2014年04月14日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 016
漫画家:氷堂涼二

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イラストレーター、漫画家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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漫画家

氷堂涼二

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サークル「E.T.D」として同人活動をする中でスカウトされ、『月刊ウィングス』(新書館)から『天然!絶滅ヒーロー!!』(新書館ウィングス・コミックス)で商業デビュー。ドラマCDとのメディアミックス作品『ナデプロ!!』(新書館ウンポコ・コミックス/ウィングス・コミックス)や『TEMPUS:QUOVADIS』(新書館ウィングス・コミックス)など新書館の女性向け雑誌で主に活躍している。最近作では、人気アニメ『マクロスF』のコミカライズ作品『マクロスF S.M.S☆物語』(角川コミックス・エース)やノベライズ『マクロスF フロンティア・メモリーズ』(小太刀右京/角川スニーカー文庫)の挿絵の他、『シルフ』(アスキー・メディアワークス)で『空から!マイ☆NANNY』を好評連載中(2011年5月当時)。

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―― 氷堂さんが漫画家になられた経緯からうかがえますか。
dww016_RyojiHIDO_pic1幼稚園の頃に「絵がうまいから漫画家になれるよ」といわれたのを真に受けて、当たり前にプロになるつもりでいたんですが、大学の頃に誘われて始めた同人活動が楽しくて、3年くらい続けていたら、編集さんから「仕事しませんか」とメールをいただいて、「そういえばそんな夢があった!」って(笑)。『月刊ウィングス』(新書館)にデビュー作の『天然!絶滅ヒーロー!!』が載って、初めてプロとの差に愕然としました。

―― 商業誌でのお仕事は、同人活動と比べていかがでしたか。
同人の頃からアシスタントがいたので、仕事場の体制はそのままで。当初は商業よりも同人にかける時間や人員の方が大きかったので、エネルギー的には商業の方が小さくて、デビュー作を描いている頃は、サークルの一部を使って商業誌の連載をするという感覚でした。
同人で、プロに負けない描き込みをしたり、毎月新刊を出すことをモットーにしていた時期があって。それはたぶん、公には認められていない二次創作をやることの背徳感や劣等感への反動だったんですが、ただ描くだけならプロになる必要がなくて。この数年でようやく、プロとして商業誌の制約の中でも高い意識をもって描き続ける、という気持ちにシフトできた感じです。

―― 自分の作品を作る上で、特に影響を受けた作品や意識する作家はいますか?
漫画だけではなくいろんなところから影響を受けています。私の手法では、新しい、誰も見たことがないものを創るのは無理なので。それなら、同じ引き出しをもっている人に届いて一緒に楽しんでもらえるといいなと。「○○みたいだ!」というのは、作家さんによっては嫌な感想かもしれないけど、私には嬉しい言葉です。

dww016_RyojiHIDO_pic2―― 『天然!消滅ヒーロー!!』でもディープな特撮ネタをやられていますね。
『デンジマン』とか『サンバルカン』とかがすごい好きで……『ダイナマン』が世代的に一番ストライクかな。勇者シリーズも好きだったんです。口があって喋るロボットが好きで、エルドラン3部作とか。『ミスター味っ子』とか『ジャイアントロボ』の今川泰宏監督のケレン味とか浪速節も好きで、それを漫画で表現するとすごく芝居臭くなるんですけど(笑)。

―― 「萌え」よりも「燃え」がお好きなんですか?
「LOVEよりは背中を預けられる関係のほうがよくね?」って。それだとネームが通らない。だからいつまでも商業誌でBLが描けないんです(笑)。先輩後輩でも信頼関係とか、BLの絡みよりバディ的なものとか因縁の仲だったり宿敵だったりという関係性が好きですね。

―― 『ナデプロ!!』もいわゆるBLという概念そのものをメタ的に描いている作品ですよね。
概念を全てメタ的に描くというか、『ナデプロ!!』は色んな意味でギリギリの作品ですね。元がドラマCDなんですが、見る人の立場によって、それぞれ耳が痛かったり、ニヤリとしたり、いたたまれなかったり(笑)、基本はギャグですけれど、そういう追体験ができる作品を目指していました。

dww016_RyojiHIDO_pic3―― 『TEMPUS:QUOVADIS』は、一転してファンタジー色が強い作品になっています。
昔見た『ウィングス』の印象なんです。次の巻で完結しないといけないんですけど、未曾有の災害とか、放射能とか、最近の出来事とも重なるので、この先、展開を考え直さないと最終巻は描けないんじゃないかと……。
 
―― 『空から!マイ☆NANNY』では、作品中に変な生き物が多く出てくるのが楽しいです。
今まで無意識に描いていたんですが、これが味なんだと言われて『空ナニ』ではあえて前面に出しています。ヒエロニムス・ボッシュの絵みたいな、どこかしら気味の悪い感じのものが昔から好きで。『空ナニ』は「癒し」だったり変な生き物が前面にでてくるから笑える話なんですけど、裏側では深刻な世界が同時進行してたりします。でも、久しぶりにひねくれずに直球の漫画を描いていますね。

―― 原稿はどれくらいのペースであげられるんですか?
ネームから作画まで1週間くらい。ネームで手間取る時もあるので、それさえ終わればあとは5日くらいですね。

―― いまは何人体制でお仕事をされていますか。
自分と、背景とトーンをやってくれるアシスタントの2人です。アナログの時は別にトーンを貼る人が2人いたんですけど、ComicStudioを導入してトーン代と人件費は劇的に下がりました。同人に力を入れていた頃は、月産数百枚で、スタッフが10人近くいた頃もあったので。

―― 最初にデジタル作画に触れたのはいつ頃ですか?
大学入学祝いでMacintoshのPerforma5440を買って。「やっぱりクリエイターはMac!」 みたいな先入観で。4.0への無料バージョンアップ付きのPhotoshop 3.0を買いました。最初はマウスだけで描いていて、dww016_RyojiHIDO_pic4どうにもならなくて、スキャナを買って、線画を取り込んでからマウスで塗るようにしました。デジタル以前はカラーは水彩で、デビュー作の店頭POPを描く時に72色セットのコピックを初めて買いました。iPadとか絵チャットとか、新しく絵を描く手段を見ると、とりあえず飛び付く癖がついていまますけど、唯一、試さなかったのはエアブラシですね。「美樹本晴彦先生みたいな綺麗な絵が描けるといっても、お高いんでしょう?」って(笑)。

―― マウスからペンタブレットに移られたのは?
8年くらい前、Intuos3からですね。友達が「タブレット、タブレット」と騒ぎだしたのを横で見ていて、「?」って、形とかまったく想像つかなくて。それでもマウスより綺麗に絵を描けるというので、「じゃあ買う」って。あまり店頭で試したりとか、検討ってしないんですよ。元をとるまで遊びつくすという自信が常にあるから。Cintiq 21UXは最後まで悩んだんですけれど、寝る前に意識がもうろうとしたまま、購入ボタンを押してました(笑)。

―― ペンタブレットを使い始めて変わったことはありましたか?
一からPCの中で絵を描けるようになったことと、色塗りが楽になったことですね。でも、私はペンタブレットでモニターを見ながら描くというのはあまり得意ではなくて。紙に描くのと違う感じがストレスで、時間がかかってしまうんです。独立したアシスタントさんが「液晶ペンタブレットいいですよ、はまりますよ」とずっと言ってたのをずっとスル―していたんですけど(笑)、何か変わるかなと思って買ったら「紙といっしょだあああ!」と。
アナログで描いていると、自分の調子で線が変わるんですけれど、Cintiqでも同じ現象が起きた時に、「これも!」と思いました。上手い時も下手な時もあるみたいな、紙に描くのと同じことがデジタルでできるというのは、すごいんじゃないかと。今は、アナログ時代が長い人ほどデジタルに移るなら、最初のステップはCintiqだと薦めています。価格的には一番上なんですけれど(笑)。

―― 現在の制作環境はどうなっていますか。
dww016_RyojiHIDO_pic5インテルiMacに、Cintiq 21UXを繋いでいます。ツールはPhotoshop CS5とComicStudio EX4、たまにPainterで。ペンはずっと標準芯を使っていたんですけど、みんな「フェルトがいい、フェルトがいい」と言うので、なんのこっちゃと思ってペンホルダーを開けたら入っていたという(笑)。フェルト芯は、いい具合に止まってくれてすごく描きやすいです。
Cintiqは角度がつけられるのがすごくいいいですね。トレス台も下に雑誌を置いて角度をきつくして使っていたので、これくらい立てられると首がこらなくていいんですよ。シールが好きで、変なシールとか見つけるとすぐ買っちゃって、Cintiqの端っこにも脱出ボタンとか、そういうのがベタベタはってあります(笑)。

―― ネームを試行錯誤する段階からデジタルなんですか?
最初からComicStudioですね。字を書いたり直したりがストレスなので、デジタルで台詞を全部打って、絵はComicStudioの下書き状態でレンダリングしたのを編集にデータで送っています。少し前までは紙に色鉛筆で描いていたんですけれど、これも描き直しが辛かったです(笑)。
一方で、コマを並べ替えたり、絵の大きさを変えたりもできるのは便利ですが、一発決め打ちで描けないのは、技術とはいえないんじゃという葛藤はありますね。でも、これを一発で描いているかどうかは、読者さんの立場を考えたら、そんなにこだわる所じゃないんじゃないかなあって。

―― デジタル原稿のメリットを感じる部分はどこでしょう。
データの場合は、汎用性が高く、渡した先で困ったことにならない。原稿の大きさとか、縮尺率の違いによる歪みとかにすぐ対応できる。あとはリテイクが速いので編集側もリテイクを出しやすくなったと思います。

―― 〆切ギリギリまで原稿をいじることができる?
それはないんです。自分の中にリミッターがあって、同じ1つの絵を描いていると、ある時点で飽きるという。気が抜けてからの線は絵にとって必要ない線だと思うので、もうすこし重厚な画面にするから一日まってください、ということがない。アーティストというよりも下請け業者みたいな感覚が強くて、漫画を発注されたら、製作して、納期までに納めます、みたいな。

―― それは最初のほうの話にあった、プロとしての意識みたいな部分ですか。
そうですね。納期がある仕事に差し支えるような感情的なものや、気分の乗る乗らないみたいなものは絶対にいれてはいけない、というマイルール。でも、作家友達が増えると、やっぱり本当に「作家!」っていう人がいて、降りてこないと描けないみたいな、すごい世界だ……と。逆にその人との間がすごく遠い(笑)。最近ちょっと影響を受け始めていますけど。私の場合は、降りてこようが来るまいが、描く。作品というより製品ですね。

―― 『マクロスF S.M.S☆物語』のようなコミカライズでは、普段のお仕事とは異なる部分がありませんでしたか。
dww016_RyojiHIDO_pic6語弊があるかもしれませんが、かなり楽だったんですよ。そもそも、本筋とは違うサイドストーリーみたいなものは同人誌で描きなれているので。アニメにもよると思うんですけれど、『マクロスF』は私の好きな世界観で、その上で作品として面白いもの、マクロスを好きな人が喜ぶものを模索するのはすごく楽しかったですね。元々、アニメが好きだから、見るだけじゃなく公式のチェックを貰って描かせてもらうというのは、2倍も3倍も作品を味わえるいい機会だったと思います。

―― 現在は『シルフ』で『空から!マイ☆NANNY』を連載中ですが、これからやっていきたいお仕事はありますか?
インターネットや電子書籍のような新しいものを使って、何か面白いことをやりたいですね。媒体や手法に縛られずに、紙で出すのもよし、電子書籍でもよし、ホームページで見せるのもよし。

―― TwitterやUstreamみたいなものを使って、何か新しいことや面白いことをやりたい?
それはありますね。『ナデプロ!!』で、キャラクターのアカウントでTwitterドラマみたいなものをやっているんです。ドラマCDと漫画の中間で、ファンの人に応える何かがないかと思って、キャラ同士がチャットしているような雰囲気をTwitterで見せられないかと試しているんですけれど。
脚本を作って、キャラ毎に中の人がスタンバイしてSkypeで同時通話しながら進めています。「次の台詞は間を開けないで」とか、「このリプライにはこういう台詞で応えて」とか。キャラのやりとりで世界を表現する。もし、そういうのがうまく広がっていったら、漫画という媒体も「作品」にとってのツールのひとつになると思うんです。それ単体でも楽しめるのは必須なんですけれど、キャラクター像が頭にはいっている人が、その世界の広がりを楽しめる企画を作るのが好きなんです。

―― いち漫画家というより、プロデューサー的な視点ですね。
そうですね。漫画の連載前にも企画書とか作るんですけれど、最初にパッケージで作るんですよ。

―― 単行本を見ると、アニメの設定表みたいなものを作られていて。ただ漫画を描くのではなく、作品をプロジェクトとして作っているような印象です。
私がプロデューサーをつとめる企画で、私が作画班にいるという。自作自演なんですけれど、自分で自分にキャラ設定を作るように命じて、企画部門があって、作画部門があって、営業が企画書を作ってみたいな。

―― 作画班の自分が描いた絵に、プロデューサーの自分が「決定稿」とかスタンプを押す(笑)。
dww016_RyojiHIDO_pic7そう! そんな感じ。その証拠に「決定稿」のスタンプもってます(笑)。私が1人で描くのに、「アオリの時にアゴのラインはここです」とか注意書きが書いてあったり。「目はこれは×、これは○」とか。サイン書いて日付書いて、「はい、決定稿!」って、ずっとごっこ遊びをしてるんです(笑)。
自分の作品がアニメ化してほしい作家さんは多くいると思うんですけれど、私はむしろ自分で作りたい。でもそんな技術ないし、動画も割れないし。だから頭の中にプロジェクトを作る。すでに原作アニメがある設定で、「そのコミカライズがこれだ!」みたいな感覚で描いてます。だいたい同業者には理解してもらえなくて、自分、漫画家で大丈夫なのかなってずっと思っています(笑)。

―― 最後になりますが、氷堂さんにとってペンタブレットとはどんな存在ですか。
液晶ペンタブレットは、まだ使って日は浅いですけれど長年使っている道具みたいな、そんな感じがあります。見た目は新しいんですけれど、ずっと前からこれを使っていたんじゃないかっていうくらい、本当に違和感がないんです。
 
 
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©Bonten/Wacom