2013年11月10日(日)

背景の背景を訪ねて
――美しい背景画を描くために大切なこと
絵師:ゆうろ

ま、背景が熱い! アニメやマンガ、イラストで美しく描きこまれた背景が注目されています。リアルな背景がきっかけになって、モデルとなった町をファンが訪れる、という現象で話題になることもしばしばです。
ぷらちなでは、そんなハイクオリティな背景を描くクリエイターのひとりである、ゆうろさんにお話を伺いました。
アニメ化も好評だったゲーム『ef-the first tale』で新海誠さんが手がけたムービーや、ゲーム『夜明け前より瑠璃色な』の背景など、数々の人気タイトルを支える背景画のプロフェッショナルとして知られるゆうろさんは、どのようにその美麗なイラストを描いているのか? 2回に渡ってその秘密に迫ります。イラストレーター志望者必見!!

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漫画アシスタントからCG作家へ

―― まずは簡単にゆうろさんのプロフィールから伺って行きたいと思います。まずイラストを描き始めたのはいつ頃からなんでしょう?
はじめは、大学を卒業してから漫画家になろうと思って上京したんです。それで、ゆうきまさみ1さんのところにアシスタントに行ったんですね。『じゃじゃ馬グルーミン★UP』の連載途中から入って、連載が終わる頃まで、ちょうど四年くらいアシスタントをしていました。

―― 『じゃじゃ馬~』の舞台はサラブレットの厩舎や競馬場など、非常に現実的で細かい描写の多い背景だったのではないかと思うのですが。
そうですね。そこでまず背景の技術を学んだわけです。

―― それまで、絵は完全に独学で?
ええ。基本的にみんな独学です。

―― その後はどのような流れで現在のような活動スタイルに至ったのでしょう?
アシスタントをやっている傍らで、コンピュータに興味があったので、CG を描いてホームページ上で発表していたんですね。そうしているうちに、ゲーム会社から原画や背景の仕事が入ってくるようになって、そこからゲームのほうの仕事を進めるようになった、という感じです。最近だと、ゲームでもキャラクターを描く人と背景を描く人がわかれているタイトルが多いと思うんですけど、昔は全部の絵を一人でやってたんですよ。

―― やはりゆうろさんと言えば、minori作品での新海誠さんのムービーの背景がひとつ大きな仕事だと思うのですが、新海作品ならではの苦労というのはありますか?
haikei-no-haikei-wo-tazunete01色彩も独特ですし、それを抜きにしてもクオリティーが高いですから、一番気を遣う仕事のひとつではありますね。新海さんは、特に個人のキャラクターというか、「新海さんの作品の美術というのはこういう感じだ」というイメージがファンの皆さんにもかっちりあるので、そのイメージを壊さないようにしたいということを意識していますね。

―― 最近では、背景のお仕事がありつつ、ご自身で原画もやられつつ……という感じだと思うのですが、そうした仕事のスタイルはどのような形で生まれたのでしょう?
たまたま背景の仕事がいっぱい来るだけです(笑)。

―― なるほど(笑)。やはり、すぐれた背景が描ける方の需要というのは、業界的に多いんでしょうか。
そうですね。ぶっちゃけて言ってしまえば、キャラクターを描くひとって本当にいっぱいて、需要と供給で、供給の方が多いんですけど、背景はそんなことはありませんから。

―― 個人活動での作業環境は最初からデジタルですか?
そうですね。

―― アナログの画材で描かれていた時期はないんですか。
アナログはほとんどないです。

―― アニメの背景では、デジタル作画全盛の現在でも、いまだに画用紙に絵の具で描いていることが多いので、背景美術で最初からデジタルというのは珍しいですよね。
haikei-no-haikei-wo-tazunete02ゲームの背景は、ここ10年とか20年位に出てきたものなので、新しいものだということも大きいと思うんです。アニメーションの背景をやってらっしゃるみなさんは、ベテランの方が多いですよね。ジブリ作品の男鹿和雄2さんであるとか。
 
―― 確かに、山本二三3さんにしろ、小林七郎4さんにしろ、有名なクリエイターは年齢がだいぶ上になりますね。
僕にしてみれば、絵を描き始めたのが10年ちょっとくらい前の段階で、もう画材としてデジタル環境が存在していたので、そこで最初の段階から「アナログかデジタルか」という選択をすることができたんです。そこで僕はデジタルを選んだ、という。

―― 昔とくらべて、使っているソフトに変わりはあるのでしょうか?
そんなに変わってないです。今使っているのはPhotoshopとPainterですけど、Photoshop のバージョンが5.5で、Painter のバージョンが6 。この辺は5年位前からあんまり変わってないですね。

―― あまり、最新のものへの切り替えは意識しない。
ええ。特にPhotoshopなんかは、アニメ背景の塗りをする場合には、そんなに最新の機能はいらないんですよね。むしろ、バージョンを上げることで動作が重くなっていくことのデメリットのほうが大きいかな、というところがあります。もちろん、使い慣れてるものをわざわざ変えなくてもいいかな、という気持ちもありますね。

ゆうろ式テクニック講座・その1

―― 絵を描き始める際には、最初の取っ掛かりの部分からデジタルで描き始められるのでしょうか?
下書きまでは紙です。それを取り込んで、線をクリンナップするところからがデジタルですね。

haikei-no-haikei-wo-tazunete03―― 背景を描くときに押さえないといけないポイントはどんなところにあるのでしょう? ここを押さえておかないと、ひと目で「この背景はだめだ」とわかってしまうような点といいますか。
とりあえず、パースが狂っているとか、間違えないようにしないといけないって言うのはありますよね。もうすこし正確に言えば、必ずしも厳密に「正しい」必要はないんですけど、「間違っている」ように見えてはだめなんですね。

―― なるほど。
これは背景に限らず、絵にしてもそうなんですが、例えば消失点のとり方に、一点透視とか二点透視とかありますけど、二点透視を正確に全部二箇所の消失点に集める必要はないんです。間違っていても、その方が絵としては気持ちよかったりするときもありますから。ただ、ずれていることで「何かおかしいな?」と見ている人が思うようだとだめなんです。そこの微妙さは難しい。

――  その感覚は、やはりアシスタントの現場で教えられたものなのでしょうか?
特にアシスタント向けに「描き方講座」みたいなものを行うことはなかったですね。実際の作業をやっていく中で、「ここは違うよ」と指摘されて直したりとか、こちらから「どうやるんですか」と聞いて教えてもらったりとか、とにかく仕事の中で覚えていった感じですね。いきなり資料を渡されて「こんなの描いてね」と(笑)。

――  なるほど(笑)。資料の中にはロケハンによって用意されたものもあったと思うのですが、絵を描くのに最適な資料写真を撮るためには何を心がければいいのでしょう?
そうですね……例えば、新海さんがご自身で背景を描かれるときは、割と写真の構図を利用して、そこに手を加えられている場合が多いですよね。そういうやり方をするのであれば、写真を撮るときから実際にできあがる画面を考える必要があると思いますが、そうでない場合には、シーンごとによって見る角度が変わることを意識して、それぞれの角度からみた面がわかるようにすることが大事だと思います。いざモデルにして描こうとするときに、見えない部分がないように撮る、ということですね。

―― たとえば、ありもののカタログなどを資料にすると、そこに実際にひとが暮らしている感覚を盛り込むのに苦労すると思うんです。そこのデザイン性と日常性のバランスはどのようにとればいいのでしょう?
資料を見つつ描いたものに、色々生活感のあるものを加えていくことでバランスをとる感じですね。haikei-no-haikei-wo-tazunete04マンションのカタログなんかだと、家具があっても、散らかってる部分があまりないと思うので。台所だったら、洗剤があって、調味料があって、流しには三角コーナーがあって……とか、実際の生活に必要なものを小道具として加えるといいんじゃないでしょうか。机の上には雑誌が無造作に置いてある、とかもそうですね。ただ、これはあんまりやりすぎてもだめだと思うんです。仕事によっては、小綺麗にまとめた方がいいものもありますし。

―― 光源の位置というのはどのように意識されていますか?
ゲームの背景だと、あえて光源の位置はあまり気にしすぎないようにしています。後からキャラクターが乗るものなので、あまり光源や陰影をはっきりさせすぎちゃうと違和感が出てしまうんです。

――  その一方で、新海さんの作品のように、すごく濃い影を落とされている作品がありますよね。そこの切りかえというのはサッとできるものなんでしょうか?
いや、苦労しながらやっていますよ(笑)。

haikei-no-haikei-wo-tazunete05―― この『君が望む永遠』での絵は、非常にアナログ的なタッチで描かれていますよね。
これはヒロインの遙が描いた絵本という設定でしたので、Painterで描いて水彩絵の具っぽい感じを出していますね。

―― PCで絵を描くとき、タッチの問題は大きいですよね。特に、自然物を描くことに苦労することが多いと思うんです。「葉っぱの形が気に入らない」とか。
そういうときは、葉っぱ用のブラシを作ったりもしていますが……まあ、最後は根性でひたすら描くしかないですよね(笑)。アナログの筆は、適当感が出せるのが非常にいいんですよね。適当で、すごく味のあるタッチが出せるのは非常に強い。どうしてもデジタルでやると、決まったものしか出せないので、そこら辺が難しいですね。PainterとPhotoshop で、ツール間を行ったり来たりしてなんとか調整します。

―― そこでアナログなものも取り入れよう、という風にはならなかったんでしょうか?
それはないですね。デジタルの便利さがやはりありますし、今の仕事――特にゲーム――だと、パーツごとにレイヤーを分けてくださいとか、そういう後からデジタル処理をする仕事が多いので、アナログだとそれができませんからね。たとえば、同じ風景の夜の絵が必要となったら、アナログだとまた一から、塗り直しになっちゃいますから。

―― ツールの使い分けでいえば、新海さん的なグラデーションの空はPhotoshopで、雲はPainterという感じでしょうか。
そうです。雲はPainterですね。タッチが欲しいところがPainterになります。

―― ちなみに、ゆうろさんは3Dのソフトは使われないんですか?
全然使ってないですよ。使いたいな、と思うときもあるんですけれど。特に、教室の机とか、ビル街とか、四角いものが並んでいる様子は、いちいちパースをとって描いていくのがすごく面倒なんですよね。ポリゴンを使えると、ただ立体を置いていくだけだから楽そうだな、なんて思ったりします。でも、今からまた3Dを勉強しなおすのも大変だな、と思うんです。

―― 最近アニメの現場なんかでは、簡単な3Dモデルでアタリをとることも多いですよね。
そうですね。僕も、Photoshopでできるような、簡単なアタリの付け方は多少使ってますけどね。机を並べて配置するときに、正方形を並べたやつを変形させて、机の位置だけをわかるように作ってみたりとか。
 

注釈

ゆうきまさみ

漫画家。代表作に『究極超人あ~る』『機動警察パトレイバー』など。週刊ヤングサンデー(小学館)で『鉄腕バーディー』を連載中。

男鹿和雄(おがかずお)

アニメーション美術監督として、ジブリ作品の多くに参加。トトロの森を描いた人として知られる。1952年生まれ。

山本二三(やまもとにぞう)

アニメーション美術監督。映画『時をかける少女』の生き生きとした背景が話題に。1953年生まれ。

小林七郎(こばやししちろう)

日本アニメ界を代表するベテラン美術監督。男鹿和雄氏など多くの美術スタッフに師事している。『ルパン三世 カリオストロの城』など。1932年生まれ。

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