2015年11月16日(月)

Drawing with Wacom
CREATORS INTERVIEW 053
イラストレーター:前田浩孝

取材日:2015年9月10日
取材場所:ワコム西新宿オフィス
インタビュー・構成:梵天編集部

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イラストレーター、マンガ家、アニメーター、デジタルアーティスト、3Dモデラー、グラフィックデザイナー。様々なフィールドで活躍するクリエイターたちにとって、デジタルで創作を行う際に欠くことのできないアイテム「ペンタブレット」。デジタル作画の広がりとともに、ワコムのペンタブレットは世界中の数多くのクリエイターたちに選ばれてきました。
ワコムと梵天の共同企画であるDrawing with Wacom(DwW)では、ワコムのペンタブレットを手にした人気クリエイターたちの、ペンタブレットとの出会いから現在までを連続インタビューという形で紹介していきます。
インタビューの後には、ワコムの液晶ペンタブレットを使いサイン入りイラストを描いてもらう様子を動画で収録。メイキング動画はYouTubeワコムチャンネルで公開しています。

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イラストレーター

前田浩孝

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限界まで研ぎ澄まされた線と色が織りなす、圧倒的な存在感の作品を生み出し続けるイラストレーター。現在は女性向けゲームメーカー「Rejet」に所属し、主に乙女ゲームのジャンルで活動しているが、彼の活躍はひとつのジャンルに留まらない。キャラクターデザインを担当した代表的なゲーム作品に『影牢Ⅱ -Dark illusion-』(テクモ)、『VitaminX』(ディースリー・パブリッシャー)がある。また、アニメ『Dance with Devils』のキャラクター原案も手がけている。

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―― 前田さんはどのような少年時代をお過ごしでしたか。
DwW053_HirotakaMaeda_picA小さいころから「ものづくり」が好きでした。幼稚園のころからバイクや戦艦、戦車のプラモデルを作っていまして、小学校に上がるとミニ四駆やラジコンなどの製作にはまり、中学生の時にはテレビでロボットコンテストを観たことで電子工作にも熱中しました。ハンダ付けの装置や電子部品を購入し、基盤を作ることにまで挑戦しましたね。自分の中での近い将来の目標として、「俺は東京工業大学に入ってロボットを作る!」と考えるようになり、猛勉強を重ねて地元の進学校にすすみました。

―― 高校生の時も「理系少年」として過ごしていたんですか?
実は違うんです。入学してボート部に入ったのですが、その活動は非常にきつくて、練習のため片道16キロ先の海に通う毎日だったんです。帰宅するのはいつも夜10時過ぎになってしまい、疲れ果ててだんだん勉強する気がなくなってしまったんですよ。そのボート部の同級に家が近所の友人が居たのですが、高校2年生の時に彼が「美大へ行きたいから」といって急にボート部を辞めてしまったんです。彼にそんな志望があったなんて、そのときはじめて知りましたね。彼はそのまま美術部に転部をしました。

―― その影響で前田さんも美術部に入られたんでしょうか。
DwW053_HirotakaMaeda_picB2結果的にはそうなるんですが、これには少しいきさつがあるんですよ。僕も彼と時間差でボート部を辞めたんですが、かといってまだ絵にも出会ってなかったですし、将来への目標も何も持ちあわせてなかったので、毎日をダラダラと過ごしていたんです。でも、それまで通りその友人とは仲が良かったので、いっしょに帰るために彼の部活が終わるのをよく待っていました。ある日、雨が降っている中待っていた僕を美術部の顧問が見つけて、部室に招いてくれたんです。それがきっかけでその後、なんとなく部室に顔を出すようになって、その流れで「何か絵を描いてみたら」と顧問に誘われたんです。幾何形体の石膏像を試しに描いてみたんですが、当然のようにド下手なんですね。ただ、やりごたえを感じたんです。周りがみんな自分より上手いことも僕の競争心を刺激して、最終的には入部することになりました。

―― 美術部の活動で印象的だったことはありますか。
入部して3ヶ月目に学園祭があり、そこで油絵を展示することになりました。油絵具もナイフも触ったことがない状態からのスタートでしたが、完成した絵画が顧問や部員から激賞されたんですよ。これはその後の自分の絵描き人生にとっては決定的な出来事でした。めちゃくちゃ気持ちよかった。まるで自分が天才であるような気がしたんです。この体験があったからこそ今も頑張っていられるんだと思います。実際このあとすぐに、将来の目標が安易に芸術家になりました。(笑)
 
DwW053_HirotakaMaeda_picDただ、大きな挫折も経験しましたね。描き始めて半年位で京都の美術予備校が主宰する2週間の合宿カリキュラムに参加したんですが、そこには美術大学を目指しているような学生が数十人来ていて、毎回の課題が全部順位つきで発表されたんです。当然自分は下位にいるんですが、中でも透明水彩の課題がダントツの最下位だった。これがとにかく悔しくて、美術部の顧問にその場から電話で相談してたんですが、ちょうど会話の中で高校の近くに美術予備校が新しくできるということを知り、それから実際に通い始めるまでに時間はかからなかったです。そして、日曜日以外毎日通うという生活を卒業まで続けました。一回も休みませんでしたね。学校はサボってばかりでしたが、合宿で味わった大きな挫折を乗り越えるためには、これだけは是が非でもやり通したいと思っていたんです。

―― この経験をふまえて、大学ではどのように活動されたんでしょうか。
大学はなんとか美術系に進学できたんですが、正直、自分が求めていたほど競争が激しく己を切磋琢磨できるような環境じゃなかったんですよね。むしろ熱を上げたのは課外活動で、特に漫研に入ったことが大きいです。マンガにはあまり興味がなかったのですが、高校時代に友人と観た『機動警察パトレイバー2』の映画には大きな衝撃を受けていて、これをマンガで表現したいという野望を持っていたんです。いざ入部してみると、プロみたいに上手い学生がたくさんいてびっくりしました。実際今も活躍している方も結構居られます。それから村田蓮爾さんの絵に出会って「こんな表現があるんだ」と知ることができたのも重要でしたね。それまではコミケや同人誌という名前すらも知らなかったほどだったんですが、こういった出会いに大きな影響を受け、在学中はバリバリとイラストを描いていました。こういう形で表現の幅が広がったことが、いまのイラストレーターの仕事に繋がっているんでしょうね。

―― デジタルでの作業をするようになった経緯や、現在の作業環境を教えてください。
大学の課題でPCを使ったのが最初です。当時は友人からMacを借りて作業していましたが、その後Windowsを購入しました。ちょうどCGが増えてきた時期でもあって、自分でも個人ウェブサイトを開設してそこにイラストを載せていました。DwW053_HirotakaMaeda_picE本格的に作業するようになったのは大学卒業後2年ほどして、エニックスの企画に参加したときですね。その仕事でデジタルで作業する力が非常に鍛えられました。その後2005年に『影牢II -Dark illusion-』、2007年に『Vitamin X』といったゲームのキャラクターデザインを担当して今に至っていますが、技術については全て現場でやりながら模索しました。
プロとして活動を始めたのはさきほど述べたエニックスの企画のころですが、当時の作業環境はPCにワコムのペンタブレット、そしてPhotoshopとPainterでした。ペンタブレットについてはArtPad時代からのユーザーで、新しいものが出るたびに導入してきました。
現在はWindowsのPCとSAIが基本的な環境です。また機材はCintiq 27QHD touchに加え、確認用のモニターを2台設置しています。色味や全体像を常に確認しながら作業したいと考えた結果、このスタイルに行き着きました。作業はデジタルで完結しており、ラフから彩色まで全てCintiq上で行っています。Cintiqの使い心地には非常に満足しています。

―― イラスト制作時に気をつけていることや大切にしていることはなんですか。
DwW053_HirotakaMaeda_picFキャラクター絵の場合は、キャラをどう見せたいか、見る側にどう感じて欲しいかを考え、技術が先に見えてくるような絵にはしない、ということです。先ほど紹介したように、エニックスの企画に参加してから『VitaminX』の制作に入るまではずっと3D関連の制作をしていた関係で、曖昧さの許されない仕事をしていたんです。しかし2Dの絵では3Dの時と同じ考えでやってもいい絵にならないなと関わりながら思っていました。それでは僕が求める「色気」が出てこない。それを出すために、必要ならあえて平面っぽく描いたり、意図した曖昧な部分を絵の中に残すことで、見る人が何らかの味わいを発見できるようにしたかったんです。語弊はあるかもしれませんが、日本人特有の細かいニュアンスや感情や曖昧さを表したいというんでしょうか、それを表現したいと思っていました。

―― 今回は「塗りコンっ!!」としてのご参加でしたが、ご感想はいかがですか。
たいへん面白かったですね。他の人に着色をお願いしない場合は、僕は完成線画を作らないまま塗り始めるんです。なので今回の撮影では線画制作のために工程を改造しているんですが、このことで自分が何にこだわっているのかを、見直すことができました。自分のカラー絵は、線と塗りが合わさって完成絵であって、線画のみで世間に発表するというのは塗り絵企画とはいえ初めての体験でした。しかも普段の製作時間よりずっと少ないという。もし今後もこういう制限があった場合はどういう絵を目指すべきかを考えることができました。この企画がない限りは考えるきっかけが無かった気がしますし、今後も考えて行きたいと思いました。塗りコンに参加されたみなさんがそういうところも味わっていただけると嬉しいですね。

―― 最後に、今後の展望や読者へのメッセージをお願いします。
『VitaminX』以降は2D制作を中心に続けてきました。それから10年くらいが経過しているので、今はまた少しアプローチを変えて制作に打ち込んでみたいという気持ちがあります。DwW053_HirotakaMaeda_picCそれで絵がおとなしくなったら困るんですが、また違う「色気」と「技術」のバランスを見つけてみたいです。それと、アナログ制作にも興味を持っています。自分の描き方はデジタルなのにアナログ的なところがあるんですが、それが完全にアナログに戻ったらどうなるか。そういう学びをこれからも続けていきたいです。
それから若いイラストレーター(志望)のみなさんに伝えたいんですが、この職業は身体が資本ですから、早いうちに保険の使える診療院を見つけて、身体を痛める前に日頃からケアをするように声を大にしていいたいです。値段がかかるマッサージだと経済的理由で後回しにして後々痛い目を見るというのを、この歳になると結構な数を自分自身含めて見てきました。長く活動していれば必ず何かのチャンスがめぐってくるので、身体だけは大事にしてほしいですね。
 
 
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©Bonten/Wacom

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