2013年07月26日(金)

藤津亮太のアニメ時評
帰ってきたアニメの門 第14回
『ドキドキ!プリキュア』

アニメの門
 

キャラクターを彩る「色」の個性

 
 アニメにとって色とは何か。煎じ詰めるとそれは「光」と「キャラクター」ということができる。
 我々が見ている色というのは多くの場合、「そのもの自身の色」と「そこに当たる光の色」で決まる。だからアニメの場合は逆に、そのキャラクターに塗る色を変えることで、光の状態を表現する。たとえば『風の谷のナウシカ』の序盤でナウシカが胞子を採集する場面。胞子の光によって照らされた部分を、明るい色に塗っている。さらに胞子の移動とともなってこの明るい色の範囲が変化することで、光源の移動も表現している。映像を見ると、まるで本当にそこに光があるように感じられるシーンだ。
 光が「色使いの変化」によって表現されるならば、キャラクターは「色使いの一貫性」によって表される。
 2011年の「日経エンタテインメント!」に「戦隊モノ、アイドル…、グループにおける色と役割の関係」という記事がある。同記事が日本人の色の一般的なイメージをあげて「これは1975年から2年間放映された特撮ドラマ『秘密戦隊ゴレンジャー』(テレ朝系)の影響にほかならない。性格を象徴する色分けキャラクターをこの番組が作ったのだ」とリードを結んでいる。
 記事に引用されている日本人の色の一般的なイメージは次のリストの通り。
 
 赤/生命力、行動力、元気、攻撃、怒り
 青/理性的、誠実、冷静、慎重、信頼感
 黄/明朗快活、希望、健康的、楽天的、好奇心
 緑/平等、安全、社会性、我慢強さ
 ピンク/円満、依存、優しさ、甘え
 紫/神秘的、非現実的、優雅、高級感
 白/潔白、純粋、理想、幸福、真実
 黒/重厚、力強さ、隠蔽、威圧、恐怖
 
 もちろん「日経エンタテインメント!」の記事のいう通り、35年以上続くスーパー戦隊シリーズの影響も多少はあるだろう。だが、リストを見ればわかるが、スーパー戦隊シリーズでの色使いも含め、色に関するイメージはもっとプリミティブな印象に根ざしている。
 プリミティブな印象というのは「子供のお絵かきの時の色の選択」を考えればわかる。たとえば赤は太陽の色。そこから炎、情熱、行動といったイメージが連想される。
 同様に青は水や氷の色、黄色は月の光や柑橘系の果物だし、緑は葉っぱの色だ。そうした、その色が代表する事物の持っている要素がイメージの形成に強く反映している。
 もちろんこれらのイメージは日本国内の文化的なコードにも縛られている。そもそも太陽を赤で塗る習慣や、月の色も黄色を当てはめるのは日本のイメージ。世界各地を見るとむしろ太陽は黄色、月を白に塗る例が多く見られる。
 また紫は「青と赤の中間」という、いわばどっちつかずで正体が捉えきれない感じが「神秘的」なイメージに繋がっている一方で、「高級感」については各国で王族などが身にまとってきた色であることに由来しているようだ。
 以上は色相とイメージの関連だが、イメージを決定づけているのは、色相だけではなく、「明度」「彩度」の要素も関わってくる。カラーコーディネートの世界ではこうした要素も組み合わせて色をコントロールする。
 たとえば人は、明度が高くなると(色相が白っぽくなっていくと)軽く感じ、明度が低くなると(色相が黒っぽくなっていくと)重く感じる修正がある。
 また低彩度(灰色に近い)の色では明度が低くなると「固く」、明度が高くなると「柔らかく」感じる。
 ピンクに「円満」「優しさ」のイメージが入ってくるのは、この固い色/柔らかい色の分類で「柔らかさ」を感じさせる側の色だからだろう。未就学児童に「女の子らしい色」と受け止められる一因もそこにあるのだろう。
 さらにいうと色相が緑でも「軽い色」「柔らかい色」の方向に振るか、「重い色」「固い色」の方向に振るかでイメージが微妙に異なってくる。軽い色」「柔らかい色」であれば「葉っぱ」「風」といったイメージに近づくが、「重い色」「固い色」であれば「樹木」「大地」というイメージに近づく。この差も、色によるキャラクター表現のポイントとなる。
 以上、大まかに色がキャラクターとして機能するための背景を解説してみた。
 
 たとえばこうした色が持つイメージは、キャラクターと色の関係が前面に出た「プリキュア」シリーズなどだけでなく、さまざまな作品のキャラクター表現に見られる。同じ茶系統の髪の毛の色でも、冷静なキャラクターは青系に、情熱的なキャラクターは赤系統に、一癖あるキャラクターは紫系統とちょっとずつ色味が違っていたりするのである。このあたりの微妙な采配が可能になったのは、仕上げがデジタル化され、使用可能な色数が爆発的に増えたこととも無関係ではない。
 ちなみにキャラクターのバックグラウンドが、これまでのプリキュアと違っていることが話題を呼んでいる『ドキドキ!プリキュア』だが、色使いの点でもなかなか興味深い。
 ポイントは二つ。まず一つは、初期メンバーの段階でイメージカラー(ここ重要)が紫のキュアソードがいること。二つ目は、イメージカラーが赤のキュアハート(相田マナ)の髪の色。変身前の髪は赤なのに、変身後は黄色になる。
 まず、キュアソードについては、侵略されたトランプ王国から逃げてきたプリキュアという設定。この異世界人という神秘性故に紫が選ばれたのだろう。
 キュアハートの髪の色について、歴代プリキュアを調べてみると、変身前後で髪の毛の色が同系色でなくなるのは、『スイートプリキュア』の2人と『フレッシュプリキュア』のキュアパッションがいる。
 キュアパッションは、もともとが敵の仲間から翻身してプリキュアとなるキャラクター。変身前が濃い紫で、敵キャラ・イースの髪が薄い水色で、キュアパッションがピンクというコントラストの中間的な色になっている。このキャラクター設定上、髪の色が変身前と変身後で異なるのは必然ともいえる。
 一方、『スイートプリキュア』の響と奏は、どちらも茶系統というリアリズム寄りの色から、赤と黄色に変化する。こちらは「変身」のイメージを強く打ち出した、髪の毛の色の変化である。
 赤というイメージカラーが変身後の髪の色に引き継がれないキュアハートは、これまでにいなかったプリキュアといえる。この色使いに設定的な仕掛けがあるのかないのかは、今後のシリーズを注視するしかないが、一ついえるのは「変身前後ともに髪の毛の色が赤」の主人公は、これまでに既に3人(キュアハッピー、キュアブロッサム、キュアドリーム)いるということ。
 プリキュアが勢揃いする映画『オールスターズ』シリーズの存在もあることも考えると、現時点では、キャラクターのバックグラウンドにひねりが加わったように、歴代赤系主人公との差異化もまたこの髪色の理由の一つではないだろうか想像される。
 以上、色使いの点でも『ドキドキ!プリキュア』はなかなか新鮮な印象のシリーズ最新作なのだった。

文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota
初出:2013年2月27日

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