2013年07月25日(木)

藤津亮太のアニメ時評
帰ってきたアニメの門 第13回
『ONEPIECE FILM Z』

アニメの門
 

アニメ映画のブランド力とは

 
 2012年のアニメ映画は公開本数が多かった。そして本数が多いだけでなく、その内実もまた豊かだった。
 TVでの人気を背景に持つ再編集作や新作映画だけでなく、実質オリジナルに近い小説原作、そして完全オリジナル企画までその内容は実に多様だった。さらに監督も70代の大ベテランから、映画初監督の若手まで幅広かった。日本の商業アニメの層が十分に厚いことが実感できる1年だったといえる。
 そして特筆すべきは、ヒット作が多かったという点が挙げられる。まず定番ともいえる『名探偵コナン』『ポケモン』が30億円を超えている。『ポケモン』は例年と比べるとやや物足りないものの、邦画全体を見れば十分大きな数字だ。そして2012年はそこに加え、『おおかみこどもの雨と雪』『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』『ONEPIECE FILM Z』の3本が40億円を超えるヒットとなった。しかも『ヱヴァ:Q』と『Z』は50億円も超えている。この規模のヒット作がここまで並ぶのは珍しい。
 
 この3作のヒットは、2012年単独で起きた出来事ではない。いずれの作品も、ホップ・ステップ・ジャンプのジャンプが2012年に当たったことで、画期的な数字を記録したのだ。では“ホップ・ステップ・ジャンプ”とは何か。それは「ブランド」の確立と言い換えることができる。
 アニメ映画のヒットにおいて、ブランドの確立は非常に重要だ。ブランドを確立していることが「アニメに嫌悪感を持たない一般層」を取り込むことにつながり、興行の裾野が広がることになるからだ。
 ではアニメ映画におけるブランドとは何か? これはなかなか難しい問題だが、ここでは「そのアニメ映画を見たときに味わうと予想されるテイスト」と定義する。これは継続の中ででしか生まれないし、このテイストの予期を担保するのは「(シリーズものであれば、原作を含めた)作品タイトル」「(作り手の代表としての)監督」「物語のジャンル性」になる。
 もちろん実写映画でも、この3つの要素がブランドとして働いてはいる。だが実写の場合、なんといってもキャストのブランド力が観客を映画館へと導く力となっている。逆にアニメの場合はキャストに相当する部分のブランド力は弱く、その分「監督」「作品タイトル」「物語のジャンル性」が担う比重が高くならざるを得ない。そしてこの3つは、キャストの訴求力ほど、ストレートな訴求力を持たない。
 そうした状況にあって、『ヱヴァ:Q』はそのタイトルが持つブランド力(旧シリーズから引き続いている、圧倒的なビジュアルと謎を予感させるタイトルであること)、『おおかみこども』は細田守監督の名前の持つブランド力(それは『時をかける少女』『サマーウォーズ』の満足度によって形成された)の後押しによってヒットとなった。
 特に、細田監督のブランド化は、映画公開と先行して発売された、監督本人による小説版がベストセラーになったことからもわかる。
 
 逆に原作という強いブランドを持ちながらも、なかなかそれを利用できなかったのが、過去の『ONEPIECE』の映画だ。2000年に東映アニメフェアの1本としてスタートした劇場版の興行成績はじわじわと右肩下がりとなり、それを仕切り直したのが、2009年の『ONE PIECE FILM STRONG WORLD』だった。
 ここで行われたのは、長期連載で広範囲に読者を持つ原作のブランド性と、あくまでTVアニメの延長線上で考えられていた劇場版のブランド性のすりあわせだ。具体的にはそれは、原作者の尾田栄一郎の積極的なコミットを打ち出すことで、劇場版のブランドを原作に近づける形で行われた。劇場で配られたコミックス「ONE PIECE 巻零」も、原作は好きでも「アニメは子供向け」という印象で劇場に足を運ばなかった原作ファンを、劇場へと誘うという形で、劇場版のブランド性の再構築に寄与していたアイテムと位置づけられる。
 原作の長期的人気を「ホップ」、『STORING WORLD』での原作ブランド再構築を「ステップ」とすると、今回の『Z』が「ジャンプ」に当たる。そしてその通りの結果が興行に現れている。
 だが、単に原作とひもづければブランドの再構築ができるわけではない。
 たとえば『Z』は、ゲストキャラクターZの生き様を縦軸に、それを目に楽しいアクション作画を中心とした豪華なビジュアルで見せる内容。ここには原作『ONEPIECE』の魅力として端的に語られる「かっこいいバトル」と「泣ける物語(浪花節)」が凝縮して詰め込まれている。
 ジャンプの成功には、この「凝縮」が大きな働きを果たしている。
 『STRONG WORLD』以前の劇場版にも「かっこいいバトル」と「泣ける物語」は存在するにはしていた。だが総じていえば、物語もビジュアルも「密度」が子供向けの枠内として薄められた作品が多かった。そこを凝縮することで、誰もが見たいと思っている『ONEPIECE』が出来上がったのだ。『Z』の開巻と終幕の語り口がかなり大人っぽいカット繋ぎになっていたのも「凝縮」の一環といえる。
 
 『ONEPIECE』のようなビッグタイトルの劇場版が、一般性を持った(デートムービーの選択肢に入ってくるような)映画として作られるのは極めて正しい。『Z』は、『ヱヴァ:Q』とも『おおかみこども』とも異なる、正統的な大衆娯楽映画としてのアニメの可能性を実感させてくれた。

文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota
初出:2013年1月30日

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