2014年09月25日(木)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 041
マンガ家:今井哲也

取材日:2014年8月19日
取材場所:ワコム西新宿オフィス
取材・構成:高瀬司

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イラストレーター、マンガ家、アニメーター、CGクリエイター、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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マンガ家

今井哲也

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2005年に『トラベラー』にてアフタヌーン四季賞を受賞しデビュー。高校のアニメ研究会を舞台にした『ハックス!』(講談社)、団地を舞台にした近未来SF『ぼくらのよあけ』(講談社)で実力派の若手マンガ家として注目を集める。2013年に『COMICリュウ』(徳間書店)で連載中の『アリスと蔵六』で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞受賞。創作活動のほか、団地団やコンテンツ文化史学会などトークイベントへの参加も多数。

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dww041_TetsuyaIMAI_pic2―― 今井さんが絵を描き始めたのはいつ頃ですか?
小さい頃からよくチラシの裏や自由帳に鉛筆で落書きをしていました。家に手塚治虫さんや藤子・F・不二雄さんのマンガがたくさんあり、それらをまねして描くことが多かったです。高校ではマンガ研究会に入り、藤子・F・不二雄さんから影響を受けた絵柄でSFショートショートを描いていました。

―― その後に影響を受けた作家や作品を教えてください。
大学に入ってからは、マンガを幅広く読むようになりました。中でも、日常会話や人々の自然なしゃべり方をマンガに落とし込むための方法論として、黒田硫黄さんや福島聡さんのネームやコマ割りを見て、勉強していました。映画では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズが好きでした。複雑に伏線を張りめぐらせながら最後にはそのすべてをきれいに回収して終わる物語の組み立て方は、マンガのプロット作りにおいてとても参考になりました。

―― 大学時代もマンガ研究会で活動していたのでしょうか?
アニメーション研究会に所属していました。マンガはひとりでも描けるので、サークルに入るなら絵の勉強になったりマンガとは違うものを吸収できたりしたほうがいいだろうと思ったからです。自分たちが制作の中心になる3年生のときは作画スタッフだけでなく副監督も担当したのですが、監督や他のスタッフと話し合っているとひとりでは絶対に思いつかなかった発想が生まれてくるところに、集団制作ならではの魅力を感じました。

―― プロのマンガ家としてデビューした経緯を教えてください。
マンガは在学中ずっと描き続けていて、大学4年生のときにタイムトラベルものの短編SFマンガ『トラベラー』でアフタヌーン四季賞をいただきました。その後なかなか連載に至らなかったのですが、担当編集さんからアニメーション研究会時代の経験を生かした企画を提案していただき、2008年にdww041_TetsuyaIMAI_pic6高校のアニメ研究会を舞台にした『ハックス!』で初めてのマンガ連載を開始しました。ただ実体験だけで描いているわけではなくアニメ制作会社へ何度も取材や見学に行って描いています。そのつながりもあり、次回作の『ぼくらのよあけ』では舞台となる団地をアニメ制作会社に3DCGでモデリングしていただくというスタイルを取ることができました。

―― 3DCGで団地を作った理由は何ですか?
背景を担当するアシスタントさんの技術やスケジュールを気にせずに、どんな角度からでも正確なパースで団地を描くことができるからです。『ハックス!』ではアニメ研究会の部室が繰り返し登場しますが、同じ場所を様々なアングルから描くことはとても大変でした。『ぼくらのよあけ』の団地はそれ以上に手のかかる作業になると思い、取材で知り合ったアニメ制作会社のプロデューサーに相談し、団地の外観や室内などキーとなる場所のモデリングを依頼しました。

dww041_TetsuyaIMAI_pic5―― 3Dを元にした背景が完成するまでの作業手順を教えてください。
毎月ネームの段階で3Dモデルを使いたいコマをピックアップし、こんなアングルからこんなレンズで撮ったような絵がほしいという形でスタジオにお願いしていました。完成データを受け取った後、それを下絵にしてアシスタントさんが団地を描くという流れです。現在『COMICリュウ』で連載中の『アリスと蔵六』では使っていませんが、今後も手で描くよりも3Dでモデリングするほうが効率的なロボットものや同じ舞台が繰り返し登場する学園ものをやることがあれば再び活用するかもしれません。

―― 『アリスと蔵六』は第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門新人賞を受賞されましたが、これまでの作品と異なる作り方などはあるのでしょうか?
前2作はリアルな話し言葉のようなセリフ作りを意識していましたが、『アリスと蔵六』はキャラごとに特徴的な口調を設定するなどマンガらしいセリフに寄せています。また初めてラストを決めずに描き出しているため、手癖だけで進めないよう数話ごとの短いスパンで新しい物語が展開する構成にしています。

―― 絵の面で変わったことはありますか?
構図の印象が変わったのではないかと思います。ここ一年くらいよく趣味でカラーイラストを描きTwitterに投稿してきたことが、とてもよい訓練になりました。これまではコミックスの表紙や連載のカラーページくらいしかカラーを描く機会がなかったのですが、構図やシチュエーション、ライティングやカラーのパターンを毎回変化させて描いてきたため、カラーイラストが格段に上達しました。その結果、モノクロで描いている『アリスと蔵六』でも構図のパターンが増えました。

―― イラストとマンガで絵作りの違いはありますか?
dww041_TetsuyaIMAI_pic1マンガではグラビアや記念写真らしい決めポーズにせず、スナップ写真のように描くことが大事だと思います。一枚の絵ではなくその前後を意識し、コマの連続によってキャラを生き生きと見せる必要があるからです。ただ僕の場合、イラストもマンガのような自然なシチュエーションを強く意識して描いています。たとえば誰かに呼びかけられる絵を描くにしても、正面から知った人が現れるのと後ろから急に声をかけられて振り向くのでは表情やポーズも違ってきます。イラストでもそうしたシチュエーションの違いを設定して描き分けるようにしています。そのためキャラを描くときは一瞬の自然な姿をとらえた絵作りを心がけていますし、カメラ目線のような印象的な絵にしていない分、背景や構図により気を遣うようになりました。

―― 絵を描くツールは何をお使いですか?
ペン入れまではアナログで描き、その後ペンタブレットを使い、モノクロの場合はComicStudioで仕上げを、カラーの場合はSAIとPhotoshopで彩色と仕上げを行っています。プロデビューするまではすべてアナログで描いていましたが四季賞の賞金でパソコンと「FAVO」を購入し、それ以後は今のスタイルで続けています。ペンタブレットは『ハックス!』の連載中に「Intuos3」に買い替えました。

―― デジタルツールの使い方はどうやって勉強したのでしょうか。
初めて触れたのは大学のアニメ研究会の部室です。当時は今ほどデジタル作画が普及していなかったのですが、アニメ研究会ではペンタブレットをはじめAfter EffectsやPremiereなどのソフトを購入していて、編集や撮影に関するしっかりとした設備がそろっていました。僕はPhotoshopで背景を描いていたのですが、どうすればアニメらしい塗りの背景になるか試行錯誤していました。

dww041_TetsuyaIMAI_pic4―― 参考にしたものはありますか?
アナログの絵のほうがデジタルで色を塗るための勉強になることが多かったです。たとえばアニメの背景美術制作会社・草薙の作品をまとめた画集や、美術監督の男鹿和雄さんの画集を参考にしていました。特に男鹿さんの画集は、どんな色の絵の具を使用しているのかといったメイキングコメントがそえてあったため、とても勉強になりました。一般的にアナログのほうがデジタルに比べて絵の密度が下がるものですが、シンプルなストロークと少ない色の数で美しいコントラストや光の表現をしていることに驚かされました。

―― デジタルに触れたことで作品に変化はありましたか。
絵で力を入れるべきポイントを理解することができました。例えばアニメ制作では編集の段階でAfter Effectsで光などのエフェクトを加えごまかしていた部分があったのですが、そのことで逆にどこの描き込みで手を抜くとごまかした絵になってしまうかというようなことがわかるようになったからです。また、レイヤーという概念を知ることで、絵を描くときの考え方が大きく変わりました。レイヤーの重なり方で奥行きを表現できるため、それ以来、絵やマンガを描く際は前景と遠景に何をどのように配置するかという点に気を配るようになりました。加えて仕上げのスピードが大きく上がりました。アナログではベタを塗ったら筆を洗ったり拭いたりする必要がありますし、直線を引くときには定規を持つなどツールを持ち替える作業がついて回ります。しかしデジタルならばショートカットを作り込むことでツールを変更するための時間を限りなくゼロに近づけることができるため作業が効率化できました。

dww041_TetsuyaIMAI_pic3―― 本日「Cintiq 24HD touch」を使ってみていかがですか?
これまで線画をアナログで描いていたのはペンタブレットで線を引くことに苦手意識があったからなのですが、液晶ペンタブレットならばダイレクトに画面に描ける分、アナログと変わらずに描くことができました。また塗りの作業がとてもやりやすく感じます。高い解像度の大きなディスプレイで作業するとブラシでカラーを描くときの爽快感が全然違いました。ひとつひとつの作業が少しずつ気持ちよくなりスムーズになることで、作業全体を通してみると大きなスピードアップにつながると思います。

―― 今井さんの今後の目標を教えてください。
今は『アリスと蔵六』の連載で手いっぱいなところがあるため、まずは連載をおもしろく続けることに集中したいと思っています。ただその中で作業スピードを上げて月に描けるページ数を増やし、短編や読み切りにもっと関われるようになりたいです。
 
 
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©Bonten/Wacom

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