2014年04月30日(水)

特別講義「Flashアニメーションのススメ」
編集家:竹熊健太郎氏 

THE FROGMAN SHOW」のテレビ放映が好評を博し、『やわらか戦車』のキャラクター商品展開が大々的に始まるなど、今、ネット発の新たなメディア「Flashアニメ」が熱い注目を浴びています。
未来のクリエイターに役立つ情報を、分かりやすくお届けするウェブ講義「ぷらちな特別講義」第1回は、早くからFlashに注目してきた編集家の竹熊健太郎氏にうかがう“Flashアニメーション”について。センスと個性が試される、クリエイターの新たな選択肢、Flashの可能性に迫ります。

竹熊 健太郎

kentaro takekuma

フリーの編集家として、マンガとアニメーションを主としたサブカルチャーに関わる編集・執筆活動を行う。2003年より多摩美術大学非常勤講師として「漫画文化論」の教鞭を執る。2006年より桑沢デザイン研究所「キャラクターメディア研究」ゼミ講師。
ブログやFlashといったネットコンテンツにも強く関心を持ち、自身のブログ「たけくまメモ」も多くの読者を集め人気となっている。

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『ほしのこえ』からFlashへ

Flash-anime_pic1僕個人は、さほどFlashの技術的な側面には詳しくはありませんから、特にそれを取り巻く状況について的を絞ってお話したいと思います。
 
僕はもともと個人製作のアニメに昔から興味がありました。いずれコンピュータ技術の進歩によって、アニメは個人ベースで簡単に作れるようになる、なってほしいと考えていたんです。
 
2002年に新海誠さんによる個人製作アニメ『ほしのこえ』1が現れたときは、いよいよそういう時代がやってきた、と思ったんですね。ところがそのあとが続かなかった。『ほしのこえ』は、あまりにクオリティが高すぎて、後に続くクリエイターが出てこなかったんです。
 
新海さんをプロデュースしたコミックスウェーブは、その後も個人アニメのプロデュースを行い、自主制作CG映画『惑星大怪獣ネガドン』なども発売されましたが、作者の粟津順氏はもともとプロのCG屋さんでしたし、しかも制作に二年半もかけているんです。
 
新海さん自身も、その後、大作路線をとるようになった。『雲のむこう、約束の場所』は、確かに見事に出来ているけれども、制作費が1億円もかかっているというんですね。たしかに1億円で劇場用のアニメが作れるというなら安いかもしれないけど、個人じゃそんなお金は用意できませんし、普通、制作に何年もかけられませんよね?
たとえば皆さんが『ほしのこえ』や『ネガドン』を見ても「すごい」とは思っても、「自分でも作れるかも」とはなかなか思えないと思うんですよ。『ほしのこえ』は作品単体ではヒットしましたが、個人アニメの時代を切り開くことはできなかった。作ろうと思ったら、とてつもない才能と技術と熱意が必要で、みんなが気軽にまねをするには敷居が高すぎたんです。お金がかかったり、技術の習得に時間がかかるものは、なかなかポップ・カルチャーになりえないんですよね。
 
Flash-anime_pic2だから。もう少し気軽に、マンガを描くくらいの手間暇で、アニメが創れるようにならないかな? と僕は思っていたんです。そんな時に少しずつ盛り上がってきたのがFlashだったんですね。『ゴノレゴ13』で有名になったポエ山さんのFlashアニメ『quino』を先駆けに、蛙男さん、ラレコさん、丸山薫さんといった方々をはじめ、少しずついろんな表現が出てくるようになった。最近では、蛙男さんのFlashアニメが『THE FROGMAN SHOW』としてテレビ朝日で放送され大きな話題を呼ぶなど、いま、個人作家によるFlashアニメがひとつのムーブメントになろうとしています。
 
ひとつのきっかけとなったのは、2005年に映像作家のルンパロさんを中心とした大阪の有志が企画したFlashを中心とした上映会+見本市「JAWACON」が始まりですね。蛙男さんやラレコさんといったFlash作家のビジネス展開のはじまりも実はここにあります。

Flashは第二の『新宝島』

僕は、Flashアニメは第二のマンガになると思っているんです。
 
かつて、手塚治虫さんのマンガ『新宝島』2が出た時、みんな「面白いけど、これなら自分でも書けそう」と、手塚さんのマネをしてマンガを描き始めた。そうした中から実際にプロになるやつがたくさん出てきて、マンガという表現が拡大していった。もしも手塚さんのマンガが大友克洋さんのように、素人には真似さえもできそうにないものだったら、多分、マンガはここまで広まっていなかったと思うんです。
 
Flash-anime_pic3たとえば、蛙男さんの作品を見たことのある人は多いと思いますが、たしかに面白いんですけど、絵にしても、技術にしてもそれほど高度なことをしているわけではない。ひとつひとつの作品も短いですから、『ほしのこえ』を見たときと違って、みんな「これなら俺も作れるんじゃないか?」と考えると思うんです。ただ蛙男さんにしても、ラレコさんにしても、センスは群を抜いていますから、あの水準ものを作るのはとても難しいんですが、見た目は誰にも作れそうに見える。これがすごく重要なことです。センスや個性で勝負が出来る世界だということですから。技術的な敷居も低い。Flashを作るためのソフト、Macromedia Flashは、パソコンについての詳しい知識がない人でもすこし練習すれば簡単に使えるようになるソフトです。
 
だから、映像やウェブの畑だけじゃなく、学生や、まったくのアマチュアを含めて、いろんなところから人が参入してくることになった。マンガ家やイラストレーターを本職にしているも多い。たとえば、「吉野の姫」という有名なFlashアニメを作った丸山薫さんなんかがそうですね。彼女は、もともとプロのイラストレーターとして活動していた。「吉野の姫」は最初、マンガとして描く予定だったらしいんだけど、たまたま「JAWACON」に出品してくれという話を受けて、Flashとして作ることにしたわけです。
 
あるいは『やわらか戦車』のラレコさん。キャラクターを作るセンスが抜群にすごい方ですが、もともとマンガ家を目指してアシスタントをしていたそうです。だけど、なかなかマンガ家デビューできそうになくて、どうしようかと思って試しにFlashを作ってみたら、それが大成功した。ラレコさんには今『やわらか戦車』のマンガ化の話が来ているらしいんですよ。今後はもしかしたら、Flashアニメがきっかけでマンガ家としてデビューする人が増えてくるかもしれませんよ? 丸山薫さんも、現在では、講談社のウェブコミックサイト『MiChao!』で作品を発表していますしね。
いうなれば、Flashは新たな自己表現のツールになろうとしてるんです。いろんな分野、いろんな人の個性が生かせるメディアです。そこから新しい才能、新しい表現が生まれてくるんじゃないかと期待しています。

映像ビジネスの革命

表現としてはもちろん、ビジネスモデルとしても、Flashアニメの展開は興味深い。特に、蛙男さんの『THE FROGMAN SHOW』は、アニメビジネス、映像ビジネスのあり方を根本的に変えかねない、実に画期的なことをやってます。
 
映像を作りたいという方は覚えておいてほしいと思いますが、映画やドラマ、アニメといった映像作品の著作権は、基本的にはスポンサーと製作会社、脚本家にしかありません。現場のクリエイターは作った映像の権利を持つことができないんです。蛙男さんはもともとTVドラマの助監督をしていまして、現場で汗水たらして作品を作っている当人たちが作品に対して権利をもてないことにずっと苛立っていたそうです。せっかくがんばって作っても、著作権はスポンサーやテレビ局にしかない……。
 
だから一旦、TV界を離れて、どうしたら映像作家が一人で権利を持てるか、自由な作品作りをできるか、ということを考えたんです。
 
Flash-anime_pic4そこで達した結論はというと、「一人で作る」「お金をかけない」ということでした。普通、商業ベースで映像を作ろうと思ったら1000万円単位でお金がかかるんですね。当然、個人ではまかないきれるものではありませんから、制作費を出してくれるスポンサーをさがさなければならない。でも、制作費を出すということは、権利よこせということだから、当然、作家はスポンサーの要求に従わなければいけなくなります。すると、いろいろと縛りが生まれてしまい、自由な作品作りができなくなってしまう。
 
でも、Flashであれば、ほとんどスタッフの人件費だけで映像を作ることができる。通常のアニメの何十分の一、何百分の一です。だから「お金はいりません、そのかわり権利もあげません」ということができるんです。実際、テレビ放映された『THE FROGMAN SHOW』も、DVD化された『菅井君と家族石』3も、権利はすべて蛙男さんとエージェント会社のDLEにある。だからビクターから出ている『菅井君と家族石』で、ビクターのマスコット・ニッパーくんを食べちゃう、なんて表現ができるんですよ。
 
映像作品というのは、とかくお金がかかるものとされてきましたが、個人でやるのであれば、月に二、三十万くらいの収入でも十分食っていける。そう考えると(蛙男さんやラレコさんの作品は、かなりのビッグビジネスになっていますが)、むしろFlashアニメとは、大企業が参入してもうまみがない部分でのビジネスに向いていると思う。
 
今後、ネットの発達で確実に到来するであろう、スモールビジネスの時代に対応した表現なんですね。

まとめ――Flashアニメのススメ

Flash-anime_pic5ここ十年の中でも、Flashというのはかなり画期的なジャンルです。
 
ネットだけじゃなくて、テレビの電波にも乗せられるし、キャラクターグッズにもなる。携帯コンテンツなんていうニューカマーもいます。携帯配信の動画として、Flashはまさにうってつけなんです。今、有望なFlash作家は引く手あまたで、少々、青田買いの様相を呈しているほどです。
 
もしも、自分が作りたいものがはっきりしているなら、Flashという選択肢が一番ですよ。ソフトをダウンロード購入すれば、今日からでも作り始めることができるし、作品をどこかに送ったりする必要さえない。ネットにアップすれば、センス次第ですぐに声がかかるはずです。あるいは、映像を作りたいけど、どうも人付き合いが上手くない、という人にとっても、Flashは強力な武器になるハズです。これまではアニメ作家になろうと思ったら、アート系を別にすれば、スタジオの社員、スタッフとして、何年も地道に修行するしかなかったわけですからね。
 
Flash-anime_pic6「自分はマンガ家になりたいから、マンガだけ描いているよ」という方もいらっしゃるかもしれない。でも、僕は今後、自分のやりたい表現によって複数のメディアを使い分ける時代がくると思っているんです。実際、丸山薫さんやラレコさんは、絵と映像(Flash)の両方を使いこなしている。だから、変な固執をしないで、見聞を広めるつもりでFlashに触れてほしいですね。
 
最後に。Flashにとって、それに限らず創作に重要なのは、やっぱりセンスです。センスというのは厄介なもので、勉強しようと思って勉強できるものではない。とにかく、いろんな作品を見て、いろんな経験をしてセンスを養っていってください。
 
 

注釈

『ほしのこえ』

映像作家・新海誠の代表作。圧倒的なクオリティで、それまでの個人製作アニメの常識を変えた。2002年の劇場公開では、小劇場での単館上映にもかかわらず、1か月で3500人もの人数を動員している。コミックス・ウェーブ社がプロデュースして一般発売されたDVDもヒットし話題をよんだ。

『新宝島』

手塚治虫が1947年に発表してヒットした冒険マンガ。当時、先鋭的だったその表現は、藤子不二雄や石ノ森章太郎といった後進のマンガ家に大きな影響を与え、マンガの世界が広がるきっかけとなった。

『菅井君と家族石』

蛙男商会のFlashアニメ作品。菅井家の面々が繰り広げるポップ&ブラックなエピソードの数々がネット配信で人気を呼び、DVD化まで至った。