2014年08月25日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 040
グラフィックデザイナー:岩屋民穂

取材日:2014年7月8日
取材場所:ワコム西新宿オフィス
取材・構成:高瀬司

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イラストレーター、マンガ家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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グラフィックデザイナー

岩屋民穂

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1978年生。サイバーパンクやテクノカルチャーをベースに、「GraphersRock」名義でCDジャケット、アパレル、グッズ、広告媒体と多岐にわたるメディアでグラフィックワークを展開している。最近の主な仕事に、でんぱ組.inc、tofubeatsのCDジャケットデザイン、アニメ『ダンボール戦機』シリーズのパッケージデザイン、『ILLUSTRATION 2014』(翔泳社)表紙アートワーク、きゃりーぱみゅぱみゅの“なんだこれTV”番組セットデザイン等。また日本電子専門学校グラフィックデザイン科で非常勤講師も務める。

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dww040_TamioIWAYA_pic1―― 岩屋さんが創作活動を始めたのはいつ頃からですか?
子どもの頃からよく絵を描いたり空き箱で工作をしたりして遊んでいました。今の仕事もその延長線上にあるのだと思います。ただ絵を描くのが特別うまかったわけではなく、今の仕事に繋がる直接の原点は中学生のときにずっとほしかったパソコンを買ってもらったところにあると思います。

―― パソコンをほしいと思うようになったきっかけは何でしょうか。
子どものときに1985年の「つくば科学万博」に連れて行ってもらい、そこで見た“未来感”に衝撃を受けたことで興味を持ち始めました。それ以来、父親にねだり続け中学生のときにようやく買ってもらったNECのPC-98シリーズでグラフィックを作るようになりました。IllustratorやPhotoshopもない時代だったのでBASICでプログラムを組んで、丸や四角といった図形を組み合わせたグラフィックを制作していました。

―― その頃に創作上の影響を受けたものはありますか?
SF映画とクラブカルチャーから受けた影響は大きいです。SF映画では中学生のときに観た『2001年宇宙の旅』が衝撃的で、その後も『ブレードランナー』や『攻殻機動隊』といったサイバーパンク作品からはビジュアルイメージを含めてとても影響を受けました。また高校生の頃はクラブカルチャーが全盛期で、中でもテクノは音楽だけではなくフライヤーやCDジャケットといったグラフィックと融合することで盛り上がりをみせていたジャンルで、デザイン面で興味深い作品が数多くありました。特にWarp Recordsのデザインを手がけたThe Designers Republicや、Underworldのメンバーも所属しているデザイナー集団・tomatoの活動は印象的でした。

dww040_TamioIWAYA_pic2―― その後デザイナーになった経緯を教えてください。
パソコンを使ったグラフィックの仕事に就きたいと思い、高校卒業後は日本電子専門学校のグラフィックデザイン学科に入りMacを使ったDTPを学びました。授業でひと通り知識を身につけて在学中にデザイナーとして活動を始め、主にグラフィックの制作や写真の修正を請け負うようになりました。卒業後は出版社に一年ほど在籍して雑誌のレイアウトの仕事をしていましたが、仕事を終えて帰宅してからも個人制作のグラフィックに取り組んでいました。その後小さなデザイン会社を経てフリーランスのデザイナーとして独立しました。

―― 当時はどのような作品を作っていたのでしょうか。
Tシャツのデザインをすることが多かったです。当時はまだインターネットが普及していなかったので自分の作品を発表できる場が今より少なく、デザイナー志望者の多くはアパレルなどの身につけられるものに自分のグラフィックを落とし込んでいました。アパレル系のデザイナーではA BATHING APEのスケシンさんことSKATE THINGさんの作品が好きでした。当時はMacを使ったデジタルタッチの作品が主流でしたが、スケシンさんはデジタルで制作しているにもかかわらず壁にスプレーで絵を描くグラフィティのようなデザインをしていて、デジタルアートとストリートアートという異なったジャンルを結びつけた作風に新鮮さを感じました。

dww040_TamioIWAYA_pic3―― 岩屋さんのお仕事はMaltine Recordsを筆頭に音楽とネットカルチャーを融合させた作品が多いですが、どのような経緯で携わるようになられたのでしょうか。
元々音楽好きだったこともありMaltine Recordsには「インターネット上でおもしろいことをやっているレーベルがある」と初期の頃から注目していました。そんな折に主宰のtomadとお会いする機会があり、「何か一緒にやろう」という話をきっかけにジャケットやフライヤーのグラフィックを作ることになりました。結果的に、ネットレーベルであるMaltine Recordsと僕のサイバーパンクやテクノカルチャーから影響を受けた作風はすごく親和性が高く、うまくフィットしてくれました。僕個人にとってもCDジャケットデザインの仕事が本格化するひとつの転機だったと思います。

―― Maltine Recordsのデザインではどんなことを意識していましたか?
Maltine RecordsはCDという形ではなくインターネット上に音源をアップロードしているため、通常のCDジャケットではなくサムネイルとしての魅力を念頭に置きました。たとえばタイトルは大きめに配置し、配色もRGBでなければ出せない色を中心に使うようにして、小さなサイズでも目立つようにしていました。さらにiTunesの画面で見たときに見栄えがいいかどうか必ずiPhone上でチェックするようにしていました。これはその後、他の作品でも継続して行っていることです。またネットレーベルではサイトを訪れた方に再生ボタンを押してもらうことが重要になるため、訪問者に「このジャケットにはどんな音が入っているのだろう」と興味を持ってもらえるよう、簡単に内容の想像がつくようなものではなく抽象的なイメージを大事にしました。

―― 一般的なCDジャケットで気をつけていることはありますか?
でんぱ組.incのアルバムのようにアイドルの写真がメインにあるものや、tofubeatsのアルバムのようにmemoさんのイラストがメインにあるものは、元の素材を活かすことを最優先しdww040_TamioIWAYA_pic4僕のグラフィックはあくまでそれらを引き立てるためのものだと考えています。その前提のうえで僕のグラフィックによってメインのモチーフに何らかの化学変化を起こせるよう意識しています。
またデジタル音楽プレイヤーやダウンロード販売の普及で、CDは音を運ぶためのメディアというよりもファンがコレクションするものや好きなアーティストを応援するためのものとして買われている方が多いと思います。なので部屋に飾るとインテリアとしてかっこよかったりギミックに工夫が凝らされていたりと、CDそれ自体がグッズとして成立することが重要だと考えています。

―― それを意識してデザインされた作品について教えてください。
DJ TECHNORCHのCD『STRAIGHT』の限定盤が代表的な例です。ダウンロードでは得られない魅力を提供しようと500枚限定で一枚一枚自分の手でコラージュして制作し、物質としての魅力を生み出せるようにしました。これは現代美術家の梅沢和木さんが、カラーコピーで作った自身の作品集に対して一冊ごとに手描きでペイントを加えていて、そのことによって複製物の作品集であるにもかかわらず一点ものの持つオーラをまとっているように見えたところからインスピレーションを得ています。

―― 岩屋さんは個人制作のアートワークにも積極的ですがクライアントワークとはどういった違いを感じますか?
dww040_TamioIWAYA_pic5グラフィックデザイナーはアーティストであると同時に、相手がほしいと思っているイメージを目に見える形に置き換えるというサービスを提供する仕事です。なのでクライアントワークに取り組む際は、自分がかっこいいと思っているものを他の人もかっこいいと思ってくれているだろうかという自問自答を常に繰り返しています。一方、プライベートワークは表現のための実験というつもりで行っている側面があります。自由な発想で作ることができるためそのプロセスの中でしか得られない発見があり、そこで身につけた手法や表現がクライアントワークにフィードバックされることも多いです。でんぱ組.incのCDジャケットも、「デジタルでキュビズムのような抽象画を描いたらどうなるのか」と思い制作したプライベートワークの表現を応用したものですし、自分の引き出しを増やすためにもこうした実験は今後も続けていくつもりです。

―― 作品制作の環境を教えてください。
ソフトはIllustratorとPhotoshopをメインにペンタブレットとマウスを併用して作業しています。以前、板型のペンタブレットを購入したのですが、手元で描く感覚と画面上で動く範囲の差に違和感がありマウスがメインになっていました。しかし去年、液晶ペンタブレットの「Cintiq 22HD touch」を購入したところ紙に描くような自然な感覚で使うことができ、今では作業に欠かすことのできないツールになっています。その後、外出先でも使えるよう「Cintiq Companion」も購入しました。

―― 液晶ペンタブレットを導入したことで作品に変化はありましたか?
マウスは直線的なものを作るのには向いていますが、うねうねと曲がりくねったものを描いたり輪郭にそって画像を切り抜いたりする作業は液晶ペンタブレットなしには考えられません。かかる労力が全然違います。また僕は元々、未来的なガジェットとしてパソコンにひかれた経緯があるので、液晶ペンタブレットがデスクの周りに配置されている光景はいかにも21世紀の仕事場という感じがしてテンションが上がります(笑)。

―― 今後挑戦してみたいことについてお聞かせください。
色々あります。たとえば以前に2回ほど個展を開催したことがあったのですが、次の機会では3Dプリンターを使って立体物を作ったりインスタレーションとして空間を設計したりといった、デジタル作品を展示することdww040_TamioIWAYA_pic6の意義にもう一歩踏み込んだ工夫を盛り込みたいと思っています。また書籍にも興味があります。電子書籍化されると文字や画像の情報だけになってしまいますが、そのことで逆に書籍の物質感が見直されるのではないかと思うので、マンガも含め電子書籍時代以降の書籍の装丁をやってみたいです。またTVアニメ『ダンボール戦機』シリーズのパッケージデザインを手がけましたが、アニメ関連のデザインも提案したいことがたくさんあります。今主流のメソッドとは異なる新しい方法論でデザインができるのではないかと思っています。
 
 
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©Bonten/Wacom

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