2015年05月01日(金)

藤津亮太のアニメ時評
四代目アニメの門 第22回
「アニメーション制作者 実態調査報告書2015」

アニメの門

アニメ業界の「実態」

 一般社団法人日本アニメーター・演出協会(JAniCA)は2014年に、アニメーション制作者の仕事や生活の現状を明らかにする調査を行った。この結果が「アニメーション制作者 実態調査報告書2015」として発表された。この報告書の全文はJAniCAのサイトでpdf形式で読むことができる。
 この調査は文化庁「次代の文化を創造する新進芸術家育成事業」の支援を受けて、公益社団法人日本芸能実演家団体協議会(芸団協)とJAniCAが行ったもので、JAniCAとしては「アニメーター実態調査2009」に続く調査になる。
 今回はこの調査から興味深いポイントを拾っていきたいと思う。だが、その前に当欄の基本的な考えを先に記しておこう。
 
【1】一般論として(ひとことに制作者といっても多種多様なので)アニメ制作者へのギャラはその能力のレア度から考えてもっと高くてよい。ただ現状の数字は、搾取の結果ではなく、低い制作費(=低い利益)を武器にアニメが生き延びてきたことで固定化した構造の問題なので、構造をどう変えるかがポイント。

※『ウルトラマンが泣いている――円谷プロの失敗』(円谷英明、講談社新書)によれば『ウルトラマンティガ』は1話分の制作費が3000万円だったという。これはTVアニメのおよそ倍。スポンサーから出る制作費で足りない分は、マーチャンダイズで埋めていたという。ここに特撮番組が増えず、有名キャラクターものばかりが制作される背景があると考えられる。アニメは、制作費が安かったのでなんとかTVメディアの中でそれなりに数を保って現在に至る。

 
【2】公的な支援は、この構造変化を促すところに投じるべき。ネットで、スタッフの収入の補助云々という意見も見かけるが、収入に直接外部の資金が投じられると、公的資金がないと自立できなくなってしまうので(構造変化を促さないので)悪手である。
 
【3】構造変化を促す要素としては 消極的な方向として「減税による制作会社・スタッフの支援」、積極的な方向として「制作会社が権利を持った作品を制作できるようにする支援」「同じ予算内で利益を最大化するための生産工程の“カイゼン”支援」などが考えられるのではないか。

※「クールジャパン政策」はアニメなどの海外セールスにまつわる経産省のマターなので、業界支援施策全般にも「エンタメ強化政策」といった名前をつけてある種の“ブランド化”が必要に思う。

 
 あくまで普段の制作工程の取材の中で感じた範疇から感じたことのまとめではあるが、当欄はそのような考え・スタンスの中で報告書を読んだ。
 
 
 今回の調査は2014年8月1日から9月30日までの2ヶ月間で、調査票は郵送または手渡しで配布された。有効回答数は759部(回収率28.6%)だった。調査対象となった職域(職種)は次の通り。
 シナリオ・絵コンテ・監督・演出・総作画監督・作画監督・原画・LO&ラフ原画・第二原画・3DCGアニメーション・動画チェック・動画・色彩設計・仕上げ・美術監督・キャラクターデザイン・背景美術・版権・撮影・編集・プロデューサー・制作進行・そのほかの従事者。
 
 今回読むのは第5章「アニメーション制作者の収入と支出」とそこに関係する部分だ。調査の対象は多数の職種にわたっているが、話を絞るため各論はアニメーターに注目していく。
 本文によると、アニメーション制作者の平均年間給与(2013年)は332.8万円。報告書には「『平成25年分民間給与実態統計調査 調査結果報告』によると、民間の事業所に勤務している給与所得者の1人あたりの平均給与(2013年)は414万円となっており、アニメーション制作者の年間給与は全国平均値と比べると、約81万円低い」と記している。
 これについて巻末の「附表 職種別クロス集計」を見ると「平均」だけではわからない状況がよくわかる。
 アニメーター関連の項目を拾う。
 

  総作画監督 : 563.8 万円
   作画監督 : 393.3 万円
     原画 : 281.7 万円
   LOラフ原 : 234.1 万円
   第二原画 : 112.7 万円
 動画チェック : 260.7 万円
     動画 : 111.3 万円
キャラデザイン : 510.4 万円

 
 「附表 職種別クロス集計」は「最も大きく収入を支えた職種」でまとめてあり、広く原画マンと呼ばれる範囲を「原画」「LOラフ原」「第二原画」にわけて集計している。

※第3章の最初では職種の相関が検証されている。
※附表の欄外にあった「最も大きく収入を支えた職種」で掲載しているという記述を見落としていたので、関連する部分を修正しました。

 
 この数字を見ると「アニメ業界の賃金が極端に低い」というニュースが流れるごとに、アニメ業界の人から「それなりにキャリアを積めば人並みの生活をすることはできるし、かなり稼いでいる人もいる」という“訂正”が出てくる背景が見えてくる。調査結果を見るとまず、原画で稼げるようになれば業界の平均が見えてくる。そして作画監督や総作画監督・キャラクターデザインなどの仕事をするようになれば、一般のサラリーマンの平均かそれ以上の収入になるらしいことも読み取れる。
 もちろんこの数字がその能力のレア度、労働時間の長さから考えるともっと高くてもよい、ということは前提で書いた通り。
 だがそれは別とすると、ニュースの見出しにとられる「111.3万円」の数字(たとえばNHKニュースの「アニメ若手制作者 平均年収は110万円余」)は調査が示している実情の一部へと視線を誘導してしまっていることがわかる。
 
 また、調査では「拘束/拘束料」についても回答を募っている。拘束というのは、社員ではないが特定のスタジオ・会社に席を持ち、そこの会社(あるいは作品)の仕事を優先的に引き受ける契約のことだ。
 第4章「アニメーション制作者の働き方」の中には、「契約社員」「フリーランス」「自営業」と回答した者(有効回答中の574回答)に、拘束契約でもっとも多いケースを「完全拘束」「半拘束」「拘束なし」「その他」の中からひとつ選ばせるという質問がある。
 それによると、
 

 完全拘束 : 31.9 %
  半拘束 : 17.4 % 
 拘束なし : 46.5 %

 
 そして第5章では完全拘束・半拘束の者に「一ヶ月あたりの拘束料収入」を尋ねている。こちらは平均20.89万円。ただし割合を見ると「5万円以下」が14.9%で一番多く、「15万円超20万円以下」が13.0%。「5万円超10万円以下」が11.5%となっている。概略をいうと、およそ60%が「20万円以下」で、およそ40%が「20万円以上」となっている。
 さらに職種別に見ると、
 

 総作画監督 : 26.0 万円
  作画監督 : 23.0 万円
    原画 : 27.6 万円
    動画 : 3.2 万円

 
 となっている。
 こうして見ると、動画の期間をなんとかしのいで、原画になり拘束してもらえるだけの実力をつけ、作画監督の依頼も来るようになる――というのが、“人並み”の生活ができるアニメーターのキャリア形成である、ということが見えてくる。逆にいえば、こうした実力がある人だけがアニメーターとして生活できるのであって、そこに何か足りないものがある人は“向いていなかった”ということになる(もちろん例外はあるだろうが、それをベースに全体の制度設計を考えることはできないはず)。
 
 とすると問題は、このキャリアパスがうまく機能しているかどうか、ということになってくる。
 そして、取材などで聞く問題点をあげていくと――
 
【A】動画では生活が成り立ちづらいために、志望者が減る・脱落者が出る。
【B】動画から原画になった後、原画として力を伸ばす環境があるか。

※これについては、動画向きの人が動画のスペシャリストとして生活できるだけの単価が用意されるべきという問題提起もあるが、ここでは話題が拡散するので指摘するに留める。

 
 ということになる。
 【A】は、煎じ詰めると「アニメーターとして生き残ることができる人をちゃんと選別してリクルートできるかどうか」という問題に行き着く。「門戸をなるべく広げてリクルートし、その後に適性が見極められる」という方法は、適性に応じて配置転換で対応できる社員ならともかく、フリーランスが前提となる専門職の業界では志望者のリスクが高すぎる。なんらかの方法で志望者を選別できれば、才能のとりこぼしも減るし、育成費のような形で生活を支えることもできるのではないか。
 もちろんそれができる会社は限られるだろうが、とするとここに公的支援が関与する意味ができるのではないか。
 【B】については、現状の「信頼できる原画マンが少なすぎる」「そのフォローを作画監督が引き受け、オーバーワークになっている」という指摘の裏表といえる。また取材で「原画になったけれど、そのタイミングでフリーになったので見よう見まねでタイムシートをつけていた」などの話を聞いたこともあるし、現状の単価では「何度もリテイクを出して直させることは(実力向上にはつながっても)難しい」という指摘もあった。
 しかし「戦力になる原画マンをいかに育てるか」は単に作品のクオリティを守るだけでなく、業界で生きていくキャリアパスを業界内外に明確にしていく役割も果たすはず。
 現状では教育しても、フリーであることがデフォルトの業界では(業界のためにはなっても)会社のためにはならない、という部分があるわけで、とするとここにも公的支援が関与する余地があることになる。
 昨年来、3DCGアニメの普及の影響について、アニメの門チャンネルの配信などで「社員中心の3DCG業界の台頭は、フリー中心の手描きアニメ業界にとって雇用面の影響こそ大きくなるのではないか」と話したことがある。そして【A】も【B】も、社員化によってクリアになる側面は少なからずある。もちろん一足飛びの変化はやってこないだろうが、業界の先行きに危機感が日々募っている現状では、雇用・育成について発想の転換で臨む制作会社が増えてきてもおかしくはないのではないか。
 
 
 今回の報告書を読んで以上のようなことを考えた。
 なお報告書の第7章は「アニメーションの多声性」と題して、各質問に関する自由記述の回答をまとめている。業界の人々の思いがストレートに綴られていて興味深い。当然、厳しい状況を嘆いたり厳しく問題を指摘するコメントも多い。
 だが一方で第6章「アニメーション制作者の就業意識」を見ると以下の通りの結果がある。
 たとえば、「仕事を継続する理由」の回答として第4位に「自分の才能や能力を発揮するため」(30.2%)がある。これは『国民生活に関する世論調査』(2014、内閣府)における同様の質問の回答と比べると、21.4ポイントも高い。また「今後の仕事計画」については、61.7%が「働ける限り、アニメーション制作者として仕事を続けたい」と答えている。
 この二面性がまさにアニメ業界の「実態」なのだと思う。
 

文:藤津亮太(アニメ評論家/@fujitsuryota

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