2014年03月07日(金)

藤津亮太のアニメ時評
四代目アニメの門 第8回
『ガンダムビルドファイターズ』

アニメの門

親子二世代へのメッセージ

 『ガンダムビルドファイターズ』はとても明朗な作品だ。キャラクターたちが向日性の性格をしているというのもあるが、それ以上に作品の湿度が低くカラリとしている。だから、想定通りのドキドキハラハラに身を委ね、見応えあるメカシーンを堪能して「あー、おもしろかった」と番組を見終えることができる。この爽やかな視聴感に週一回身を委ねるというのは、実に正しくTVアニメ的な楽しみ方だ。
 
 『ガンダムビルドファイターズ』のこの明るさは、本作が扱う「ガンプラバトル」という題材と結びついている。「ガンプラバトル」とは、プラフスキー粒子の力を借りて自作のガンプラを操縦し、それでバトルを行うホビーの一種だ。発想の原点が、ガンプラを中心にさまざまなプラモがバトルを行うマンガ『プラモ狂四郎』(やまと虹一、原作:クラフト団)にあるのはいうまでもない。
 
 おもしろい一致がある。
 ジャン・ピアジェというスイスの心理学者が、遊びと発達の関係の分類を行っている。そこで彼は乳児期、幼児期を経て児童期(小学生)になった子供の遊びとして二つの遊びを挙げているという。
 一つは「ルールのある遊び」。それまでは好き勝手に遊んでいたのが、ルールに縛られて遊ぶことにおもしろさを覚えるようになるという。もう一つは「構成の遊び」。これは「工作の遊び」ともいわれ、子供はより精緻な模倣を目指すようになり、ずばりプラモデル作りなどがこれに相当するという。
 奇しくも、この児童期の遊びの二タイプは「ガンプラバトル」とぴったり重なっている。つまり「ガンプラバトル」の世界は、子供が自然に受け止め、魅力に感じる要素でできているということでもある。幼児が玩具を手に持って戦わせる、いわゆる“ブンドド”と呼ばれる行為を、ルールの縛りがあるホビーのように偽装したのが「ガンプラバトル」ということができる。
 
 どうして“ホビーのように偽装”というのか。確かに『ガンダムビルドファイターズ』は、ガンプラを売ることを第一の目的にした作品だ。その点で、カードゲームなどを中心に制作されているホビーアニメの一バリエーションと考えることができる。
 だが、通常のホビーアニメと『ガンダムビルドファイターズ』には大きな違いがある。
 通常のホビーアニメはそこに出てくるゲームなどの遊びが(演出を加えて表現されているにせよ)実在のものであるのに対し、「ガンプラバトル」はその遊びそのものが虚構の存在であるという点だ。
 
 「ガンプラバトル」はそれが虚構であるから、視聴者はそこでの興奮を具体的に我がこととして実感するのは難しい。もちろん、番組の合間に宣伝される商品にはガンダムをカスタマイズして戦わせるゲームもあるわけだが、それにしてもカードゲームを扱ったアニメのように、劇中とイコールのルールで遊ぶわけではない。
 さらにいうなら、主人公たちがバトルで使うガンプラは、それぞれが工作技術を駆使してカスタマイズしたという設定だが、工作シーンの具体的な映像もあまり画面に登場しない。そこにガンプラ豆知識的なノウハウがのせられることもない。
 つまり、多くのホビーアニメにおいてはホビーそのものが具体的に現実との接点になっているのに対し、『ガンダムビルドファイターズ』はその具体性を欠いているのだ。その結果、映像では「ホビーの楽しさ」が非常に強調されることになる。『ガンダムビルドファイターズ』の抜けるような明朗さはここから生まれてくるのだ。
 そして「ホビーの楽しさ」は、「ガンプラへと向かうキャラクターの姿勢」と関連づけて描かれる。『ガンダムビルドファイターズ』のテーマはそこに込められている。
 
 『ガンダムビルドファイターズ』が描く、ガンプラに向かう姿勢は二つ。一つは「本気であること」。もう一つは「楽しみ方を決めつけないこと」。この二つはそれぞれ「遊びだから本気になれる」「ガンプラはどんな自由な発想で作ってもいいんだ」というセリフの形で本編中にしっかり盛り込まれている。そしてこれはホビーとしての具体性を欠いているがゆえに、「ガンプラ」という枠組みを超えてホビー全般に通じるメッセージとなっている。
 ここで思い出すのは『ガンダム』は、アニメとしては実質的に初めての二世代キャラクターになった題材だということだ。先行するいくつかの作品はあるが、キャラクターだけでなく親子で世界観や細部の設定まで共有しているものは少ない。『ガンダムビルドファイターズ』はそんな親子二世代を視聴者として想定し、年長のキャラクターを想定し、大人向けのクスグリなどもポイントポイントで忍ばせている。
 
 さきに『ガンダムビルドファイターズ』は現実との接点となるホビーの描写が具体性に欠けると書いた。だがより大きな視点に立つと、実は『ガンダム』シリーズという題材そのものが、具体性をもって現実と呼応しあっているのである。
 とすると「遊びだから本気になれる」「ガンプラはどんな自由な発想で作ってもいいんだ」というセリフは、子供だけでなく、大人になってもまだ『ガンダム』が好きなお父さん世代のファンに対してもまた投げかけられているということになる。
 シンプルなバトルものに見える『ガンダムビルドファイターズ』だが、その裏側には、子供時代のかけがえのない趣味との出会いと、年をとっていく中でどう趣味を楽しみ続けていくか、という二方向のメッセージがさりげなく読み取れるのである。
 

文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota

関連リンク

四代目 アニメの門