2014年04月16日(水)

BLゲーム最前線
昭和通りは乙女ロードに通ず?

初出日:2009年8月27日
取材:前島賢・カナカナイン
構成:前島賢・平岩真輔

BLゲーム」が最近注目を集めています。“萌え”を中心に盛り上がった秋葉原に対して、池袋の乙女ロードを牽引するコンテンツのひとつ、“ボーイズラブ”を題材とした女性向けゲーム=「BLゲーム」は、主にPC用ソフトとして発表されていますが、最近ではその人気を受けて、家庭用ゲーム機への移植や、コミック化、アニメ化などのメディアミックス展開も始まるなど、大きな盛り上がりを見せています。
そのBLゲームの代表的なブランドのひとつが、『咎狗(とがいぬ)の血』『Lamento』という二つの大ヒット作を送り出しているNitro+CHiRAL(ニトロプラス キラル)。
いま最も熱いジャンルであるボーイズラブ・ゲームについて、Nitro+CHiRALのプロデューサー・でじたろう氏と、シナリオライターの淵井鏑(ふちいかぶら)さんに伺いました。

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Nitro+CHiRAL、誕生

Nitro+CHiRALの母体となったのは、美少女ゲームメーカー・Nitro+。美少女ゲームメーカーでありながら、「エロ」よりも「物語」を前面に出した作風が特徴。『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』『斬魔大聖デモンベイン』1などのヒット作を送り出し、熱狂的な男性ファンを数多く獲得してきました。
 
―― 美少女ゲームメーカーであるNitro+が「BLゲーム」に取り組むにあたって、ライターの淵井さんを始めとした女性クリエイターの存在は欠かせないものだったと思いますが、「BLゲーム」というものとの出会いについて教えていただけますか?
淵井 BL-game-saizensen_5BLゲームのさきがけとなった作品は、2000年の『好きなものは好きだからしょうがない!!』2(プラチナれーべる)だと思っているんですが、製作が発表された時から、オフィシャルサイトに毎日通って「いつ出るんだ、いつ出るんだ」と期待していました。それまでも、ボーイズラブ描写がある作品はけっこうあったんですが、女性向けの18禁ボーイズラブゲームをプレイしたのは、それがはじめてでした。

―― 最初から「BLゲーム」を制作することを目指していたのですか?
淵井 「BLゲーム」という世界ができた瞬間に、自分はここに行くしかないと決心したんです。もともと、創作活動にあたってボーイズラブというジャンルを目指していたんですが、ゲームというメディアなら、絵もあるし、音楽もあるし、シナリオもある。自分たちがやりたいことが全部できる、と思って、当時は、ただの大学生でしたが、何のあてもなくゲームを作る準備を始めていました。

―― そんな淵井さん達の情熱がきっかけとなって、Nitro+CHiRALブランドが設立されることになったわけですね。
でじたろう 『咎狗(とがいぬ)の血』のもとになったのは、淵井が原画家のたたなかな達と学生時代から準備していた企画でした。人から紹介されて見せてもらったのですが、それは非常に有望な部分と問題のある部分を両方備えた、すごく熱いものだったんですね。
BL-game-saizensen_1もともと、僕は、女性ユーザー向けの作品は作りたいと思っていたんです。いまはたとえ小さくても「女性向け」という市場は確実に存在するし、僕自身、25年前からコミケに参加していて……「BLとやおいをいっしょにするな」と怒られそうですが……女性参加者のやおいにかける情熱というのは半端じゃない、というのは常々感じていました。だからいい作品を投入すれば、今後確実に伸びていくと思ったんです。だから、とてもいい巡り合わせでした。
淵井たちは、「腐女子」にしかわからない感性を持っていて、何よりボーイズラブというジャンルへの熱い情熱がある。一方、美少女ゲームメーカーである僕たちNitro+は、ボーイズラブについてはよく知らないけど、ゲーム作りのノウハウはある。だから、ある意味、両者が手を組む、という意識でやらせてもらいました。

『咎狗の血』――男同士のぶつかり合い/極限状態の激情と執着

BL-game-saizensen_Amazon1―― とはいえ『咎狗の血』の開発がスタートした時点では、BLゲーム市場はまだまだ発展途上。そうした市場に参入するのは大変な冒険ではなかったでしょうか?
でじたろう あるジャンル、ある市場が活性化するために必要なのは、自分の趣味性をカミングアウトできるかどうかにかかっていると思うんです。胸をはって堂々と「私はコレが好きだ!」といえるか。関連商品が目の前におかれていたとして、恥ずかしくなく買えるか。
『咎狗の血』の開発を始めた2004年は「腐女子」や「乙女ロード」なんて言葉が使われだし、あるいは実際に、そうした女性向けのアイテムを取り扱うお店なども整備されてきたことで、少しずつ女性が自分の趣味を公言できるようになってきていた時期でした。

―― もともとコミケなどでは、やおいのような女性向けジャンルが盛んでしたが、“腐女子”という自称にも見て取れるように、体外的には少し後ろめたいイメージを含んだものでしたね。
でじたろう 自分が「いける!」と確信したのは、その年の春に『今日からマ王!』4がNHKでアニメになると聞いた瞬間です。「まるマ」シリーズは、BLというわけではありませんが、「BLっぽさ」はありますよね。原作小説を読んでいる読者の多くはBLと親和性が高い。
持論として「オタクのムーブメントはNHKが作ってきた」というのがあるんです。『風の谷のナウシカ』や『千と千尋の神隠し』で誰もが知る監督となった宮崎駿が、最初に大きな注目を集めるようになったのもNHKアニメ『未来少年コナン』だし、また『新世紀エヴァンゲリオン』を作ったガイナックスが一般に注目されたのも、同じくNHKで放送された『不思議の海のナディア』が大きい。あるいは、ロリっぽいキャラクターというものがものすごく盛り上がったのも『カードキャプターさくら』からだと思うんですね。
もちろん、コアなファンの間では以前から親しまれてきたものがほとんどですが、NHKをきっかけとして急速にオタクたちの中で一般化した。それはやっぱり、NHKで放送された、ということで「俺はコレが好きだ!」と大声でいえるようになったからだと思うんですね。
そういう意味で、2004年は、BLのひとつのターニングポイントになった年だと思います。
―― こうして制作されることになったNitro+CHiRALブランドの第一弾『咎狗の血』は、BLゲームとしては異例の大ヒットを記録します。ハードでシリアスな世界設定のもと、血と暴力が飛び交い、そして愛と狂気が交差する物語です。BLとしては異色のこのテイストは、どのように導き出されたのでしょうか?
淵井 BLっていうと、学園を舞台に男の子同士のラブストーリーを描いているライトなものが主流なんですね。だけどそうじゃなくて、男同士だからこそ成り立つ関係が描いてみたいと思いました。BL-game-saizensen_7たとえば男同士が憎みあいながらも惹かれあう、とか、あるいは親友同士が本気で殴りあう、とかって男性のあいだでしかありえない関係だと思うんですね。女性は、そういう「男の間でしかありえない関係」にすごく惹かれる部分がある。そういうものを描くために、必然的にぶつかりあうしかない、ハードな世界観になっていったんです。
CHiRALのゲームのキャラが、女の子っぽい外見、女の子っぽい声のキャラクターではなく、普通の男の子、普通の男っぽい声を使っているのも、そういう点からなんです。

―― 無法都市の物語だけに、暴力や殺人はもちろん、人体改造や麻薬など、きわめて凄惨な描写も少なくありません。
淵井 ハードな表現を嫌がる方もいらっしゃるんですけど、拒否されることを考えてしまうと、やりたことをやりきれないんじゃないかと思いました。だから、もう、やりたいことをやってしまえ、という感じでした。
BL-game-saizensen_2そういう残虐な行為を通してしか表現できない「関係」ってあると思うんです。ある人が好きで、好きすぎるがゆえに相手を殺してしまう。そういう行動も作中では描かれます。それはたしかに、傍から見ればおかしいですよね。でも、本人としてはすごく真剣に考え抜いた末に、そこにたどり着くしかなかった。
極限状態におかれてふっきれてしまった感情が、相手への執着につながってしまった時、そこにはどんな関係、どんなぶつかり合いが生まれるかを描きたかったんです。
とはいえ、好き勝手やってしまった作品が受け入れてもらえたのは、原画のたたなかなの力も大きかったと思います。残酷なシーンであっても、とても美しく描いてくれた。もしも、劇画調だったら、だれも買ってくれなかったかもしれません(笑)。

『Lamento』――猫たちの物語

―― 『咎狗の血』の大ヒットを受け、第二弾となる『Lamento』が製作されます。
でじたろう BL-game-saizensen_Amazon2最終的にはBLゲーム市場は大きくなると信じていましたが、やはり当時の市場は限られていたので、ある程度、採算がとれる規模で作られた作品が『咎狗の血』でした。ところが、おかげさまで『咎狗』は当初の採算ラインの数倍を売り上げることができましたので、今度は、全力をかけて作ろう、と。
淵井 一作目とはぜんぜんちがうことをやろうと思っていたんです。『咎狗』は近未来を舞台としたリアルな話だったので、今度はもっと幻想的な、ファンタジーとか面白いかな、と考えたんです。
とはいえ、最初は反発されると思いました。猫耳に対する反応は必ずあるだろう、と。
ネコ耳ってやっぱり、男性が萌えるもの、ユーザーに媚びたものってイメージがあるんですね。
だから、シナリオの中では、単に耳と尻尾をつけるんじゃなくて、彼らは人間がネコ耳をつけてるんじゃなくて、リビカという種族であり、その由来や説明も取り入れてみました。シナリオでも、獣のネコっぽい仕種を入れました。そうすることで、ゲームの発売後は、受け入れてもらえたのではないかと思います。

―― シナリオの分量は前作に比べて約二倍。一年の以上の期間をかけて作られた大作です。『咎狗の血』も同様でしたが、本来のルートだけでなく、バッドエンドとなるルートにも力が入っているのも特徴のひとつですBL-game-saizensen_4
淵井 そうですね。ハッピーエンドは、安心して楽しめる幸せな終わり方になりますよね。
いっぽうで「もしも間違ってしまった場合」というのは、予想外で、悲惨で衝撃的ですよね。ファンタジーですから、現実では不可能な残虐な描写も多少は可能なので、バッドエンドにも力を入れています。

―― 前作と比べ、ボリュームアップしたのはシナリオだけではなく、グラフィック面も大幅に強化されています。キャラクターたちの繊細な感情の動きにあわせて、表情はもちろん、ネコの耳や尻尾までも変化し、登場人物の微妙なニュアンスを表現する演出は、他のBLゲームはもちろん、男性向け美少女ゲームでも比類するものがないほど、力が入っているように思います。
でじたろう BLゲームだからできたことなんですね。
男性向けの美少女ゲームだと、ユーザーに「早く女の子と付き合いたい」あるいは「早くエッチなシーンを見たい」といった指向の方がいたり、大量の積みゲーを消化するためだったり、いろいろな理由からBL-game-saizensen_3あんまり凝った演出やエフェクトをつけると邪魔だと言われてしまうんです。すごい人になると、そもそもテキストを読まない(笑)。
逆に、女性の方は、非常に丁寧に作品をプレイしてくれて、キャラクターの表情とか、しっぽのうごきとかから、一生懸命ニュアンスをつかもうとしてくれる方が多い印象です。
なので、凝った演出をすれば、ちゃんとそれを読み取ってくれるので、作る側もやりがいがありました。

BLゲームのこれから

―― 『咎狗の血』に続く『Lamento』のヒットで、Nitro+CHiRALはBLゲームを代表するメーカーとして認知されるようになりました。これから先、BLというジャンルでどのような展開を考えられていますか?
でじたろう おかげさまで、2作とも、非常に好評をいただきましたが、それに触発されて、新しくBLゲーム業界に参入してくるメーカーなどがまだ少ないのが残念ですね。うちが脅威と思えるライバルが、もっともっとたくさん出てくると、その中で切磋琢磨してレベルが上がっていくし、市場も活性化していくと思います。
ですので、BLゲームを作りたいという方、メーカーさんがいらっしゃれば、僕としても、応援したいと思っています。みんなでいいものを作って、もりあげましょう。
淵井 BL-game-saizensen_6女の子の中にも、まだまだBLゲームというものの存在を知らない方が多いのがちょっと残念ですね。BLゲームの市場がまだ小さいということと、どうしても口コミがメインなところがあるので、誰かに薦められるとか、きっかけがないとなかなか存在に気づいてくれないんです。そういう人に、早く存在を知ってもらえたらと思います。
でじたろう 『咎狗の血』『Lamento』は、男である僕がプレイしても面白いゲームです。
Nitro+の作品は、もともと美少女ゲームでもBLゲームでも、男性だけ、女性だけに向けて作るものではなくて、まず純粋にエンターテインメントとして、誰にとっても面白い骨格を持っていると思います。実際、Nitro+作品のファンの1割~2割は女性ですし、CHiRALの作品は男性にも好評です。
もちろん、男性がプレイするには「ちょっとな……」と思うシーンもあるかと思いますが、そこはまあ、眼をつぶって流していただければ(笑)、十分に楽しんでいただけるはずです。
まだBLゲームを未体験の方、どうかこれを機会に、手にとって見てください。新しいエンターテインメントの世界がひらけるはずです。

―― 最後に、将来、淵井さんのようにクリエイターとしてBL作品に関わっていきたいと考えている人たちに向けてメッセージがあれば、お願いします。
でじたろう クリエイターになるといっても、実際にはどうしたらいいかわからない人が多いのではないでしょうか。まずは具体的な目標を立てることが大切です。
自分が創作活動をはじめたのは、高校二年生のときに運動部をやめてマンガ研究部に入った時でした。同人誌を作ってコミケに持っていったのですが、ぜんぜん、売れなかったんですよ。すごく悔しくて、なんとかもっと売れる本を作りたいと思って。
BL-game-saizensen_8そういう目標ができると、具体的にやるべきことが見えてくるはずです。「今、売れているものはどんな本なのか?」とか、「お客さんが読みたいと思っているのはどんな本なのか?」ということを調べた上で、どういう本を作ればいいのか、を考えることができる。実際、そうして自分はやりたいこととニーズとのバランスを取って、コミケの創作同人誌で、売り上げ一位の本を作ることができました。
淵井 こうした世界にあこがれる女性の中には、「作りたい作品」「やりたいこと」がせっかくあるのに、これをやったらダメかもしれない、こうしちゃダメかもしれないと考えすぎて行動に移せない人も多いんじゃないかと思います。
同人やウェブで作品を公開していても、後はじっと誰かから声がかかるのを待つだけ、みたいな感じで……。
でも、待ってるだけではなく、とにかく何でもいいから、行動をすることが大事だと思います。私もまさかこんな風にBLゲームを作れるとは思ってもいませんでした。何がきっかけになるかわからないので、色々なチャレンジをしてみて下さい。
 Nitro+CHiRALでは、『咎狗の血』『Lamento』に続くBLゲームの構想が動いているそうです。単なるブームではなく、大きなジャンルとして育ちつつあるBLゲームの世界で、これからどのようなクリエイターが活躍することになるのか。その行く先に注目です。
 

注釈

『斬魔大聖デモンベイン』

2003年にリリースされたNitro+のPC向けタイトル。クトルゥー神話をモチーフにした舞台で巨大ロボ・デモンベインが活躍する。『機神咆吼デモンベイン』としてPS2にも移植された他、2006年にはアニメ化もされて多くのファンを獲得している。

『好きなものは好きだからしょうがない!!』

2000年にぷらちなレーベルから発売された、初の本格的ボーイズラブゲーム。一般作としてPS2にも移植されるだけにとどまらず、小説、CD、アニメなどメディアミックスでも人気を得たBLゲームの先駆けとなるタイトル。

『今日からマ王!』

喬林知のライトノベル(角川ビーンズ文庫)。突然、異世界に流された高校生・渋谷有利が、眞魔国を収める魔王として、魔族と人間の間で戸惑いながらも成長していく。ボーイズラブ作品も手がける漫画家、松本テマリによる美形の男性キャラクターも人気。