうか」と思って入部しました。顧問の先生が押し付けるタイプの人ではなかったので、油絵とかもやらせてもらいつつ、デジタルで描いた絵も見せたりとかして。

―― そのあたりから、徐々に絵の素養ができてくるわけですね。
ようやくアウトプットし始めた感じですね。展示会にも出させてもらったりするうちに、イラストを描くことに目覚めて。本格的にイラストレーターを意識して、能動的に調べるようになりました。そのときに出会ったのが村田蓮爾さんの絵で。

―― 村田蓮爾さん責任編集の『robot』(ワニマガジン社)が創刊された頃ですね。
『robot』の第1巻はもう、衝撃的でしたね。そこで鳴子ハナハルさんやokamaさんも知りました。あと『魔法遣いに大切なこと』のよしづきくみちさんが好きでした。漫画の雰囲気や絵のタッチですね。「キミと僕」とはちょっと違うのかもしれないですけど、女の子に対する特別な目線という点では、自分が描こうとしていたものと重なる部分があると思って。

―― イラストレーターになりたいと決心されてからは?
その頃はもう高校3年生で、今から進路を変えるのはリスクが大きいし、教養が増えて選択肢が広がるならと考えて、四年制大学の文学部に進学しました。美術部と漫画研究会の両方に入って、漫研はすぐ辞めちゃったんですけど、美術部では油絵とかを少しだけ続けて。あとはデジタルで思いっきりやってましたね。周りの部員はデジタルとかやってなかったので、一人だけ異彩を放って(笑)、将来のためにと思って描き続けてました。

dww018_KinaKAZUHARU_pic3―― 具体的にどんな活動をされていたんですか?
ホームページを作ってイラストを掲載し始めたり、あとは同人ですね。漫研に同人に詳しい人がいて、「ちょっと君も出してみないか」と誘われて。当時ハマっていた『ラグナロクオンライン』の同人誌を大学1年生のときに初めて出しました。結果も上出来だったし、次もやろうという気になって、以降は創作ものをずっと作っています。平行して、美術部でも他大学との合同展示会に出展したり、常に自分の絵を見てもらえる機会を作るようにしてました。

―― 現在はゲーム会社に勤務されていますが、このお仕事を選ばれた経緯というのは。
イラストレーターとしてデビューするにはまだ実力不足だと思い、絵で就職できるところはないかと考えてゲーム業界を目指すことにしたんです。全然内定がもらえなくて、ゲーム会社ばかり33社受けました。面接でポートフォリオを見せても「ただの萌え系崩れか」という反応をされて、一蹴されちゃったりとか。粘りに粘って、卒業式の3日後くらいにようやく納得できる会社から内定をもらえて、晴れてそちらで働くことになりました。

―― イラストのお仕事もやられていますね。
就活中にpixivを始めたんです。「世の中にはこんなに上手い人がいるのか」とすごく焦って、就活用のポートフォリオを作りつつ、作ったものをアップするということをやっていました。そうしたらメイキング本のお話をいただいて、それに参加したのが商業での初仕事です。今は会社で働きつつ、土日の休みにご縁のあるところから依頼された仕事をやったり、自分の絵を描いたりしています。

―― お仕事として絵を描いていく上で、苦心された点はありますか?
今の会社の面接で「君の絵は萌えない」ときっぱり言われたんです。自分の絵を否定されつつも受かったので、「もうちょっと上にいけるよ」ということなんだと解釈して、それから探求し始めました。会社の上司に訊ねたりして、絵を描くことがオタク趣味よりも先にたっていたから「萌え」に疎かったんだと気づいて。他人からみたら女の子の性格とか口調みたいな、キャラクターの部分がイメージできない絵だったんだと。そこで初めて、他の人の絵を観察するようになりました。「見る」のではなく「観る」方向に変えると入ってくる情報量が増えて、絵の方程式がみえてきて。描く精度も上がって今に至るという感じですね。

dww018_KinaKAZUHARU_pic4―― 初めて使われたペンタブレットは?
Intuos3でした。アナログ画材に近いほうが描きやすいんじゃないかということで、ツールはPainter9を。それから、ComicStudio、Photoshop CSと買ってみて、SAIに出会ってからメインはSAI一本ですね。余計な機能がなく一番シンプルで、ペンタブレットの良さを引き出してくれるツールだと思います。

―― 現在の作画環境を教えてください。
Intuos4を。より紙に描く感覚に近くなって、筆圧の精度やペンの摩擦も完璧ですね。会社でも駄々をこねてIntuos4を買ってもらいました。初期設定のままにしないで、自分に合わせて最適化するとより使いやすくなります。マシン環境はWindows7のCore 2 Duo。メモリは8Gです。ひと世代前のPCですけど、特に問題ないですね。ツールはSAIとPhotoshop CS4を使っています。ペンもIntuos3時代にひと通り試したんですが、グリップペンが一番しっくりきています。

―― サブデバイスは使われていないんですね。
会社と家で環境が違うとストレスになりそうだなと思って使ってません。あと、画像処理ではなく絵を描く感覚からツールを選んでいるので、あまりボタン操作が必要ないんです。直線もタブレットに定規を当てて引いてます。

―― これからも、作業環境はIntuos4とSAIですか?
そのつもりだったんですけど、Cintiq 21UXを触ったせいで考えが変わりました(笑)。そんなに必要ないだろうと思っていたんですけれど、とんでもなかった(笑)。液晶ペンタブレットは、板のペンタブレットよりもっとアナログのいいとこ取りな感じがしますね。思ったより画面も大きいし、でっかいキャンパスに描いてるような印象を受けました。新境地ですよ。

―― アナログではなくペンタブレットで描くことのメリットはなんでしょう?
今のツールはアナログのいいとこ取りというか、色を混ぜて濁ってしまっても戻せたり、さらに色を重ねられたり、デジタルの利点を生かした性能を持っていると思います。嘘くささと本当っぽさを自由自在に扱えるところが魅力ですね。

―― キナさんの作品には長い黒髪の女の子への並々ならぬ思い入れがあるように感じられるのですが、モチーフとして扱われるようになったきっかけは?
黒髪ロングへのあこがれは、物心ついた頃からです。これは説明できるものじゃないですね。小さい頃、スライム以外にも髪の長い女の人を描いていた記憶があるんです。元々長い髪が好きだったんだと思います。

―― キナさんにとって、黒髪ロングの魅力とは何でしょう?
まず、長い髪がつくる曲線ですね。女性の脚のラインや胸のふくらみが美しいということと同じ感じです。dww018_KinaKAZUHARU_pic5背中いっぱいにあった髪が肩口からするするっと落ちて垂れ下がっていくときなんか、すごく興奮しますね(笑)。それがシルエットとして際立つので、黒髪も好きなんです。あと、やっぱりセカイ系の系譜の中では黒髪ロングが象徴的に使われていますよね。芯があるけど儚くて純粋なキャラクター性と、オブジェクトとしての美しさ、その二面性が合わさったときに、女の子の全ての魅力が出しきれるんじゃないかと思っています。

―― 自分で黒髪ロングを描くときに気を付けている点はありますか。
やっぱり曲線美は絶対ですね。リアルな髪の流れというのは意識してます。あとは柔らかさの表現ですね。硬いCG塗りじゃなくて、触りたくなるようなしっとりした感じをなるべく出せるようにしています。水彩風のタッチなのも、黒髪のしなやかさを描くためなのかもしれない(笑)。

―― 女性のファッションに関してのこだわりも感じられます。
男子校だったのが本当に大きいですね。元々強かった女の子に対する憧れがセカイ系を通じてさらに強調されて「自分が女の子だったらこうするのに」という感覚までいっちゃったんです(笑)。大学に入ってから女友達がいっぱいできて、みんな等身大の女の子で。彼女たちと話すことで「かわいい」を共有できるようになって、女の子の服のショップのサイトやブログを見るようになりました。絵に取り入れようと意識したわけではなく、自然にそうなった感じですね。

dww018_KinaKAZUHARU_pic6―― それから、リアルさを伴った可愛い服を、黒髪ロングの女の子と同居させようと。
黒髪に合う服、合わない服はあるので、そこは組み合わせを意識して描いてます。黒髪には黒髪を引き立てるためのファッションがあると思うんです。理想的な黒髪の女の子だったらこういう服を着ていて然るべきだという部分を、女の子の立場に立って追求しています。

―― さらにこれから挑戦したいこと、やりたいことはありますか?
絵を描くことは僕にとって、黒髪ロングやセカイ系を含めた、自分の世界観を伝える手段のひとつだと思うんです。それを描き上げるまでは苦行の連続で、趣味でやっている感覚もないので、「イラストが仕事です」と堂々と言えるようになりたいですね。黒髪ロングの女の子以外も、ちゃんと描けるんですよ(笑)。ゲーム会社での仕事や同人活動をステップにしつつ、ライトノベルのイラストのような仕事をしてみたいですね。あとは、今回の夏コミで出す新刊が、自分の強みを前面に押し出した「和遥キナとはこういう絵描きだ」という本になっているので、それで少しでも注目してもらえればと思っています。

―― では最後に、和遥キナさんにとって、ペンタブレットとはどのような存在ですか?
絵を描くには、画材を買わなきゃいけないですよね。ちゃんと自分に一番合っている筆と絵の具、キャンパスやイーゼルの高さ、そういったものを調整してようやく落ち着いた環境で描けるようになる。それと一緒で、プロの仕事をするためにはプロの環境を作る必要があると思うんです。それが僕にとってのペンタブレットで、その中でも特にIntuosだった、ということです。今はかなり液晶ペンタブレットに心揺れちゃってますけど(笑)。
 
 
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